ブラック化を招きかねない10のポイント(6)

ブラック化を招きかねない10のポイント(6)

 

(5)より続く。

 

10.企業としての価値観が共通されていない

 

企業としての価値観が共有されていないことには、いくつかの種類があります。

まず、価値観が見当たらない状態です。次に、価値観が経営者の個人的な好みに過ぎない場合があります。そして、上から押し付けた価値観だけで、現場で機能していない状況も指摘できます。さらに、企業として共有された価値観が一見あっても、多様性に欠けるものもあります。

 

第一は、そもそも、これといった価値観がない状態です。

明示的か黙示的かはともかく、多分、たいがいの企業は何らかの価値観をもっているはずです。しかし、なかには、企業としての価値観がこれといって共有されていないものがあるかもしれません。

典型的なのは、諸々の事情で経営者が頻繁に替わり、社員は取り敢えず当面の処遇が保証されていれば、それでよしとしているような企業です。こういった会社では、金銭(処遇)しか社員と組織を結び付けるものがなく、社員相互や経営者と社員を統合する力が弱く、組織が自然にバラバラになってしまう恐れがあります。

ひとたび危機が訪れると、整理解雇などしなくても社員がスーッと辞めていきます。社員だけでなく、顧客や取引先も、何かあると逃げ去るように消えてしまいます。

さすがに、こうした企業に直接、遭遇する機会はあまり多くはありませんが、企業としての価値観が経営者の価値観と同一視されてしまい、それを組織に無理やり押し付けようとする企業には、時々お目にかかることがあります。

これが第二のパターンです。

極端なケースでは、オーナー経営者の著作物をバイブルさながらに扱ってその内容を暗記させるとか、入社式や年初のキックオフミーティングで社長への忠誠を誓わせるといった、耳を疑いたくなるものもあるようです。

こうした企業では、当然予想されるように、上級幹部ほど経営者の取り巻きに過ぎず、本当にイエスマンだらけになってしまいます。

第三の上からの押し付けですが、これは、価値観自体は経営者個人のものではなく、組織として共有しようとするものです。ただ、そのことが自己目的化してしまうと、困ったことになります。

いわゆる経営理念やビジョンなどを高く掲げて、それらを浸透させようとして、さまざまなトレーニングやプロジェクトを実施するのはいいのですが、具体的な事業の目標・方針・戦略などはなく、経営資源の適正な配分もないまま、仕事は社員任せでは、現実のビジネスはうまくいかないでしょう。こうした企業でよく見られるのは、信賞必罰の理念の下、罰(降格、賞与カットなど)だけは、きちんと下されることです。これでは、社員はたまったものではありません。

また、理念(ビジョン)策定プロジェクトに加わるなどして、経営理念やビジョンを固く信じている社員と、それほど強い確信を持っているわけではない社員がいる場合、前者が後者を「粛清」することが十分に起こりえます。「事業がうまくいかないのは経営理念(ビジョン)をちゃんと理解していないからだ」と前者が公然と非難することもあるでしょうし、後者が「とてもついていけない」と感じて自ら退職していくこともあるでしょう。

これが、第四の多様性に欠けた価値観が共有されているケースです。

経営者にとって、均質な価値基準しかもたない組織というのは、居心地がいいかもしれません。しかし、実は危険で、事業を失敗するリスクが高いことを認識しておきたいものです。こうしたモノカルチャーな組織では、組織内の同調圧力とも相俟って、異論や反論が出にくく、まともなディスカッションが成立しない風土になってしまいます。これでは、事業にとって最も恐れるべき情報遮断が生じかねません。特にネガティブな情報ほど、社内に適切に取り込めず、気づいた時には顧客や取引先が逃げた後という状況に直面してからでは、もう打つ手はないでしょう。

 

企業としての価値観が現に共有されている組織というのは、一例を挙げれば、

「○○らしさ」という言葉が自然と社員の会話の中に出てくるような会社です。ここで注意したいのは、第三者的に「○○(会社名かブランド名)らしさ」と表現している点で、○○のところが「うち(自社という意味)」というような一人称で表現されている場合は、共有された価値観ではなく、テリトリー(縄張り)の意識が出ているのではないでしょうか。

したがって、理念やビジョンを振りかざさなくても、日常の仕事の中でアルバイトやパートタイマーの間からも何気なく「○○らしさ」といった表現が出てくるかどうかが鍵です。

また、危機に陥った時にこそ本音が出るので、それが日頃、経営者や役員・管理職が言っていることに合致しているかどうかも重要です。特に、業績が悪い時、不祥事など大きなトラブルが発生した時にどのように対応したかで、企業のもっている価値観が、意図するしないにかかわらず、表現されるのではないでしょうか。顧客第一といっていても、リコールが遅れて被害者が出るようなことをしていては、価値観は共有しようがありません。

  

(以下、続く)

 

 

 

作成・編集:調査研究チーム(20153月23日更新)