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「働き方改革」の実際(7)

「働き方改革」の実際(7

 

 「働き方改革」をめぐるプロジェクトがうまく進み、それなりの成果を挙げることができるようになったのであれば、そのプロセスで得たノウハウや仕組みを更に活用して、自社のビジネスを発展させることも可能です。ここで「働き方改革」のプロジェクトは経営ノウハウ化のステップに至ります。

 

1.問題となる事実を認識する(問題認識

2.事実から解決すべき課題を抽出する(課題抽出)

3.課題を解決する代替案を考え出す(解決案立案)

4.課題解決案を実行する(解決案実施

5.     結果を測定し必要な措置をとる(結果測定)

6.   課題解決案を体系化しさらに活用する(経営ノウハウ化)

 

 こうしたものの代表的な事例として、(5)で言及した、株式会社星野リゾートHILLTOP株式会社、石坂産業株式会社、株式会社船橋屋などがあります。また、「働き方改革」を実現するうえで必要不可欠なITの導入・活用や組織改革を含めて広くワークスタイル変革を進めてきたサイボウズ株式会社(注8)も、よく紹介される会社なので、ご存じの方も多いでしょう。

 

さて、宿泊業、特に旅館業といえば、最も旧式な日本的経営が今でも続いているところもあるように言われる業界です。

そうした業界にあって、星のやを運営する星野リゾート株式会社は、従業員のマルチスキル化(営業・フロント・客室・飲食などの職務毎に特化した人員配置を廃して、一人の従業員が複数または全ての職務を担当できるようにすること)及び従業員の自主性を引き出すマネジメントスタイルに改革することで、「働き方改革」を実現するとともに、その手法を他の宿泊施設にも適用することで、数多くの旅館を再生してきた実績があります。

同様に、旅館業である元湯陣屋(神奈川県)についても、当コラムで以前ご紹介したこと(注9)があります。こちらの特徴としては、使いやすいITツールを活用した事務処理の効率化、営業日数の短縮化による営業効率向上、従業員のマルチスキル化の3点があげられます。これらは、他の企業、特に中小のサービス業で容易に導入することができそうです。

 

「働き方改革」というと最近の動きのように思われるかもしれませんが、実は3040年以上も前から「働き方改革」と呼べるような取り組みに挑戦することで発展してきた企業もあります。旅館業でいえば、株式会社加賀屋(石川県)(注10)です。

同社は、“笑顔で気働き”をモットーに能登半島を中心に、海外(台湾)にまで日本式の旅館というサービス業態を展開している企業です。このモットーだけを見ると、サービス重視はわかるものの、従業員、特にサービス担当の客室係に過重な労働負荷がかかっているのではないかと疑いたくなる人もいるでしょう。

実態は正反対です。社員寮や24時間利用可能な社員食堂はもとより、母子寮付きの保育園であるカンガルーハウス保育園は昭和61年から運営されていて、客室係の主力となる女性社員が安心して働くことができる体制が整備されています。

また、料理自動搬送システムを始めとするIT活用も、もともと料理の部屋出し(宿泊客のいる部屋ごとに夕食や朝食を提供すること)が客室係にとって重労働であり、そのために本来のサービス(気働き)が損なわれるようなことはあってはならないというところから発想されたものです。

新入社員研修や国内研修旅行はもとより、自前のビジネススクールや海外視察研修までも長年(30年以上)、運営してきています。CSアワードや月間MVPといった社員表彰も外資系のホテル以上に行われています。

そして、失敗から学んだり、問題を共有することにも熱心で、クレームゼロ大会という顧客からのクレームを全社で共有するイベントも年3回行うなど、継続的に学習する組織を実践する仕組みもあります。このように、「働き方改革」にゴールはないことは、加賀屋のケースでも実証されています。

現在の加賀屋は、グループ会社に経営コンサルティングを行う会社も有するなど、自社の取り組みを同業他社が導入することも支援しています。

 

ちなみに、「働き方改革」のプロジェクトをやり遂げた企業であるならば、その成果を社会に還元する手段のひとつとして、他の組織に対してノウハウを提供することが求められます。今回ご紹介した企業は、まさしくその実例と言えます。

もちろん、IT関連の企業や健康経営やマネジメント・コンサルティングを事業として行う企業であれば、まず自社の実績を示すべきでしょう。もし、そうした実績がないとしたら、ビジネスモデルに問題があると言わざるを得ません。自社の取り組みの成果として、製品やサービスの形で他社に「働き方改革」の成果を提供することは当然のことです。

一方、他社のノウハウや仕組みを導入しようとする企業は、他社のやりかたや導入手順をそのまま鵜呑みにして実行するのではなく、自社との違い(ビジネスモデル、人材の質や量、マネジメントスタイルなど)に十分に注意して、成功する要因をしっかりと把握したうえで、取り入れるべきところを取り入れることです。

もし、そうできない何らかの阻害要因が自社にあるなら、まずはその阻害要因を取り除くことが肝要です。その阻害要因がマネジメントそのものという場合が実によく見受けられるということもまた、事実ではありますが。

 

【注8

サイボウズ株式会社の「働き方改革」に関する取り組みについては、同社のHPの“ワークスタイル”及び“サイボウズの取り組み”に詳しく紹介されています。

https://cybozu.co.jp/company/work-style/

https://cybozu.co.jp/efforts/

 

【注9

元湯陣屋については、『「働き方改革」をめぐる座談会(4)見習うべきモデル』の【注7】を参照してください。また、陣屋コネクトについては、以下のサイトをご覧ください。

https://www.jinya-connect.com/

 

【注10

加賀屋については、今でいうところの「働き方改革」の施策の概要及びその歴史は、同社のHPに紹介されています。

https://www.kagaya.co.jp/company/

https://www.kagaya.co.jp/company/recruit/benefits/

https://www.kagaya.co.jp/omotenashi/history.php

 

(8)に続く 

 

作成・編集:経営支援チーム(2019815日)