創業補助金の採択事例にみる創業動向について(6)

②ケアに関連するもの

 

 ケアに関連するものは、全国平均で13.2%を占めており、「食」や製販に関連するものに次いで創業補助金の採択事例が多くなっています。

 その代表的なものとしてまず挙げられるのは、何らかの技術開発をもって医療や健康などに関連する機器やシステムなどを提供するものです。

 

1細胞ハンドリング装置の開発と販売(26・神奈川)

・微量タンパク質の酵素活性を高感度で検出する解析ツールの展開(26・東京)

・独創的理論に基づいた歯周病予防用電動歯ブラシの開発・販売(29・岡山)

 

 こうした技術開発をメインに据えたものは創業補助金に採択された件数が多くはありません。医療系でハードウエアやシステムを開発するとなれば、相応の資金・人材・設備などが必要になるためか、創業補助金に応募する起業規模では収まり切れないのかもしれません。

 ただし、技術開発は必ずしもハードウエアを伴う必要はありません。特にケアの場合、新たなサービスを提供することが起業のコアとなることもあります。また、ハードウエアといっても、クリニックやサロンを開業する程度であれば、創業補助金で対応可能なものもあるようです。

 

・「自分の歯で一生を送る」ための最先端マイクロ精密根管治療を推進する歯科医院の運営(26・神奈川)

・専門性が高い乳癌治療と患者様の社会復帰を援助するクリニックの開設(27・佐賀)

・スポーツコミュニティに参加する女性への施術に特化した整骨院の開設(26・千葉)

・妊娠中のトラブルや産後の変調に悩む女性のための完全予約制鍼灸サロンの設立(28・三重)

・新生児集中治療室を退院した児の退院後のフォローアップ事業(27・滋賀)

・「人生の物語」を活用した高品質な認知症ケアの展開(27・愛知)

・心身の障害の軽減回復、機能の維持改善、生活の質を向上させる音楽療法プログラムの実施(26・大阪)

 

 ケアの対象は個人に限りません。企業や特定のニーズを持ったグループに対して、独自のサービスを提供することでケアを実現するものもあります。

 

・薬剤師によるドーピング検査対策のサポートの実施(27・長野)

・健康経営を目指す企業へのヘルスインテグレーションサービスの展開(27・愛知)

 

 さらに言えば、ケアの対象は人間だけではありません。動物も、その対象となりえます。

動物病院も相当に競争が激しいのではないかと思わせるように、さまざまなサービスが開発されたり、特定のマーケットにフォーカスして独自性を生み出そうとしたりするものが多く見られます。

 

・西洋医学だけでなく東洋医学(鍼、漢方薬等)による治療を同時に行う動物病院の開業(29・新潟)

・猫にやさしい「キャットフレンドリー」な地域密着型動物病院の開業(29・石川)

・小動物診療、パピークラス、捨て猫保護を主軸とした動物病院の展開(26・広島)

・ワンちゃん幼稚園を中心とした犬のための総合サービス施策の展開(26・東京)

 

 ケアは医療サービスに限りません。障害者や高齢者などに対してQOL(生活の質)を維持・向上させるものも、起業の対象となりえます。

 

・地域中小ものづくり業の失注を解消するための障害者雇用の促進(28・群馬)

・障害児プレイパーク事業(27・埼玉)

・障害児を対象とした放課後デイサービス事業(27・神奈川)

・伊丹市初の障害者就労A型施設の立ち上げと地域密着型多店舗展開(26・兵庫)

・地域に密着した高齢者向け生活支援型介護タクシーの展開(27・宮城)

 

 そして、ケアサービスをより効果的に実施できるように、ケアビジネスの事業主体をサポートする事業も採択されています。

 

・中国からの患者招聘および医療職に対する技術指導支援事業(26・東京)

・看護師の復職・転職支援と地域包括ケアを両立する訪問看護事業(27・東京)

 

 以上、ケアについてまとめてみると、起業のアイデアはかなり幅広く存在することがわかります。

ハードウエアを開発して新たなサービスやビジネスを創業しようとすることはもとより、ケアのなかに身近なサービスを持ちこんだり、ちょっとした一工夫をしたケアを実施したりすることが、さまざまな起業につながっているように思われます。

 

(7)に続く

        構成・編集:QMS代表 井田修(2017912日)更新