ホワイトベンチャー、ブラックベンチャー(2)

 

ホワイトベンチャー、ブラックベンチャー(2

 

1)より続く

 

 一般にブラック企業というと、労働時間が長く賃金が低いとか、そもそも労働関連の法令を守らず、正当な労働の対価をまともに支払わない、といったイメージを持たれている方々が多いでしょう。さらに、パワハラやセクハラといった問題が加われば、どう見てもブラック企業と言わざるを得ません。

 ベンチャー企業で働こうとする人の中には、ある程度はそうしたことを覚悟の上で就職してくるケースもあります。給料が高く福利厚生が手厚く知名度も高い企業に勤めたい、そういう希望をもっている人は最初からベンチャーに就職しようとは思わないでしょう。

 処遇水準が高いことは当初から望んでいないとしても、最低限のルールやマネジメントは実現されているはず、そう思ってベンチャーを希望して入社しようとする人は確かにいます。

 

 ただ、こうした場合にも、いくつか注意すべきポイントはあります。

まず、就職しようとするベンチャー企業の資金調達の程度を確認したいものです。極端なケースでは、資金調達をまともにしていないため、半年後はおろか、来月の資金繰りにも困難を来している企業も少なくありません。それでいて、人材採用をしようとするのでは、経営として成り立っていないことは誰が見ても明らかです。

次に、同様の観点から、提示されている報酬額が適切かどうかを考えてみましょう。

上場会社がヘッドハンティングをしようとしているわけではありませんから、ベンチャー企業がそうそう高い金額を提示できることはありません。普通の人であれば、こんな低い金額では就職できないと思わざるを得ないような水準しか、当面は支払うことができないというのが、ベンチャーの大半でしょう。

むろん、最低賃金をも下回る金額では検討するまでもありませんが、高ければいいというものではないことも同時に頭に入れておきたいものです。給料を高く提示するということは、ベンチャーであるにもかかわらず、創業者自身の魅力とともに事業コンセプトや経営理念などに人を引き付けるものが弱いおそれがあります。それでは、ベンチャーとして成長する可能性はほぼないと断言できます。

つまり、給料が意外に高いことがベンチャーとしての成長可能性の低さを物語っている場合がある、そういう意味でのブラックなベンチャーもあるということを肝に銘じておくことも必要です。

また、高い給料を提示する裏付けについても検討することが求められます。複数のVCの出資など相応の資金調達が行われていない限り、ベンチャーにとって少なくない人件費を支払い続けることはできません。提示されている給与額から考えて、既に調達している資金がどの程度の期間もつのか、ざっと計算してみてもいいでしょう。その結果が1年未満であれば、ベンチャーとしてホワイトとはとても呼べません。

第三のポイントは、創業者のマネジメント能力についてです。

ベンチャーですから、創業者にマネジメントの経験がそもそもないかもしれません。仮にシリアル・アントレプレナーであったとしても、マネジメントの経験や能力についてはあまり期待してはいけないでしょう。

とはいえ、経営者のマネジメント能力をある程度は推測する方法はあります。たとえば、マネージャーとしてそれなりの人々を輩出してきた組織で勤務した経歴があるかどうか、まったくそうした経験がないとした場合、創業者として成長してきた跡が見られるかどうか(1年前とくらべて創業者本人が変化を自覚しているかどうか)、経営者や創業者としての実績にはどのようなものがあるのか、こういったことを直接創業者に聞いてみるなり、入社しようとしているベンチャーの関係者に尋ねてみるなりしてみるといいでしょう。

ここで忘れてならないのは、創業者自身の話は話半分どころか、十分の一くらいに値引いて聞いておくことです。一般に、創業者は話がうまいはずですし、そうでなければ、事業を立ち上げることなど土台、無理な話です。そうした創業者の語る話ですから、そのなかにどの程度の事実が確認できるのか、冷静に判断しなければなりません。

もし、技術系の創業者であれば、テクノロジーや開発中の製品・サービスの話で盛り上がることができたかどうかも、チェックしたいところです。

ちなみに、募集・採用時にお互いに書類を提出することになりますが、そうした手続きにきちんと対応しているかどうかも、マネジメント能力を測定するひとつの基準となります。そもそも採用通知や採用条件を書面で取り交わしていないとすれば、ましてその理由が「忙しいから」とか「ベンチャーはスピード感が勝負だから」というのであれば、ブラックのひとつの共通点を見出すことができたと言えます。

 

 以上、入社する前に、そのベンチャー企業がブラックかどうか判断するポイントを説明してきましたが、ここでブラックだとわかる程度の企業は、真にブラックではないかもしれません。せいぜい、ブラックに近いグレー程度でしょう。

本当にブラックな場合は、そもそも人が居つかないのです。

人材を募集しても応募がないのは、その会社の人材を募集する能力の問題(メディアの活用方法、採用プロセスの回し方など)であることが大半です。しかし、何らかのルートで応募してきた人に採用決定を通知してから、または入社後にすぐに退職してしまうのは、明らかにその会社に問題があるケースがほとんどです。

そうしたケースが相次ぐベンチャーというのは、内定辞退や早期退職の理由は様々であっても、人材を引き付ける魅力が創業者や事業そのものに欠如しているのか、あるいは創業者やその周囲の人々にマネジメント能力が著しく欠けていて、そのことを改めていこうとする組織的な意思が感じられないのか、そのいずれかであることが極めて多いように見られます。

こうしたケースこそが、本当のブラックベンチャーではないでしょうか。

 

3)に続く

 

 

作成・編集:経営支援チーム(2017517日更新)