ホワイトベンチャー、ブラックベンチャー(3)

ホワイトベンチャー、ブラックベンチャー(3

 

2)より続く

 

 一見ブラックと思われる企業であっても、ブラックであることを目指してそうなっている企業は、さほど多くはないと思われます。経営者に聞いても、管理部門の責任者や一般の管理職に尋ねても、圧倒的に多くの方々はブラックでありたいどころか、ブラックであってもよいと思っていることは滅多にないでしょう。

 

 ところが、相当の数の企業が実態として、ある程度はブラックといわれても仕方がないでしょう。実際、自分が勤務している企業が「ブラックではない」と断言できる社員ばかり、そんな会社がたくさんあったら、過労死する人ももっと少なくなるでしょう。特にベンチャーは、経営者自らが開き直って「ブラックでないとやっていけない」と本音を口にするケースを実に多く目にしてきました。

 そこには、企業規模が小さいから法令を遵守するだけのコスト負担余力がないとか、大企業や中堅クラスの企業と同じことをやっていては競争に勝てないといった、経済合理性や事業戦略の面からみて、一見もっともな理由がある場合もあります。

しかし、ちょっと考えてみれば誰にでも理解できるように、法令違反が後々明らかになり問題を追求されるほうが、企業のとってのダメージは大きいのです。特に事業が成功すればするほど、起業当初から手をつけておくべきであった問題を解決していないことのダウンサイドリスクは、肥大化の一途をたどります。そして、手をつけようにも手をつけられないまま、一大スキャンダルに発展するケースも時にはあります。

つまり、ベンチャーならではの経営上の課題がそこにあるまま放置しておいた点に、ベンチャーがある程度ブラックしてしまう理由のひとつがあるように思われてなりません。

 

 ところで、一般に、ベンチャー、それも一定の時間軸で急成長を目指すスタートアップの企業は、起業家および起業家と一体化して事業を進めるコアメンバーの存在が不可欠です。

ここにも落とし穴があります。

さまざまな企業があるなかで、実はベンチャーこそが、単一の価値基準を志向する傾向が最も強いのではないでしょうか。

人事制度や組織運営のルールがないなど仕組みがないのはやむを得ないとしても、そうした状況を放置しておくと、日々、属人的な判断に委ねる方向にばかり進んでしまいます。ここで、人材が多種多様で一定のダイバーシティがあれば、多様な判断のなかから、よりブラックなものへのブレーキがかかることもあるかもしれません。

しかし、多くのベンチャーでは、経済合理性(ブラック企業のレッテルを張られてしまった場合の中長期的な経済的損失といまコストをかけてブラック化しないように対策を打つこととのバランス)よりも、理念やビジョンだけが先行してしまいがちです。

すなわち、起業家やその周辺の人々にとっては、当たり前のこと、当然もっているべき価値観を前提に、起業とその後の成長が行われるわけです。ここには、多様な価値観の存在を前提とするものはありません。

現実に、統一的な価値観がなければ、いちいち、起業家や経営者に聞いて物事を判断するようにならざるを得ず、それでは迅速な判断で仕事を進めていくことは不可能となります。急成長を可能にするひとつの条件が、ベンチャーのなかでの統一的な価値観やビジョンの存在であるというのが、これまでの成功要因であったかもしれません。

ところが、現実のベンチャーはダイバーシティを前提として運営される組織体であることが、実に多いのです。正社員と役員だけからなるベンチャー企業など見たことがありません。仮に社員と言っても、臨時雇いやアルバイト・パートタイマー、名ばかりの役員や管理職、さらには業務委託という形で労働時間管理を無視して働く人もいれば、学生のインターンシップ応募者や家族労働者をタダ同然で酷使するなど、さまざまな立場の「社員」がいます。

このように立場が違えば、働き方が違うのは当然ですし、働き方が違えば、相応のルールや仕組みが必要になります。

しかし、ベンチャーのなかには、必要なルールや仕組みを整備せずに、同じ働き方をするのを、暗黙のうちに前提条件とすることで、単一の働き方を事実上、強制するようなところがあります。

これでは、現実にいる多様な働き方をしている社員にとっては、働き方を否定され、その背景にある価値観やビジョンも共有できないままとなれば、「この会社はブラックだ」と思うのが自然です。もし、自ら積極的に共有できたとしても、ブラックを自覚せずに極限まで働くことが想定されるので、問題は未解決のままです。

結局、ベンチャーはビジョンや価値観を共有することでしか、業務運営を進めることができないとすれば、多くがブラック化するのが必然となってしまいます。

こうした動きを規制するには、ベンチャーへの規制当局の監査などを積極的に行って、問題のある企業や経営者については、実名を公表するだけでなく、刑事罰を科すなどの方策も悪質な場合には採ることが望まれます。特に各種の補助金(ベンチャーの創業・成長をサポートするものに限定せず、税金を投入して広く運営されている全ての補助金や助成金制度)を受給している企業については、しっかりと監査や指導を行うべきでしょう。

ただ、こうした方法は、いかにうまく運営しても、事後対応でしかありえません。問題の発生と同時に対処するとか、そもそも未然に問題を防ぐという効果は期待できません。

 

それでは、ホワイトと考えられるベンチャーを生み出すことは、土台、無理な話なのでしょうか。そもそも、ホワイトと呼べるようなベンチャーは存在するのでしょうか。もし存在するとしたら、どのような特徴があるのでしょうか。

 

4)に続く 

 

作成・編集:経営支援チーム(201765日更新)