オワハラに陥る前に(2)~新卒採用にもリスクマネジメントの視点を
オワハラの話題となると、就活中の学生にハラスメントを行う企業の問題とともに、そもそも学生の言動にハラスメントを誘発する要因があるのではないか、といった論じ方をする例も目にします。ほかの種類のハラスメントにおいても、同様の論じ方が出てくるのと似ている気がします。
たとえば、いくつもの内定(内々定)を得ようとすることが問題とか、内定をもらっているのに、他の会社の採用選考を受けること自体が裏切りではないかとか、まるで二股(以上の)交際を問題視するのと同じような感情論らしきものまで見られます。
恋愛や結婚と就職(職業選択)は、人間同士の関係構築という点では似ているようですが、根本的な違いがあります。
それは、個人対個人の関係なのか、個人対組織の関係なのか、という点です。就職しようとする学生は個人ですが、採用・内定を行っているのは企業です。その窓口となっている担当者は、個人ではなく組織を代表して仕事をしています。
その仕事の場で、オワハラという形で、個人的な感情(まさか会社の指示・命令でオワハラを行っているわけではないでしょうから、「個人的な感情」と表現できるでしょう)を学生に露わにして見せているのであれば、自分が負っている組織全体へのリスクに鈍感すぎると言わざるを得ません。
ちなみに、厚生労働省は、各地の労働局(大阪労働局、神奈川労働局、茨城労働局、静岡労働局、徳島労働局など)を通じて、要請のあった大学等に労働法制のセミナー講師を派遣しています。オワハラに限りませんが、労働や雇用といった面に関する法的なリスクは、企業が想定する以上に、社会全体で問題視されていると考えておくべきでしょう。
ここで、新卒採用と中途採用を比べてみると、オワハラのようなことは、前者にのみ、問題化しているように思われます。
中途採用では、いくつもの会社に応募書類を送るのは当たり前ですし、選考が並行して進めば、複数の会社から内定を得られることもあるでしょう。まだ退職していない時点で、すでに次の就職先を探すこともあるでしょう。
だからといって、それらが問題だとは言いません。問題になるのは、以前勤めていた会社から顧客リストを持ち出すとか、製品開発情報をもってライバル企業に転職するといった、明らかな不正行為があった場合くらいです。
つまり、同じ就職活動なのに、新卒採用だけにオワハラのような問題が発生しているのではないでしょうか。
この背景には、多分、新卒採用は、一生ものの仲間を選ぶという意識が、まだまだ強く残っている会社や人々が存在することを窺わせます。そういう意識があるからこそ、一生ものの仲間ということが、もともと、ありえない中途採用では、オワハラのような行為が発生しえないと思われます。
もちろん、法的な原則論をいえば、内定承諾書を書こうが、いかに入社することを誓約しようが、内定を辞退するのは、労働者(学生)の自由です。まして、入社した後でも、退職(職業選択)の自由は労働者に保障されている以上、内定段階や内定前の時点において、入社を強制したり就職活動に制限を加えることはできません。
こうしたこと(法的に強制できないこと)がわかっているからこそ、ハラスメントになってしまうのでしょう。
先日、ある大手サービス業の人事担当役員の方とオワハラについて話していたところ、こう言われました。
「オワハラねえ、うちでは、そんなことをやったら、採用責任者がクビだね。だって、仕事の内容とか会社の特徴を学生が理解したうえで、やっぱり自分には合わないとか、もっと勤めたい会社が別にあるというのだったら、しかたがないでしょう。『君が入社してくれないのは、残念だが、よそに行っても活躍されることを願っているよ。また、いつかいっしょに、飲む日も来るでしょう。』くらいのことを言って、腹の内はともかく、顔では笑って済ますのが、大人の対応でしょう。そう思いませんか?」
確かに、内定を断ってきた学生には、こうした対応をするくらいの余裕が欲しいところです。
(注)
オワハラの法律的な解説については、いくつもの記事やコラムなどがあります。一例として、東洋経済オンライン2015年8月18日配信「就活オワハラ問題、労働弁護士の見方」を挙げておきます。
作成・編集:調査研究チーム(2015年8月26日更新)