オワハラに陥る前に(1)~離職率の高さが背景に

オワハラに陥る前に(1)~離職率の高さが背景に

 

いささか気が早いかもしれませんが、今年の流行語大賞の候補として、“オワハラ”がエントリーされそうな勢いです。

昨年の今頃にも、同じような現象はあったのかもしれませんが、今年は売り手市場と言われたこともあり、採用する企業側に焦りとかプレッシャーなどが大きくなり、こうした傾向に拍車を掛けたのかもしれません。

内定を断りに行ったらコーヒーを頭からかけられた程度の話は、昔からありました。それはそれで、問題ですが、内定を出す時点で、就活をやめるように圧力をかけるなどといったことは、数年前までは聞いたことがありませんでした。

 

そこで、なぜ、こうした現象が起きてきているのか、まずは、その背景を考えてみたいと思います。

 

厚生労働省の「新規学卒就職者の在籍期間別離職率の推移」をみると、大学卒については平成7年以降、平成21年を除いて、就職3年目までに離職する人の率が30%以上となっていることがわかります。最も高い平成16年で、36.6%です。

事業所の規模別にみると、30人未満の事業所では3年以内に退職する新規大卒者がざっと50%超といえそうです。従業員規模が大きくなるほど、この退職率は低下しますが、1000人以上の事業所でも、20%超は3年以内に退職しているようです。

こうした規模別の傾向は、一般に小規模な企業ほど、人事、ましてや新卒採用を、専任の担当者を定めて、募集・選考・採用・定着指導などに労力を割く余裕はもてないでしょうから、ある程度は、しかたがないことなのかもしれません。

 

次に、業種別にみると、「その他の業種」がほぼ6070%台となり、抜きん出て高い退職率を示しているのを除くと、全般的にサービス業の退職率が高いことがわかります。なかでも、「宿泊業・飲食業」は50%前後を推移し、「生活関連サービス業・娯楽業」および「教育・学習支援業」が40%台で続き、「医療・福祉」も40%前後となっています。

サービス業以外では、「不動産業・物品賃貸業」が低下傾向にあって、近年は40%を切るようになっているものの、「小売業」と同程度に高い退職率となっています。

人手が足りないと特に言われることが多く感じる「建設業」は30%を切る程度で、「郵便業・運輸業」および「卸売業」が20%台です。これらの業界の退職率は低下傾向にありますが、同じ20%台といっても「情報通信業」は、25%前後で安定しているようです。

「金融・保険業」は、30%超から20%前後へと低下してきています。「製造業」も20%前後ですが、もともと30%を超えることはなかったようです。

 

これらのことから、比較的退職率が低い業種でも、5人に1人は入社3年以内に退職しており、退職率が低下傾向にある業種でも、これ以上の率で退職する人が発生していることが把握できます。

 

もちろん、個々の企業にはそれぞれの事情があるでしょう。小規模なサービス業の会社でも、新卒入社した人をきちんと定着させて育成し、退職させないどころか、入社3年もすれば、その人が仕事の第一線で活躍していたり、後輩の指導に当たったりしていることもあります。

大企業で業種的には新規大卒者の3年以内の離職率が低いところでも、特定の部門や職種については、30%を超える退職率という場合もあります。なかには、次の3年間でさらに30%程度が退職してしまい、新卒の大卒入社者が30歳になるまでに3分の1くらいしか、在籍していない会社すら、あるようです。

 

企業としては、当然ですが、新卒採用のコストがかかります。採用すれば、教育もしなければなりませんし、社会保険や社宅など福利厚生にもコストはかかります。細かいことを言えば、名刺やIT機器も用意しなければなりません。経済的な理由以上に、そのための労力や手間がかかるということも大きいでしょう。

採用する一方で退職するから、より採用に力が入る、そこで、無理な採用をするから、入社しても早期に退職してしまう人も増える、退職者が多いから更に採用圧力が高まる、そんな悪循環がオワハラの背景に生じているのかもしれません。

 

(2)に続く

 

(注)

当コラム中のデータは、厚生労働省HPの以下のものによります。

http://www.mhlw.go.jp/topics/2010/01/tp0127-2/24.html

興味のある方は、上記サイトを閲覧してみてください。

 

作成・編集:調査研究チーム(2015820日更新)