レンジマトリクス方式による賃金管理とは(1)

レンジマトリクス方式による賃金管理とは(1)

 

 経営者として賃金を考える時、二つの方向から課題が浮かび上がってくることが多いのではないでしょうか。

ひとつは、優秀な人材をいかに引き付けるか、そのために適切な賃金はどのようにいくら支払えばよいのか、という課題です。

もうひとつは、人件費をいかにコントロールするのか、利益や他のコストとのバランスをいかにとっていくのか、という課題です。

そして、これらの課題を同時に解決できるような、できるだけフレキシビリティのある賃金制度をどのように実現するのか、という課題に収斂していく気がします。

 

一般に、賃金には下方硬直性があります。時間外勤務手当のように、予め変動する要素に応じて支払われることが決まっているものであれば別ですが、通常の賃金(基本給や固定的な手当など)は、昇給は容易にできても、降給する(賃金を引き下げる)ことは容易ではありません。仮に実施できたとしても、30%とか50%といったように大幅に降給させることは、特段の事情がない限り、困難ですし、実施すると法的に重大な問題を生じさせてしまいます。

一方、経営としては、事業の核となっている人材や結果を出している社員には、タイミング良く適切な報酬を実現することが求められます。そのため、ときには大幅な昇給を行うことが必要になるかもしれません。

小規模な企業や大企業でも特定の層(上級幹部)に絞っているのであれば、個別に思い切って昇給させることも不可能ではないと思います。実際、抜擢人事を大胆に行えば、賃金もそれに見合って上がっていくはずです。ただ、賃金に下方硬直性があるために、賃金原資全体を急激に増大させずに特定の社員層に重点的に昇給を実現させることは、原理的にも技術的にも難しいと言わざるを得ません。

さらに、定期昇給といった制度や慣行をもっている企業も少なくありません。こうした企業では、昇給原資が定期昇給に優先的に使われますから、より一層、賃金管理の自由度が狭まることになります。

 

そこで、少しでも賃金管理の自由度を維持・向上させる上でのヒントとして、レンジマトリクスという賃金管理の仕組みをご紹介したいと思います。

なお、これから例示するものは、中堅クラスの社員を想定して仮の数字を置いたもので、実在の賃金表ではありません。あくまでも、賃金管理のひとつの方法をご説明するためのものです。

 

(以下、続く)

作成・編集:人事戦略チーム(2015329日更新)