ブラック化を招きかねない10のポイント(4)

ブラック化を招きかねない10のポイント(4)

 

(3)より続く。

 

6.人材フローのマネジメントができていない

 

人材フローというのは、社員を募集・採用・配置・異動・昇進(昇格)・出向・転籍・復職・退職させるという一連の流れをいいます。特に目立って問題となりやすいのは、募集・採用と退職のプロセスです。

まず、人材を外部から募集する際に見られる問題点を見てみましょう。

募集要項に労働条件は具体的に明示されると思いますが、職務内容が曖昧というケースは実に多く見受けられます。特に、いわゆる正社員や管理職の中途採用になると、営業とか研究開発といった職種は明示されていても、日本以外では広く用いられている職務記述書(ジョブ・ディスクリプション、job description)で示される程度まで、応募しようとする人に事前に提示されることは、あまりないように思います。

例えば、職務分掌や職務権限、具体的に規定された職責の範囲や内容、管理すべき部下の人数、レポートライン(報告すべき上下関係や関連部門の関係者)、その職務を担当するのに必要な実務経験や公的資格など、といった項目に細分化して具体的に記述していることは、外資系企業でもない限り、目にすることは滅多にないでしょう。

こうした内容がある程度まで示されないと、応募者は具体的などのような仕事をすればいいのか、また、自分が応募して採否を検討されるだけの個別具体的な条件をどの程度満たしているのか、わかりません。

実際は、「経営幹部候補求む」「プロジェクトリーダー急募」以上のことは読み取ることができない募集要項もあります。実は、どのような仕事をする人が欲しいのかということ以上に、幹部候補とかリーダーに呼ぶにふさわしい(とその会社が判断するような)人材が欲しいのかもしれません。これでは、人材募集というよりも、仲間に入りたい人を求めているように感じられます。

仲間が欲しいということが本音であるとすると、仕事を求めて入社してきた人が仲間になりたいかどうかは、別の問題であることに意識が向かないかもしれません。こうした相違が、案外、ブラック化の萌芽となりそうです。

次に、採用のプロセスがいい加減では、社員も会社も後々困ったことになります。

募集の時点で職務内容がはっきりしていないとすれば、採用プロセスも職務内容と応募者の能力や適性などがどの程度あっているのかを判断するよりも、いい人材かどうかを判定するものになりがちです。

職務内容が明確であれば、その職務に合ったコンピテンシー(行動特性・能力)を定義し、いい人材というのは、適性検査や面接および過去の職務経験などから求められるコンピテンシーを有している人、と定義できます。

しかし、職務内容が不明確ではそうしたことはできません。どうしても「なんとなく良さそうな人」とか「使いやすいそうな人」を採用しがちではないでしょうか。

結局、人材の募集・採用のプロセスや基準が不明瞭なため、とりあえず良さそうな人を採って、あとは現場に任せるといったことが行われがちです。これでは、採用された人からみれば、入社した企業がブラックかどうか以前に、何をやれば良いのかよくわからないまま、闇雲に突っ走るか周囲の様子を窺って目立った行動を控えることになるでしょう。

採用した側からいえば、即戦力となる人材だと思っていたのに、すぐに期待していたほどの結果が出なければ、「勝手ばかりやっていてダメだ」とか「見込み違いだった(能力がない・やる気がない)」ということになり、採用失敗の烙印を押してしまいがちです。

最悪の場合、すぐに辞めてもらいたいとなりますが、こういった企業では、えてして退職のプロセスにも問題があるものです

本来であれば、業績評価をきちんと行って、問題点があれば一定期間での改善を求めることになります。その結果、改善が見られず、期待に達さないことが複数回に及んだときに、次の段階に進むことになるでしょう。すなわち、配置転換または降職・降格などを行うか、自ら別のキャリアを選ぶ(自主的に退職する)か、本人に選択させるプロセスが想定されます。

しかし、募集や採用に問題があるような企業では、業績評価が不適切に運用されていたり(ダメなのに厳しい評価をしないとか本人にきちんとフィードバックしないなど)、配置転換が本人に誤ったメッセージを送ってしまったり(会社は左遷したつもりが本人は過去の事例を知らないので栄転と誤解するなど)、最後は同じ職場に放置するように塩漬け状態にして職場全体で無視するというように、いじめと判断されかねないケースも見られます。

最悪の場合、メンタルヘルス上の問題が生じたり、自殺を含む何らかの事件が発生するといった事態を招来するケースも予想できます。こうなると、ブラックな企業と言われても、致し方がないかもしれません。

 

7.人材への投資が少ない

 

以前、見聞きすることがあった会社に、有給休暇の消化率が高い外食産業の企業がありました。店舗スタッフも有休の消化率が90%を超えており、結果の数字は立派なものでした。ただ、そのやりかたは大変、問題がありました。

あるオフィスビル内にあった店舗では、有給休暇を取っているはずのフロア(接客)スタッフが、一般のお客さんのように店舗に入り、通常よりも短時間とはいえ、いつも通り仕事をこなし、就業後は店舗から出ていくことが常態化していたそうです。さすがに、入退室が自動的にチェックされる従業員用の入り口から出入りしては、休暇なのに出勤記録が残ってしまうのはまずいという判断していたのでしょう。

各店舗に課された業績目標を達成するには、店長以下ぎりぎりの要員数で仕事をこなさなければならないため、1人でも不在になると、特に忙しい時間帯はオペレーションが回らなくなるのが実態でした。そこで、こうした運営を行わざるを得なかったそうです。

本当に要員が絶対的に不足しているのであれば、新規に採用を行うか、他部門から異動して増員するのが、真っ当な解決策です。業務の改善・改革にはある程度の時間がかかりますから、少なくとも短期的には他に方法はないでしょう。その採用をしないとか、採用しても何も教育もせずに現場に放り込むなど、仕事を回していく上で必要最小限のコストもかけないのでは、問題状況が改善するわけがありません。

こうしたケースを見聞して気づくことがひとつあります。本社・本部にどういう仕事をしているのかわからない、役員や管理職およびスタッフがけっこうな人数で存在していることです。

実際、こうした社員は本当に有給休暇を高率で消化することもできます。現場はもとより、経営トップも毎日現場を見て回ったり商品開発に直接タッチしたりして忙しいので、余計に気になる存在です。

商品や原材料の仕入れコスト、店舗などへの投資、不動産賃貸料や水道光熱費などの必要経費など、いずれも容易に削減することは難しい費用です。どうしても人件費を抑えたいのは十分に理解できますが、抑制したり削減したりする順序が「現場第一主義」では、事業として成立していないと言わざるを得ないでしょう。

実際に仕事をしている、つまり、現場で顧客にサービスを提供しているとか、新たな製品を開発しているといった人材に、採用という形で投資することが、まず必要です。そして、スキルアップのために教育を実施したり、人材としてのメンテナンスのために休日や休暇を定期的に取得させたりすることなどが重要でしょう。

こうした施策を実現するには、バックアップの要員も必要です。これらの投資をタイミングよく幅広く行っていかないと、ただ「頑張れ」「何とかしろ」というだけの企業になってしまいがちです。

 

(以下、続く)

作成・編集:調査研究チーム(2015313日更新)