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人材不足の原因は?(4)

人材不足の原因は?(4)

 

それでは、仕事と労働力のミスマッチはなぜ起こるのでしょうか。仕事をする場である組織の問題か、労働力を提供する働く人それぞれの問題なのか、仕事と労働力を結びつける社会的なシステム(労働市場など)に何か欠陥があるのか、この3方向から原因を探っていきましょう。

 

仕事をする場である組織に何らかの問題があるとすれば、最もわかりやすいのは、そもそも仕事と労働力のミスマッチが顕在化してからでないとミスマッチの存在を認識できないことです。

例えば、自社の属する業界で営業経験のある担当者を3名新たに雇用したいときに、その条件を履歴書・職務経歴書とリファラルだけで確認して採用したとすると、履歴書・職務経歴書ベースで確認できる事項以外は、ITや顧客とのコミュニケーションなど業務上のスキルすら実地に確認しないこともあるでしょう。これでは、スキルのミスマッチが起きないように十分に担保できる採用プロセスとは言えません。

まして、その人たちが自社のカルチャーや仕事の進め方にフィットしているかどうかという別の問題もあります。それぞれの上司や担当役員などと性格的に合うかどうかも本人たちが直接会う機会すらなければ確かめようがないにも関わらず、人事部門と社長だけで合否を決定してしまうなど、ミスマッチが起きないほうが奇跡としか言いようがない採用プロセスを採っていることも珍しくはありません。

そのうえ、採用時に組織が提示できる労働条件とか組織としてもつビジョンや事業戦略などと、採用から20年、30年と経った後の労働条件とかビジョンや事業戦略は異なっているのが当然です。採用時はミスマッチがなかったとしても、時間が経つほどにミスマッチが生じてくるのが自然でしょう。とすれば、問題はミスマッチの有無ではなく、採用時はミスマッチがない(このこと自体が奇跡的ですが)としても、いつかは必ず生じるミスマッチにどのように対処するのかということが問題として認識されなければなりません。

仕事と労働力のミスマッチが生じている組織では、労働条件の未整備、スキルを教える組織的な能力不足、面白い仕事を提示できるほどのフロンティアの欠如など、働く人が仕事に前向きに取り組むのに不可欠と思われる要因の多くを課題として認識していないケースが実に多いのです。そして、仕事をするために人を雇うにも関わらず、仕事の仕組みそのものに問題があったり、業務システムに適合する人事制度が整備されていなかったり、パワハラやセクハラは言うまでもありませんがその組織に固有の企業文化にこそ問題があることも珍しくはありません。

 

次に、仕事をするべき労働者にも認識すべき問題があります。

働く人自身も組織と同様に、自分自身が仕事で求めるものが何か把握できていないまま新たな仕事を求めたり組織の一員になろうとしたりするのが常態でしょう。

それだけでなく、働く人本人が今必要とする労働条件と将来求めることになる労働条件を明確に意識しているとしても、それらは異なるものです。新卒者が最初に勤務することになる会社に求めることと、数年後に転職しようとする際に転職エージェントに相談する事項が同じというのでは、その人自身に成長が見られません。本人のキャリアプランや仕事観の変遷、健康状態や家族状況などの変化などのより、やりたい仕事も求める労働条件も絶えず変わるのではないでしょうか。

極端な例で言えば、新卒で入社し20年、30年と真面目に仕事に取り組み、社命であれば複数回の転勤も厭わず、営業なら営業、生産現場なら生産現場で勤め上げて支店長や工場長を経験した人が、役職定年や早期退職制度の対象となり、管理職から一般社員になったり退職して別の仕事に就こうとしたりするのであれば、新卒で入社する際に本人が組織に求めていたことと、役職定年や早期退職をした後に求めていることは、大きく違うでしょう。仕事の内容、具体的な労働条件、職場での扱いなど、本人が自覚していない間に変わっているはずです。もちろん、周囲の環境も移り変わっていますから、そのズレが顕在化した後は、ズレを埋める努力すら客観的には無意味になります。

働いている人の多くは、まだまだ現状維持バイアスが働いているせいか、退職して別の仕事に就くことに否定的な感情をもつかもしれません。現実に労働力として移動する人材は、ある程度同じ人々がローテーションのように移っていくのであれば、転職力(そう呼ぶことが適切かどうかわかりませんが)は特定の人々しか身につける機会を持てない能力であることになります。

ここで転職力というのは、単に就職するのに活用されるスキルや知識ではありません。自らのキャリア形成を促進するために適切なタイミングで退職を実現することから始まり、次の仕事を見つけて就職し、その職場で仕事を通じて次のキャリアにつながる機会を見つけ出して、また次の仕事へとキャリアを切り開いていく、そういう転職を可能とするのに必要なスキルや知識のことを転職力と呼んでいます。

もちろん、転職力には当面求める労働条件とその優先順位を自覚しておくことなど、転職が現実の問題となってから検討しがちなこともあります。こうしたことをいつも頭の片隅において、日々の仕事に取り組む習慣を身につけていることが労働力を提供する個人に求められます。ただ、こうした意味における転職力がある人材というのは、かなり限られた存在ではないでしょうか。

 

仕事と労働力のミスマッチは狭義には労働市場の問題でしょう。要するに、仕事と労働力をうまくマッチングさせることができないのです。法規制も含めて社会的にマッチングのシステムが機能しにくいとすれば、その理由は何かということです。

一般的に、市場は参加者の間に情報の不均衡があるからこそ取引が成立するわけで、労働市場にも同じメカニズムが働きます。言い換えれば、労働市場がマーケットメカニズムに従う市場である限り、雇用する側と雇用される側の間に情報の不均衡が発生し、そこに労働市場での取引が成立し、就職・転職が実現するのです。

故に、情報の不均衡に起因する何らかのミスマッチが存在するのは不可避とも言えます。みかんを買ったら腐っていて食べられなかったことと同様に、腐った会社、腐った労働者をつかんでしまう虞はありますが、市場での取引を繰り返していくことでそのリスクを当事者が引き受けることで、市場での取引が活性化しある程度の安定性をもって運用されていきます。

株式市場や個別の商品を取り扱う商品市場であれば情報が株価などひとつの情報に集約されて取引を効率的に行うことができます。しかし、労働市場においてはひとつの情報に集約するのは危険でしょう。例えば、年齢・性別・出身地・出身校・地域・業種業界・業態・職種・職位などで人材のラベリングを行った上で、各々のラベルごとに細分化された労働市場を形成し、そこで採用時賃金という労働力の価格情報だけで人材を確保し活用するには、組織にとっても労働者個人にとってもリスクが高いのです。

労働市場では賃金といった集約された価格情報以外にも、勤務地・通勤時間・出社日・出退勤時刻・勤務場所の物理的環境などのハードデータで提示可能な情報に加えて、組織全体のカルチャー・勤務先固有の慣習や価値観・職場の人間関係など実地に体験しないとわからない定性的な情報も重要です。これらは市場で明示される情報ではありません。仮に示している組織があったとしても、その内容や労働者にとっての効用は必ずしも有意義なものとは言えないでしょう。

実際、求人情報で記載されている情報で判断できるのは、一部の基本的な労働条件であるとか、せいぜい有価証券報告書に記載されている情報などの基本的な情報まででしょう。それでは、働く人本人と組織とのスキルやカルチャーなどのミスマッチを防ぐのに有用とはとても言えません。

もちろん、労働法規による規制や労働市場参加者による自主的なルール作りなどにより、情報の不均衡によるミスマッチやトラブルを防ぐ一定の方策はあります。それらを洗練されたものにしていくことで、ミスマッチをより低減していくことが社会的に期待されます。

ちなみに、一般的な公募での採用についてはこのように考えていくことが可能ですが、労働市場は公募市場だけではありません。ある組織における内部の労働市場(いわゆる社内労働市場、注7もあれば、人材サービス会社が労働者派遣やアウトソーシング受託などの形で市場を補完するものをあります。

いずれにしても、個別の企業や労働者個人の視点ではなく社会全体を見ると、人材の社会的移動(退職・再就職・転職、地域間移動)にも、基本的なメカニズムとしてミスマッチが起きることは防ぎえないでしょう。

そこで、企業には採用だけでなく定期的に人材を排出する機能が重要となります。排出でなく輩出ならばなおよいのですが。

人材の排出が定年退職だけでは調整できない(定年のタイミングと事業の成長・収益化のタイミングが合わない)ため、今後は早期退職制度を常設化して毎年人材を排出するのが社会的に良い企業の条件ともなるでしょう。特に日本では今でも新卒一括採用の慣行が根強く存在するため、採用力の高い組織ほど不足を見越して人材の囲い込みを行いやすく、そうでない組織に人材不足のしわ寄せが集中する傾向は否定できません。

従って、社会的に労働市場を整備し、組織、特に大手企業とか一流企業と呼ばれるような組織には、絶えず人材を供給する役割を果たすことを求めたいのです。需給が適切に機能して初めて市場が効率的に働くわけです。

 

(5)に続く

 

【注7

<社内労働市場についての一考察>

社内労働市場においては、社外の労働者に比べて社内で既に働いている人はその組織のカルチャーや人材の調達・育成・異動・回転などの実態を知りうるというメリットはあるかもしれません。他方、社外から見れば、履歴書や職務経歴書をベースにした人材評価しか行うことができない以上、自分の社外価値については限定的な情報しか持ちえません。社内労働市場ではこうした情報不足を埋めようがありません。

こうしたメリット・デメリットは、社外に転じるリスクを高め、社内でキャリアを重ねる上での優位性を高めるでしょう。そうなると、個々の労働者は余計に社外にキャリアを求める行動を取りにくくなります。

社内の労働市場というのは成立する前提条件として、会社が雇用している全ての労働者のキャリアを発展させることがビジネス上可能であることが求められます。これは、原理的には不可能ではないのでしょうが、現実的にはできないでしょう。だからこそ、労働者一人ひとりが自分のキャリアについて決定する権利を自覚しなければならないのです。原理的に経営の失敗がありうる組織というものは、個人のキャリアの責任を究極的には負えないのです。

 

作成・編集:人事戦略チーム(2026310日更新)