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人材不足の原因は?(3)

人材不足の原因は?(3)

 

現に起きている人材不足も問題ですが、その不足状態が今後も続くのかという問題も重要です。もし、将来はさほど不足が生じないのであれば、当面の厳しい状況を凌ぐ手立てがあればよいでしょう。そこでひとつの試算として2040年の就業構造を推計したものを見てみましょう(注6)。

 

2040年に十分な国内投資や産業構造転換が実現する場合、人口減少により就業者数は約6700万人2022年)から約6300万人となるが、AI・ロボット等の利活用やリスキリング等により労働需要が効率化され、全体で大きな不足は生じない

● 一方で、職種・学歴・地域間では需給ミスマッチが生じるリスクがあり、事務職(約440万人)や文系人材(約80万人)が余剰、AI・ロボット等利活用人材(約340万人)を含む専門職や現場人材(約260万人)、理系人材(約120万人)が不足する可能性。

 

 日本全体については以上のようにまとめられていますが、地域や職種などで発生する過不足については次のように指摘されています。

 

● 東京圏では全体が余剰となり、その多くは事務職が占めている。一方、AI・ロボット等利活用人材を含む専門職はほとんどの地域で不足。また、地方では現場人材も不足。

● 特に東京圏に大卒・院卒文系等の余剰が集中する一方、一部地域では不足に。

● 大卒・院卒理系は東京圏も含めて、全ての地域で大幅な不足。工業高校、高専の不足も顕著。

 

こうした試算には、試算を行う関係者の利害関係や一種のポジショントークとしての話題作りといった批判すべき面があることは承知の上で見ても、マクロ的には労働力が数的に不足する可能性はあまり高くなく、業種業界や職種及び地域などで特定の労働力に大幅な過不足が生じる可能性が高い傾向にあることは否定しがたいと言えそうです。

 

ちなみに、歴史的・地理的にみて労働力が数的に不足というのは、大きな戦争が始まり労働力の中核となる人々が兵士に取られるとか死亡率の高い疫病が数次にわたって流行したときなど、極めて限定された社会情勢の下でないと発生しないでしょう。

現在の日本がそうした状況にあるとは思えません。問題は、産業や業界及び職種や地域などによって労働力に大きな過不足が生じることです。言い換えれば、産業間・業界間・職種間・地域間などでスムーズな労働力の移動が行われない、何らかの要因があり、その要因を早急に解消できないために労働力のミスマッチが大きくなっていく可能性が高いのでしょう。

このミスマッチを解消するために、余剰となる労働力のリスキリングやAI・ロボットなどの利活用が主唱されていますが、これは「言うは易し、行うは難し」の典型です。

仕事に直結するスキルを身につけることでも容易ではないのに、新たなスキルを身につけて今まで経験したことがない業界や職種で働くように余剰労働力を仕向けていくというのは、自分以外の誰か他人が対象であればできそうと思う人もいるかもしれませんが、いざ我が身に起きたら実行できる人は極めて少ないでしょう。

昔の話になりますが、日本国有鉄道(国鉄)が分割民営化された1987年当時、新設されたJR各社に雇用されたのは旧国鉄全体の28万人弱のうち20万人強で、7万人がJR以外へ再就職し、数千人が国鉄清算事業団に属することになりました。この時、国鉄からJR各社やJR以外の鉄道会社に転じた労働者は同じ仕事を継続できたように思われるかもしれえませんが、必ずしもそうではありません。所属こそはJR各社やその子会社であっても、鉄道事業以外の事業(小売業、鉄道とは無関係なサービス業、不動産管理業など)に従事することになった人たちも少なからずいました。ましてJR以外の他社に転職したり、自営業に転じたりした場合は、それまでのスキルや実務経験とは無関係の仕事をすることになったはずです。

リスキリングというのは、国鉄の例を引くまでもなく、現実に別の仕事に就かざるを得ない状況に追い込まれて、初めて新たなスキルを身につけようとせざるを得ない故に、身につくものではないでしょうか。まして、プログラミングのような仕事については、AIの利活用で自動的にプログラムのコードが生成される現代では、一定の教育プログラムで教え込む時間的な余裕はないでしょう。

このように見てくると、人材不足の原因は一義的には求める仕事と余剰な労働力とのミスマッチではあるものの、労働力の質的な変化のスピードと必要とされる仕事の能力・スキル・経験などを習得できるスピードとの差が大きすぎて埋められないところに、真因があるように思われます。国鉄の分割民営化と時ほどには余剰労働力を吸収する切迫した事情も見られないことも、労働力の質的な変化のスピードをアップさせる圧力が強まらない一因となっています。

また、建設現場や医療・介護の現場のように、ペーパー上の知識があっても物理的に対応できなければ仕事にならないところでは、リスキリングは十分に可能であっても厳しい労働条件に多くの労働者がついていくことができない故に、いつまでも人材不足が解消する目途が立たないままです。こうしたところでは、リスキリングではなく労働条件の改善こそが解決すべき課題に他なりません。

人材不足が「労働力の絶対数が足らない」というのであれば、効率化などを進める部分はあっても、根本的には移民などにより労働力を増やすしか解決策はありません。しかし、仕事と労働力のミスマッチが問題であるならば、ミスマッチの原因を明らかにして、その原因に応じた対策を打つ必要があります。日本の場合、現在及び将来に亘って問題となるのは、やはり仕事と労働力のミスマッチでしょう。

 

(4)に続く

 

【注6

具体的には、それぞれ以下のサイトを参照してください。

【資料2】経済産業省提出資料(2040年の就業構造推計(改訂版)について)

 

作成・編集:人事戦略チーム(2026227日更新)