人材不足の原因は?(2)
人材不足の原因を個別の組織単位で言うならば、人材獲得のペースが必要な人材の増加及び既存の人材の減少に追いつかないからでしょう。組織としての採用力が求められるレベルに達していない、事業が想定以上に拡大・成長していて人材の確保が追いつかない、事業や組織から既存の人材が離れて行ってしまうのに代替人材の確保等の対応できない、などが直接的な原因として挙げられます。
こうした個別の事情に対する経営能力に課題がある組織にとって人材不足を解消できる具体的な方策を実施することは、事業や組織の存立に関わる重大なマネジメント上の命題です。必然的に言えるのは、人材不足を解消する方策を実施できなければ事業が成り立ちません(注5)。個人事業主もしくは小規模の事業者、規模やある程度大きくても特定の企業グループや資本関係のある他社などがない独立した事業体では、人材の融通が利かないために特に大きな経営課題となります。
一般に、大企業やホールディングカンパニーの下に企業グループを形成している企業などは、個々の組織で人材不足が生じていても他部門やグループ内の他社から人材を異動させることで過不足を調整することができる余地がある程度はあるでしょう。また、同じグループとは言っても企業間の成長段階の違いから、A社の子会社であるB社が成長してA社の余剰人員を受け入れることもあれば、C社で人材不足に陥っているのであればグループ内のD社と合併することで人材を確保するといった手段を採ることもできます。
つまり、企業規模の差がそのまま人材不足を解消できないことにつながる要因のひとつとなります。やはり、規模が小さく人材を融通する能力に欠ける組織では、人材不足が続いたり急激な不足に陥ったりすれば事業が立ち行かなくなるのです。
こうした問題のある組織や企業グループにとって、より厳しい環境、特に労働力を取り巻く環境が厳しいのであれば、人材不足に直撃されてしまうでしょう。そこで、労働力を取り巻く環境を、産業・業界・業種・業態・地域・職種などで切り分けて捉えてみましょう。
さて、産業による違いというのは、農業・林業や漁業などの第一次産業から鉱工業を中心とする第二次産業に人材が移動するといったものが典型的なものです。イギリスの産業革命期とか日本の明治から昭和の高度成長期のように、一方で余剰な労働力があり(顕在化していなければ囲い込み運動などで顕在化させることで余剰労働力として都市に送り込み)、他方で新興の産業で人手を求めている状況です。歴史的には、第二次産業から流通業やサービス産業を中心とする第三次産業へ人材は移っていきました。そして、20世紀の終わり頃にはIT産業へと人材がシフトしていきました。
産業間の人材移動が生じるとともに、人材の供給源となる産業、それは通常は旧来から存在していた産業ですが、そういった産業が生産力を維持するには新興の産業で得られた技術や製品・サービスを活用して、生産性を飛躍的に向上される必要があります。
農業の従事者数は著しく減少しても、非農業部門の急激な人口増大に対応可能な農業生産物の増大が実現されなければなりませんし、実際、その増大は生産方法の改革により実現してきたわけです。同様のことは、現在も起き続けており、AIやDXなどの進展で他の産業部門の生産性はまたも飛躍的に向上するはずですし、それが実現できなければ産業間の競争や同じ産業間の国際競争に敗れるのが必然です。
こうした産業間の人材移動は、同じ産業の中の業界業種の間での人材移動にも見られます。ただ、その規模や社会的な人口構成上の変動ほどのインパクトは、産業間の人材移動ほどは見られないかもしれませんが、それでも無視できません。
小売業で言えば、昔ながらの個人商店ばかりであったところに成功した個人商店の延長上にデパートが発生しました。それが鉄道業の発展などと相俟って、個々の店がより一層大規模化するとともに多店舗展開も実現していきます。
しかし、大量販売という点では、デパートはその後に登場するスーパーマーケットには及びません。多店舗展開といってもスーパーマーケットのほうは桁が違いますから、必要な労働力も桁違いに増大します。
そして、コンビニエンスストアが登場します。店舗数やコンビニエンスストアのオペレーションを毎日支えている工場や物流などを含めて言えば、店舗や拠点の数はスーパーマーケットよりも桁違いに多くなりますし、その分労働力も極めて多く必要となります。
現実に、人材はデパートからスーパーマーケットやコンビニエンスストアに移動していかざるを得ません。時には鉄道会社から小売業の各業態へと人材が移っていくことも珍しくはありません。以上のように、産業や業界・業種・業態といった括りで労働力の移動を考えると、余剰な労働力をもつところから新興で労働力を求めているところへと移動するのが必然と言えます。
人材不足が生じるとすれば、このような労働力の移動がスムーズに起こることを阻害する要因が何か発生しているからに他なりません。それは、既成の社会的な慣習や法的制度もあれば、それらと密接に関連する政治的なものかもしれません。また、労働力の移動という際の労働力とは、単なる社会経済上の集合的な概念ではなく、究極は一人ひとりの人間の問題ですから、新たなものを拒絶する心理の壁とかまったく異なる知識やスキルを身につけるといった労力が大きく要求される点も無視できません。
次に、人材不足には地域による違いというのもあります。日本で言えば、人材が多く存在する大都市圏、特に首都圏とそれ以外の地域との差というのは否定しがたいものです。
ただ、ITが相当程度に普及し、AIの自動翻訳機能も実用的なレベルにまで向上してきている現在、グローバルにリモートワークを行うことは個人でも小企業でも可能なことです。従って、今自社がある地域に人材がいなくとも、仕事のやり方や勤務体制次第では日本国内のどこかどころか世界中から人材を求めて働いてもらうことは、業種・業態や職務内容によっては十分実現できることです。
但し、いわゆるエッセンシャルワーカーに代表されるように現場でサービスを提供する仕事では、地域によって労働力が偏在していると一方では人材不足の地域があり、同時に他方では人材が余る地域もあるという地域間の人材格差が起こり得ます。その解消のためには、人材不足の地域で賃金や福利厚生などの労働条件を向上させるなど個々の主体の方策だけでなく、新たな供給主体が労働市場に参入するように強く促していくことも重要です。
また、職種・職務内容による人材不足の違いも大きいでしょう。製造工場などでは無人化されていて、そもそも人材を必要としないところもあれば、介護や建設といった業界のように人材が直接サービスを提供する現場がある職種で構成されている職場では、慢性的に人材が不足しているところも珍しくはありません。
一般論として言えるのは、事務的な仕事や定型的な管理業務といったこれまで数多くのホワイトカラーが担ってきた職務は、AIを持ち出すまでもなく合理化し業務効率をアップさせるのに十分な余地があるはずです。経営企画・事業企画や人事・財務・法務・広報・事業管理など本社機能も、業務効率を飛躍的に向上させるべき時代でしょう。これらは、余剰な労働力が存在し、人材不足を解消しうる人材を供給できる余力がある職種でしょう。
もちろん、いわゆる無駄な会議や議事録作成、会議のための連絡・調整などの仕事など、ホワイトカラーの労働時間の多くを占めているかもしれない、具体的な成果を主張しようがない仕事を止めるだけでも、人材はむしろ余るのではないでしょうか。だからこそ、組織全体では業績がよくてもホワイトカラーを対象とする早期退職優遇制度が次々と導入されているのです。
いずれにしても、労働力は余っているところや新卒者などの新たな供給源から必要とするところへと移動するのが鉄則です。もしそうした労働力の移動を妨げているものがあるとすれば、既成の社会的な慣習や法的制度を変えていくことも必要ですし、一人ひとりの人間の心理の壁や学習能力の向上も実現していかなければなりません。
こうした対策がうまくいかないとか、時間的な制約の中で間に合わないというのであれば、労働力として海外から人材を招き入れることも必要です。業界や職種によっては、海外に住む人々をそのままリモートワークで仕事をしてもらうことも可能ですが、医療・介護やホスピタリティ・建設などの業界やラストワンマイルの物流や対人サービスでの接客など現場で人材が不可欠なものでは移民労働者が一定数必要となります。
【注5】
過去に当コラムで既に言及してこともあります。次のものを参照してください。
人材不足で倒産することがないように(3) - QMS 行政書士井田道子事務所
人材不足で倒産することがないように(4) - QMS 行政書士井田道子事務所
作成・編集:人事戦略チーム(2026年2月19日更新)