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福利厚生を戦略的に考える(2)

福利厚生を戦略的に考える(2)

 

前回ご紹介したように、福利厚生の制度やプログラムは多岐に亘り全てを用意しようとするとコストがかかる以上に、複雑化して利用が進まないものばかりになり、会社が採りたい人事施策を実現させにくくなったり従業員のニーズを満たすことができなかったりしがちです。できるだけ簡素で利用しやすい制度やプログラムが求められます。

言い換えれば、政策上の課題に明確な優先順位をつけて福利厚生プログラムを絞り込むことが肝要です。従業員満足度調査や他社との比較などからたくさんの人事課題を掘り起こして、それらに対応する施策を打ち出して満足するような経営は慎むべきです。

ましてや、福利厚生サービスを提供する企業からの売り込みを真に受けて次々に新たなサービスやプランを導入するのは最も避けなければならない悪手です。一見、経営として人を大切にするようでいて、実際は無駄なコストをかけて課題解決につながらない施策ばかりを展開しているのかもしれません。こういう場合、肝心の報酬や教育に問題を抱えているということもよく見られます。

 

それでは、福利厚生プログラムと事業戦略との関連を衣食住の3点で具体的に考えてみましょう。

例えば、制服を貸与する場合を考えてみます。

制服を貸与するのは、建設・製造・医療サービスなどの現場のように作業上の必要性から一定の要件を満たす服が業務上必要となるケースでは、福利厚生というよりも安全衛生上の必要性から経営判断で制服着用を義務づけるものです。また、ホテルや小売業・外食などでは、サービスを提供する担当者であることを明示した上で作業上の必要性も踏まえて制服を貸与することでしょう。職種や職位などに応じて異なる制服を着用することで、顧客や社外関係者などからどのような職責を有するのかすぐに視認できることも、制服の重要な機能のひとつです。

これらの場合、多くは標準的で均一化されたデザインの制服をサイズ展開や季節による違いで複数用意して貸与しています。中には、従業員一人ひとり採寸して身体にぴったりと合わせて貸与・支給している会社もあります。そうすることによって、制服を提供するコストはかかりますが、制服を着ていることへの満足感やプライドを高めることで、サービスやホスピタリティのレベルを引き上げることにつなげていくという意図をもつこともできます。いわば、ブランドへの投資またはブランドを維持するための必要経費として、制服を個人別に発注することもありうるのです。

従業員の経営参画を実感させる契機として、制服のデザインや求める機能などを公募したり、いくつかの候補の中から着用したいものを投票したりすることもあります。自分たちで意見を出したり選んだりした制服を着用し、一定の年数が経つ毎に次の制服を選ぶ機会が訪れるというのも、自律的に仕事に当たる感覚を得られるでしょう。

 

次に食事手当(昼食代補助)について考えてみます。

食事手当を支給する目的としては、一般に食堂や給食などがある拠点とない拠点との不平等を是正するとか、外勤者に対する外勤手当や営業手当などに対して内勤者にも昼食補助的な意味合いを持たせるものといったところでしょうか。

現実には、所得税法の非課税限度枠を活用するという税効率の面(注2)で支給するか、他社が支給しているのに自社は支給していないのでは採用時の競争性に欠けたり従業員の不平不満の引き金になりかねないといったことが、食事手当を支給する理由として挙げられます。

本来は、食事そのものを支給することで従業員全体に栄養補給をすることが目的だったのかもしれませんし、物流拠点や工場など周囲に食事をとったり昼食を購入したりすることが困難な環境にある場合では金銭的補助ではなく現物支給が求められます。そうなると食事手当という金銭的な補助は二次的なものであったはずです。

結局のところ、食事手当を現金で支給するということは、個人個人の自由裁量を金銭的に税法の許す範囲で補助するというのか、外勤営業のような勤務形態における営業手当を更に補償するものなのか、いずれにしても食事代の補助という意図を明確にすべきでしょう。そうであれば、在宅勤務であろうと弁当持参であろうと、等しく食事手当を支給すべきでしょう。

なお、ランチミーティングなど実際に仕事上の打ち合わせを兼ねて食事を摂る場合は、福利厚生というよりも会議費などの業務経費として処理すべきものです。そうした場合まで食事手当の対象とするのでは、却ってコストカットの印象を持たれてしまいそうです。

食事手当の非課税限度枠については40年ほど引き上げが行われてこなかったため、上限額の見直しが行われる可能性があります(注3)。いずれにしても、事業戦略との関連性はあまり見られないと言わざるを得ません。

ちなみに、飲食店でのアルバイトなどいわゆる賄い付きの仕事の場合、提供される食事そのものが働く上でのモチベーションにつながることもよくあります。いわゆる残業めしや夜勤食なども現物支給のほうが従業員にとっては望ましいケースも多いでしょう。このように、金銭で補償するよりも、仕事の現場の実態に合った現物(食事)を支給することのほうが、従業員の満足度は向上するものと期待できます。

 

金額的に最もかかりそうなものが、住宅に関する補助です。具体的には、(自社で整備する)社宅・社員寮及び借上げ社宅といった住宅の現物を用意するもの、住宅ローンの利子補給や(金銭で支給する)住宅手当などの住宅に関して現金を支給するものがあります。

中でも採用時に有力なのは、店舗や建設現場に住み込みが可能な住居(簡易な寮やシェアハウスなどが併設されているものなど)があれば即時に人手不足に対応できるかもしれません。また、特に幼い子供を持つシングルマザーなどを採用するニーズが強い業種業界(旅館業、特定の飲食業、店舗型の接客業、店舗型のサービス業など)は社宅や社員寮に託児所を併設するといった方法が採用面では効果的です。

国内外に転勤することがありうるという条件の下で人材を採用する組織にとって、転勤先ですぐに住むことができるように社宅や借り上げ社宅を整備しておくことは必要不可欠です。

但し、現代ではそもそも転勤の合理性を説明できるかどうかから見直す必要がありそうです。事業戦略を個々の職位において記述するものがジョブディスクリプション(職務記述書)であるとすれば、転勤に限らず部門や職種を変更する人事異動は対象となる従業員本人のキャリアプランを促進するものでなければならず、まして勤務する地域を変わる転勤ともなれば、本人が積極的にチャレンジするものでなければなりません。決して、員数合わせで無理強いするものではありませんし、もし受け入れなければ処分をほのめかすなど実質的に強要するのであれば、労働条件の一方的な変更ということで不当なものと判断できるでしょう。

こうなると、社宅や手当で対処できるものではありません。まさに、事業戦略と個人のキャリアプランとの整合性が問われるのです。

同様に、ある地域を新規開拓するために人材を送り込む場合と、いわゆる左遷で転勤させる場合では、戦略上の意味が違うのは当然です。このように同じ転勤とは言っても、事業戦略上の意味合いが大きく異なるにもかかわらず、同じように住宅を会社が用意するのが公平と言えるのかどうか議論が分かれるところです。

住宅に関することは福利厚生に留まるものではありません。どこに居住するかは基本的に個人の自由ですし、リモートワークや副業が進展するほど社宅に入居していることや居住地域の選択に会社が口を出すことがよいのかどうかが問われるでしょう。事業戦略というよりも組織戦略やカルチャーフィットの面から課題が出てくることが容易に予想できます。

 

福利厚生と一口に言っても、勘定科目では法定福利費という言葉があるように、労働法や社会保障に関連する法令で企業が義務的に負う福利厚生プログラムがありますが、これらは戦略も何もなく実施しなければならないものです。戦略的に考えるべき福利厚生プログラムが対象とするのは、それ以外のものであり、通常は事業戦略とリンクした組織戦略や人材戦略の一環として検討されるべきものです。

ちなみに、事業戦略を基本となる製品・市場戦略から考えてみると、〇〇という製品・サービスを××という市場に展開するには、どのような組織体制や人材が必要かを考えて、その人材を引き付けて仕事をしてもらい、〇〇を××に展開するという結果目標を実現することを考えます。その際に、必要となる組織や人材が機能させる上で金銭的な報酬(賃金、給与、ボーナスなど)とは別に求められる福利厚生プログラムには、どのようなものがあるのか検討することになるでしょう。

一方、同じように戦略的に考えると言っても、いわゆるリソース・ベースト戦略では、既にある組織や人材及び組織のもつ固有の価値観やコアスキルなどをベースに展開可能な戦略を考えることになります。ここでは現有の組織や人材の価値観やニーズに適合的なプログラムが求められます。金銭的な報酬制度ともども福利厚生制度も、現在のカルチャーや人材観と整合性の取れたものが不可欠となります。

こうした観点から既に運営されている福利厚生プログラムを見直したり、新たに制度やプログラムを導入したりすることで、事業戦略が結果につながるように人の面からサポートすることが求められています。

 

(3)に続く

 

【注2

食事に関する所得税の取り扱いについては以下のサイトを参照してください。

No.2594 食事を支給したとき|国税庁

食事を支給したときの非課税限度額の判定|国税庁

 

【注3

詳しくは、経済産業省「令和8年度税制改正に関する経済産業省要望【概要】(令和78月)」03.pdfより31ページを参照してください。

 

 

  作成・編集:人事戦略チーム+経営支援チーム(2025116日)