福利厚生を戦略的に考える(1)
先週、帝国データバンクから「福利厚生に関する企業の実態調査」が発表されました。その結果によると、企業の半数ほどが福利厚生の充実に前向きで、特に従業員の採用率・定着率の向上を狙いとして福利厚生に取り組んでいるようです。ただ、資金的に余裕があるかどうかで実際に取り組めているかは企業によって異なります。企業規模による差が明確にあり、小規模企業ほど福利厚生を充実させようと計画している企業の割合が低下する傾向にあります(注1)。
この調査では、現在実施しているものとして次の20の制度やプログラムを挙げています。
・通勤手当
・慶弔休暇
・慶弔見舞金
・退職金
・傷病休暇
・その他特別休暇
・家族手当
・資格取得支援
・永年勤続表彰
・住宅手当・家賃補助
・短時間勤務
・人間ドック
・労災補償給付の付加給付
・時差出勤
・在宅勤務
・社員旅行の実施・補助
・メンタルヘルス相談
・財形貯蓄制度
・社宅・寮
・レクリエーション
また、今後導入したいものとして、上記20項目と重複しないものが9項目あります。
・フレックスタイム
・育児・介護に関する補助
・ノー残業デー
・奨学金返還支援(代理返還)制度
・サブスク型福利厚生サービス
・食事手当
・運動施設
・保養施設
・社員食堂
こうしてみると、福利厚生の制度やプログラムといいながら、賃金・給与・報酬及び労働時間管理や勤務体系など人事労務管理そのものと言いうるものも含まれています。一方、制度やプログラムというよりも、組織の運営方針とか職場のルールや慣行といったものではないかと思われるものも含まれており、一般に福利厚生といわれるものの範囲の広さや曖昧さを推測できます。
内容を考えてみると、食事や住居など衣食住の面で仕事に関連するものもあれば、社員旅行やレクリエーションなど職場のイベントや習慣に関するものもあります。また、制度やプログラムを提供する際に、食事や住居に関するものなど金銭を支給する形態を取るものや金銭で代替できるものもあれば、休暇や勤務体系など金銭では対応できないためにサービスや権利を付与するものもあります。
このように、福利厚生に関する制度やプログラムは多種多様にあるため、どこから手を付けてよいのか判断しかねるかもしれません。単に人事労務の範疇で捉えればよいのか、採用や退職など人材マーケットとの関連で対応すればよいのか、対象となる従業員や採用したい人材の個別の要望や意向に沿えばよいのか、法令や社会的な動向からリスクマネジメント上の観点から検討すべきなのか、個々の制度やプログラムを導入し運営していくコストや労力などは事業運営にとってマイナスとならないかどうか、どのような課題に対して経営判断を優先すべきなのか経営者にとって悩ましい問題が多いでしょう。
特に中小企業では、専任のスタッフも少なく、充てることが可能な経営資源にも限りがあるなかで、経営者も従業員と距離が近いために目先の不平不満に対応しがちではないでしょうか。
このコラムでは、福利厚生を事業・組織全体の戦略を見る視点から検討し、実際に導入されている福利厚生の制度やプログラムにはどのようなものがあり、それぞれのプログラムの狙いや効果及び想定されるメリット・デメリットなどを概観した上で、福利厚生の戦略上の位置づけから導入・運営・廃止していくポイントを考えていきます。
【注1】
作成・編集:人事戦略チーム+経営支援チーム(2025年10月30日)