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人材不足で倒産することがないように(2)

人材不足で倒産することがないように(2)

 

人材不足による倒産に最も至りやすい要因が(経営者の)後継者難です。どんな企業でも経営責任を最終的に負う人がいなければ、それ以外の人材(事業運営のコアとなる役員や従業員、社外取締役など経営を監督する人材、出資者など)がいかに豊富に存在しているとしても、事業運営は成り立ちません。言い換えると、組織で働く人材が不足する前に、そもそも事業を起こしたり運営したりする経営者がいなければ、働く人材が存在する意味がない、と言うことも可能だからです。そこでまずは後継者難について考えてみます。

一般に、後継者難は、単に経営者自身の高齢化だけで生じるものではありません。大企業やいわゆるJTCのように、経営者が高齢化していて、従業員も相当に高齢化しつつあるような組織であっても、役員や従業員の人数が多ければ、現経営者が急逝したとしても誰かしら後継者となる人がいます。これはという人がいないとしても、取締役会のなかに指名委員会があるなどして、組織的に後継者を探すことが可能ですから、社内外から誰かしら後継となる人を見つけてきます。

後継者難が組織の運営や事業の継続に直結するのは、やはり中小企業や個人企業です。経営者自身に次世代の親族がいない、経営者だけでなく従業員も高齢化しており仮に経営者がいたとしても事業運営のコアとなるような従業員が早晩不在となる、従業員に経営を見せてこなかった故に人材育成も進んでいない、などの問題状況が典型的なものでしょう。

 

こうした状況に陥ったまま経営者が亡くなるなどして後継者難が顕在化してしまうと、会社を整理して事業を清算するしか対応策が取れません。日々、金周りのことばかりに目が行って、事業としての継続性や組織としての生存戦略を考えておく余裕がないのが中小企業や個人企業の欠点です。

そうならないようにするには、日常の経営において、即時・短期・中(長)期で後継者として特定の個人を意識しておくことです。今この瞬間、自分にもしものことが起こったら誰に後を任せるのか、それが1年後であったならば誰が望ましいのか、数年後もしくは計画的に後継者を指名することが可能であるとすれば誰であってほしいのか、少なくとも3種類くらいのシナリオを頭に描いてみて、具体的に個人名を浮かべてみましょう。

そうした個人について、経営を継ぐ後継者としてどのような要件を満たしていることが望ましいのでしょうか。この点を考えるに際して、例えば、事業承継MA補助金(第12次公募)では後継者(事業承継予定者)の要件として以下の4項目を挙げています。

 

承継予定者の要件 承継予定者が以下のいずれかに該当することを確認できること。

 ① 対象会社の会社法上の役員として 3 年以上の経験を有する者

 ② 対象会社・個人事業に継続して 3 年以上雇用され業務に従事した経験を有する者

 ③ 対象会社の会社法上の役員及び雇用され業務に従事した経験を通算3年以上有する者

 ④ 被承継者の親族であり、対象会社の代表の経験が無い者

 

この項目に沿って考えてみるのも一案です。

対象となる事業または組織で、3年程度の実務経験を役員か従業員として積んでいることは必要だろうということはすぐに理解できます。仮に親族が後継者となる場合でも、対象となる事業または組織で、同様に3年程度の実務経験が求められるでしょう。誰が後継者になるにせよ、自社に入社させて仕事をやらせるとか常勤役員に就任させて日常の事業運営を徐々に任せていく、といったような具体的なアクションを3年前には起こしていることが不可欠と思われます。

もちろん、即時に交代する必要が生じた場合は、このような要件を満たす人は誰もいないということが少なからずあるでしょう。無理にでも従業員か親族のなかから誰かが代表者に就任するというのが現実に多いケースであるかもしれません。その新経営者が実際に経営に当たってみて、やはり難しいというのであれば、会社を売却するとか別の経営者を連れてきて任せてみるというように、事後的に別の手段を繰り出すしかありません。それが尽きれば、事業を休止し会社を整理することになります。

後継の経営者となりうる候補者個人を特定して育成していく以外に、事業承継の方法としてMAを活用することも考えられます。ただ、現実にはいくつもの懸念があります。

そもそも買収に応じる会社や経営者を一定のタイムフレーム内で見つけることが現実的に可能なのか、無関係な第三者が所有権を手にして今日からすぐに経営できるのか、事業について何の知識も経験もなくても経営できるプロ経営者が買収会社側にいるのか、即時は無理でも一定の期間内に経営を担う人材と体制が整備できるのか、などなどMAを実行する上での課題をクリアしなければなりません。事業を運営するということは、単に不動産を買って賃貸経営を行うよりも難しいであろうことは容易に想像できるでしょう。

ちなみに、現在いる自社の役員による買収(MBO)ができるのであれば後継者難による倒産は避けられるのは言うまでもありません。また、従業員による買収(EBO)も時には検討すべき選択肢となります。特に次世代のリーダーとなりそうな人材が役員には見当たらず、従業員からしか適当な人材を見つけることができないのであれば、金融機関なども巻き込んでEBOを行うことで、後継者を発掘・育成することも可能です。

中長期的にMAを考えていくのであれば、比較的若いオーナー経営者が代表を務める会社にアクハイアー(コア人材を獲得するのを主たる目的として企業を買収すること)を仕掛けていくといった手段もあり得ます。経営者個人をヘッドハントするのではなく、その人が経営している会社ごと買収することで経営者とその会社を自社に組み込むのです。まったく事業シナジーがないのであれば、単純にホールディング・カンパニーの下に複数の事業会社をぶら下げる形態で構いません。数年後に、ホールディング・カンパニーの経営を買収した会社の経営者に委ねればよいのです。

後継者難という問題については、地方自治体のなかでも事業承継を促進するプログラムを自主的に展開している事例も見られます(注2)。自ら後継者として経営に参画したい人も、後継者を求めている企業も、こうしたプログラムに関わることから後継者問題に向き合ってみるというアプローチもあります。

 

【注2

例えば茨城県では次のようなプログラムやツアーを実施しています。

未来マッチング | 茨城県の事業承継ならバトンズ

あとつぎ募集中の店舗などを訪問するツアー「いばらき事業承継バスツアー」の参加者を募集開始 | 株式会社バトンズ

 

作成・編集:人事戦略チーム(2025812日更新)