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管理職の人材育成を再考する(2)

管理職の人材育成を再考する(2

 

前回記したように、管理職という人材グループを育成して強化していくということは、一言で言えば、管理職のレベルアップです。通常、今いる管理職のマネジメントスキルを全体的にアップさせるとか、現有の管理職の実務能力・専門的な知識や経験・マネジメントスキルなどを引き上げるとか、個々の管理職の能力開発を奨励し自ら学ぶ姿勢を打ち出すといったものです。

こう述べると、管理職向けに研修を行うとか経営幹部による指導を徹底することだ、と誤解されるかもしれません。講師を呼んで集合研修を行ったり役員が訓示を垂れて指導したりすることが、どれほどの効果をもたらすものでしょうか。今ここで論じるまでもなく、そのことを明示的に述べることは控えるとしても、管理職の育成・強化にはほとんど有用でないことは誰でもわかっていることでしょう。

具体的なマネジメントスキルや実務的な能力や行動様式であれば、研修や指導を行うよりも、MBAの講座や教材などを自ら学んだり、社内外でロールモデルとなりうる人を見つけて教えを乞うとかマネジメントスタイルを模倣したりすることが役に立ちます。自分に欠けている知識や情報があるのであれば、まず何が不足したり基準を満たしていないのか確認した上で、自己学習を行って得た知識やスキルに基づいてマネジメント行動を変えていくことが有用です。

〇〇ハラスメントといった問題への対応も、単に研修を行えばよいわけではなく、知識・情報・スキルといった移転可能なものは自ら学べばよいのです。但し、既に不祥事が起こってしまった状況では、組織的な対応策として全体的な研修や役員や管理職を対象としてガイドラインの共有などは、必須のものとして要求されます。

 

いずれにしても、ポイントは自ら気づいて動くことです。ただ、これが最も難しいことかもしれません。というのは、大概の管理職は仕事が忙しく、自分のことも部下のことも面倒見切れないと思い込んでいるからです。そして、自分は世の中の流れもわかっていて、間違ったことはしていないという思い込みが多少なりともあるからです。

確かに、多忙という面はあるでしょう。そうであるならば、管理職の仕事の整理から始めるべきです。特に社内のコミュニケーションやさまざまな調整、日常的な面談、目標設定や業績評価の面接やフィードバック、定例的な会議の主宰や日程調整などなど、スケジュールやルールに従ってこなすだけの仕事は一掃すべきです。実際、これらの仕事はマネジメントの一部を成すものではありますが、IT/DXにより自動化したりリモート化して対応したりすることが可能なものです。

同時に、従業員サーベイや多面評価を活用して、個々の管理職の強み・弱みとか長所・欠点などを組織的に把握します。何が足りないのか、強化すべき点はどこなのか絞り込みます。単にマネジメント能力が不足というのでは、手の打ちようがありませんし、どの部署のどのレベルの管理職に問題があるのか、個人名を特定してピンポイントで問題点を把握すべきです。

そうした現状調査の結果を個別にフィードバックしておいた上で、研修プログラムやコーチングなどのサポートをメニュー化して選べるようにしてきます。これらのプログラムやサポートサービスなどは全て自社で用意する必要はなく、適宜外部のものを活用すればよいのです。

そして、管理職の育成・強化を行う上で忘れてはならないのは、レベルアップできない(しない)管理職が自然と淘汰される環境を整備することです。管理職として要請されるレベルに達していない管理職は、管理職から降りるように仕向ける方策が必要です。いかに、育成・強化のための施策を打っても、この淘汰のメカニズムが機能せず、問題のある管理職が残り続けるならば、実際に管理職が育成・強化されることはないでしょう。

まずは、人数を減らすのも一案です。特にJTCと呼ばれるような企業では、さきほど述べた淘汰のメカニズムが適切に働いていないことが多いので、組織変革とともに管理職ポストの整理・統合を行って、例えば、100人の管理職が現在いるとして、そのポストを半分に統合する一方、戦略上の要請から新たに20のポストを設定して、現在の100人と、社外からの採用予定者も含めて新たに登用すべき30人程度の管理職候補者で、今後の70のポストを130人からの公募で満たすのです。言い換えれば、60人は管理職ポストに就くことができないので、早期退職優遇制度などの退職パッケージの適用を受けたり、管理職への登用が見送られたりすることになります。

事業戦略の変更、企業カルチャーの強化や再生、マネジメントのスタイルの見直しなどにより、組織として必要な変化についていけない管理職が必ずいるはずです。それも少なくない人数でいるのが通例です。その特定と解消策の実行が、現在いる管理職の育成・強化に不可欠なのです。

 

(3)に続く 

 

作成・編集:人事戦略チーム(2025520日更新)