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管理職の人材育成を再考する(1)

管理職の人材育成を再考する(1)

 

先月発表された帝国データバンクの調査結果(注1)によると、管理職や経営層などのリーダー人材について、その不足感を回答している企業は7割に近く、単なる人手不足を大きく上回ってリーダー人材の不足が実感されています。その原因として、リーダー職への意欲不足やリーダーシップの不足が数多く挙げられています。調査の結論として、次世代の経営者となるべきリーダー層の人材が質的にも量的にも不足しているということです。

一方で、若手や中堅の有望な社員が管理職への昇進を拒否したり忌避したりするという話もよく耳にします。その理由としては、管理職の責任の重さや業務処理量の多さに加えて、それらに見合うだけの報酬が得られるわけではないといった処遇面の課題、部下をもつことや一定の組織をリーダーとして率いることの困難さ、マネジメントに時間と労力を割かれて自分のやりたい仕事ができなくなることへの不満などもあるとなれば、やりたくないと思うのも無理はありません。更に、家族事情や転勤なども重なってくるとすれば、管理職への昇進が魅力的には思えないのは仕方がないことなのかもしれません。

このように、管理職については、経営層からも一般層からも問題視されていると言わざるを得ません。こうした問題は、昔から存在していたものではありますが、近年、より深刻さが増しているのではないでしょうか。このままでは人的資本を論ずる前に管理職不足から組織運営が成り立たなくなる企業が続出するかもしれません。

 

さて、「管理職の人材育成」というと、その意味するところは大別して3種類あります。ひとつは、文字通り、管理職という人材グループを育成して強化していくこと、次に(管理職ではない人材層から)管理職に人材を育成・選抜していくこと、最後に管理職からより高度な(上位の)人材に育成していくことです。

管理職という人材グループを育成して強化していくということは、一言で言えば、管理職のレベルアップです。通常、今いる管理職のマネジメントスキルを全体的にアップさせるとか、現有の管理職の実務能力・専門的な知識や経験・マネジメントスキルなどを引き上げるとか、個々の管理職の能力開発を奨励し自ら学ぶ姿勢を打ち出すといったものです。

管理職となる人材を管理職ではない人材グループから育成・選抜するということは、現場の実務担当者の中から管理職に登用すべき人材を発掘し育成し選抜していくことになります。現場の社員が全員、管理職となるはずはありません。とは言え、管理職となる人数が管理職のポストや定員などと比べて極端に少ないとすれば、内部昇進に加えて外部から管理職または管理職候補を新規に採用することも考えなければなりません。

管理職からより高度な(上位の)人材に育成していくというのは、通常は管理職から役員への登用に値する人材を発掘し育成し選抜していくことです。そこで、管理職に役員レベルの知見や視点を持つように教育研修や多面評価などを実施して、雇われている側の意識や行動から経営する側の意識や行動を体現するように変容を迫ります。同時に、経営者としてのスキルセットや知識体系なども身につけることが要請されます。人材が不足しているという自覚があるなら、ここでもまた、内部昇進に加えて外部から役員または役員候補を新規に採用することも考えなければなりません。

ちなみに、全体で10名程度までの小規模な組織では管理職に相当する役割は明確ではなくても、組織は機能し仕事を処理することはできるでしょう。しかし、それ以上の人数となり対外的にも関係者が多くなるほど、経営層と現場(実務者レベル)だけでは仕事が回らなくなります。また、現代の組織では、より現場に意思決定の自由を与えて、経営層と同じ目線で物事を自律的に決めて動かなければ、環境変化に即応できないため、現場でも経営者目線が必要であり、管理職並みの権限が求められるのです。従って、管理職の育成というテーマは、個人事業レベルの組織以外の全ての組織にとって再考すべき課題と言えます。

ただ、管理職の育成と一口に言っても、何が自社の課題なのか、即ち、現在の管理職の育成・強化なのか、次の管理職の育成・選抜なのか、管理職から役員への育成・登用なのか、最優先すべきポイントを見極めて着手することが肝要です。

 

【注1】

詳しくは以下を参照してください。

リーダー人材不足に関する企業の意識調査|株式会社 帝国データバンク[TDB]

250318_リーダー人材不足に関する企業の意識調査.xps

 

作成・編集:人事戦略チーム(2025428日更新)