結果を出す方程式(4)
第三の「環境」とは、個人の意思や力では短期的に変えることができないもので、その人を取り巻く組織や事業体、その組織を取り巻く事業環境などです。経営分析では3C・4P・7Sなどのように、組織を取り巻く外部環境とともに、組織内部についても分析対象としますが、結果を出す方程式においても同様に、外部環境とともに組織内部も個人にとっては「環境」となります。
つまり「環境」というのは、組織を取り巻く外部環境は基より、組織のもつ経営資源(プロダクトやサービスの質・価格などの競争力など)、現在所属している組織の構成や人材、組織分掌・業務体制及び業務システム、組織のもつカルチャーや価値観なども含まれます。組織構造や職務権限といったハードなもの、使うべきITシステムなどの仕組みや仕事の手順、職場の人間関係のようなソフトなものなど、様々なものが環境を構成します。
仕事で結果を出すには、自分一人の力だけでは続かなかったり、より高いレベルの結果にチャレンジしても手が届かなかったりすることもあります。そうした状況を打破するには、周囲の力を借用することを厭わず、使えるものは何でも使う姿勢も時には必要です。
要は、環境は自らの力で変えるのではなく、利用・活用するものと割り切って認識することが、ある程度の時間軸で結果を出すには肝要です。特に大企業や中堅企業など経営資源を有する組織に属しているのであれば、その資源を利活用しない手はありません。
例えば、社内トレーニングや社外教育プログラムが充実している組織であれば、それらを利用して自らの能力やスキルを向上させないのはもったいないことです。なければ自ら発案してプログラムを作ったり、公的な補助金を活用したりして、能力やスキルを向上させる機会を設けることです。また、自己資金ではとてもできない投資でも、会社の資金を使って事業を買収したり権利を取得したりすることが可能なのです。会議室やITシステムを使って勉強会を催すだけでも、環境の利活用です。
具体的にどのようなリソースを利活用できるのかは、就業規則や職務権限規程など一度は読み込んでみて、組織が提供するプログラムや使える制度の中から使えるものをリストアップしてみなければわからないでしょう。休日・休暇に関するルールでも、それらを使って社外の講習・講座などを平日に利用して、新たなスキルを習得したり、これまでは関係が構築できそうもなかった業界・職種の人々と知り合ったりすることで、まったく異なる結果を生み出すことができるかもしれません。
組織の力や経営資源は目に見えるものもあれば目に見えないリソースもありますが、それらがない状況にあって始めてその存在や大きさがわかるものです。大企業や日の当たる部門にいた際には気がつかなくても、中小企業に転職したり自分で個人事業を立ち上げたりしてみると、大企業のネームバリューやリソースを改めて有難いと思うこともあります。
特に業務の仕組みや人材がいかに揃っているか、別種の組織に身を置いてみて初めて思い知ることなのです。自分の能力・経験・スキル・知見・人脈などで足りないところがある(十分に足りている人のほうが圧倒的に少ないでしょう)ならば、それらを利活用して結果を出す確率を高めていくことが必要です。
一方、仕事で結果が思うように出ず、その原因がはっきりしない場合もあります。そうした際には、環境を変える必要があるかもしれません。
まずは、担当している仕事に直結する領域で業務改善やジョブ・クラフティングを試みるかもしれません。ただ、新たに何かを開発したり導入したりしようとするのには抵抗があって当然で、そのために予算や人員が必要というのでは話は容易には進みません。もちろん、業務改善やジョブ・クラフティングを組織的に展開しているのであれば、その動きに乗ることもありますが、あまり多くを期待することは避けたほうがよいでしょう。
反対に、今やっているものを無視したりやらずにスルーしたりすることも、環境を変える手段としてもつべきです。同じ結果を出すのであれば、手間やコストや時間をできるだけ少なくするように心掛けて、何もせずに時が過ぎ去るのを待つというテクニックを身につけるほうがよい状況もあります。
例えば、上司が優柔不断で決めることができず、業務指示がコロコロと変わり、部下たちが朝令暮改に振り回されているケースです。これでは、部下たちが個人として仕事の結果を出すことも難しいでしょうし、部署として組織的に結果を出すことも容易ではありません。こうした状況では、無駄な作業ばかりで何も進まないのです。
改めて言うまでもありませんが、上司は元より、同僚や部下もそう簡単に変えることができない環境の一部です。皆で示し合わせて、上司の指示があっても真の締め切りぎりぎりまでは作業に着手しない、といったことが有効な場合かもしれません。いざとなれば、終業時刻を過ぎれば帰宅するなり、在宅勤務であれば別の作業をしたり回線不良のせいにしたりして、頻繁に変更される業務指示はスルーすればよいのです。そして、職務分掌上の本来の仕事や今期の目標を達成するための作業など、結果と呼べるものに集中しましょう。
また、結果の意味を考えてみれば、ドラッカーではありませんが、上司が結果を出せば出世するのであれば、上司に結果を出させるように自分が動けばよいわけです。それ以外のことは無駄な作業と割り切って取り組まず、上司の上司(担当役員など)が求めることに応えていけばよいのです。同僚や部下も同じで、彼らの足を引っ張るよりも、彼らに結果を出させるように自分が動けばよいでしょう。
その結果、自分の周りに敵や気に食わない奴がいなくなるのであれば望むところです。彼らが昇進したり他社に引き抜かれていなくなることもあれば、結果が出るようにサポートしたことを感謝して味方になったりするからです。
もし、上司の言うことを無視したとして左遷されたとしても、ダメの上司の元から離れられただけでも成功です。少なくとも、新たに与えられた職場で求められる結果が何かしっかりと把握して、それらに向けて仕事に取り組んでいけばよいのです。
このように、職場の人間関係がうまくいかないのであれば、むしろ、それらを利活用することをまずは冷静に考えたいものです。とはいえ、どうしても環境を変えられず、その環境に耐えられないのであれば、部署や職種の異動や転職で環境を一変させることも一考の価値があります。そして、最終的には、退職するというカードを切る権利があるということも忘れてはなりません。
但し、退職というのは一種の切り札であって、軽々に使うものではない点に注意が必要です。何の計画や見通しもなく退職して転職していくと、これまでの能力や経験をそのまま活かせることはないと覚悟しなければなりません。転職先という新たな環境と自分のもつ能力やこれまでの経験との掛け算が成立するには、事前に転職先の業界や職種などを調べて最低限必要な能力や知識は身につけておかなければなりません。
何しろ、結果を出す方程式は掛け算ですから、新たな転職先が未経験で活かせる能力やスキルもないという、真にゼロの状態では、どんなに環境が素晴らしくても、結果はゼロにしかならないのです。
作成・編集:人事戦略チーム(2024年12月12日更新)