ミンツバーグの組織論(2)

ミンツバーグの組織論(2

 

(2)組織デザインのメカニズムと基本的な要素

 

本書では、始めにプレーヤーとその相互関係を4種類の基本的な類型から論じます。組織を意思決定と戦略立案とマネジメントの場とするならば、アート・クラフト・サイエンスの3つの要素からマネジメントのスタイルが形成されていることを示した上で、組織デザインのメカニズムと要素について考察します。

 

著者によると、組織における主なプレーヤーというのは、オペレーター・サポートスタッフ・アナリスト・マネージャーという組織内部の構成要員に加えて、(組織のもつ)文化やインフルエンサーも考察すべき対象(注1)となります。

本書では、その相互関係を4種類の基本的な類型で説明します。すなわち、「チェーン」「ハブ」「ウェブ」「セット」です。

「チェーン」というのは、業務が直線的に進むもので、自動車の組み立てラインとかサプライチェーンやバリューチェーンといった表現からイメージされるように、次から次へと仕事が渡ってゆくものです。図で描けば、矢印が一方向に向いて並びます。

「ハブ」は、調整が行われる中心がはっきりしており、さまざまな活動の焦点が確立されているものです。その中心で仕事が全て(または大半)処理されます。図で示せば、中心と外側の間に数多くの双方向の矢印が描かれます。イメージとしては、ハブ空港に相当するのが「ハブ」の中心にいるマネージャーで、他のプレーヤーはハブ空港に離着陸する航空機に相当します。実際の作業は各プレーヤーが担当するのですが、プレーヤーへの指示・監督やプレーヤー間の調整はマネージャーが一手に引き受けます。

「ウェブ」は、特定の順序や中心がないまま、仕事が自由自在に動きながら処理されます。人や情報、モノやカネがあちらこちらに動くので、矢印の方向や長さがさまざまで、矢印の受け手も出し手もランダムに広がるイメージです。蜘蛛の巣のような同心円に近いものをイメージするよりも、もっとランダムに仕事がやりとりされるものです。

「セット」は、構成するパーツ(ユニットと呼ぶ方がイメージしやすいかもしれません)が緩やかに組み合わされていても、相互に独立しているものです。小売りや外食などの店舗がひとつのセットとすれば、店舗網はセットを寄せ集めたものと言えます。

実際の組織は次のように見立てることができそうです。

流れ作業で物を製造するのはチェーン型の組織で、一人ひとりの作業者はオペレーターとして作業マニュアルなどに従って仕事を処理します。

作業マニュアルを策定するのは、アナリストの仕事です。但し、アナリストはこの組織に属しているとは限らず、コンサルタントや本社の生産管理スタッフかもしれません。

アナリストが属する組織はセット型の組織かもしれません。現行の製造方法を計測・作業分析を行う人、計測結果をデータ処理する人、作業方法を組み立てる人、マニュアルを書く人、プロジェクトの進行管理や経費管理を担当する人などから構成される作業標準策定チームは、作業標準策定やマニュアル作成に必要なスキルをもった人々から構成されるセットです。

オペレーターやアナリストが使うIT機器を管理するのは、サポートスタッフです。同様に、作業場所を物理的に管理したり作業環境を整えたり、給与を振り込んだり経費を精算したり福利厚生プログラムを用意したりするのもサポートスタッフです。

マネージャーは仕事量と納期を示して、作業を監督します。品質管理は「ハブ」かもしれません。一定の作業が終わったラインの責任者(ラインマネージャー)が作業結果を取りまとめて品質チェックの部署に持ってきて検査を受けて出荷するとすれば、品質チェックの場を中心として放射状に展開するのが一つの方法です。

紹介者は、マネージャーがハブとして実際に機能している現場を何回か目にしたことがあります。ひとつは、アパレルで在庫調整を行うマネージャーです。これはマーチャンタイザーと呼ばれていました。毎週月曜日の朝になると、前日までに販売された商品を残っている商品を店舗ごとに集計して、個々の商品をどの店に振り向けるか、今週入荷される商品も含めて判断し、店舗や物流センターに指示していました。もうひとつは、業績不振によりリストラに迫られている企業です。親会社から派遣された新任役員であったり、その企業を買収したファンドから送り込まれたCEOであったり、立場はさまざまですが、こうしたターンアラウンド・マネージャーの多くは、社長室に籠ることなくリストラチームのウォールーム(リストラの実務を取り仕切る会議室など)で議論と意思決定の中心に位置し、文字通りハブとして機能している例が多いのです。

 

次に著者は、組織を意思決定と戦略立案とマネジメントの場とするならば、アート・クラフト・サイエンスの3つの要素からマネジメントのスタイルが決定されることに言及します(注2)。

アートというのは、見ることに重きを置くスタイルです。クラフトは、行動することから出発することが多いスタイルで、サイエンスは、まず考えるスタイルです。言い換えると、何かを意思決定する際に、観察からスタートし直感を重視するのがアート、試しに動いてみて経験を積んでいくのがクラフト、データを収集・分析してロジックを組み立てるのがサイエンスということです。

現実の意思決定はこれらがミックスしたものですが、マネージャー自身がどのようなスタイルかを知っておくことが重要です。例えば戦略形成において、マネージャーの意思決定スタイルと戦略形成の型がある程度は合わないと、戦略形成が進まなくなるでしょう。

本書では、戦略形成を大きく4つの類型に分けて考察しています。つまり、「計画モデル」「構想モデル」「冒険モデル」「学習モデル」です。

「計画モデル」では、上級幹部や専門スタッフが市場におけるポジショニングなどの戦略を分析的に立案し、他は実行する役割に徹します。「構想モデル」は、創業者や経営トップなどのビジョンをもとにパースペクティブとしての戦略が形成され計画的にポジショニングを定めていきます。「冒険モデル」は、数多くの関係者がさまざまなポジショニングを提唱するものです。「学習モデル」は、まず行動するところからスタートし、試行錯誤や組織的学習によりポジショニングとパースペクティブが形成されていきます。

ここから示唆されるのは、マネージャーの意思決定のスタイルと戦略形成と環境変化との関係についてです。

つまり、マネージャーがアート重視であれば「構想モデル」との親和性がありますが、多くのマネージャーがアートに偏り過ぎると「冒険モデル」となりそうです。環境変化が激しいのであれば、「冒険モデル」でどれかひとつでも成功すればよいという発想も成り立ちそうですが、そうした環境でないのなら「構想モデル」のほうが適しているように思われます。

また、マネージャーがクラフト志向を強くもつのであれば、「学習モデル」が推奨されそうです。マネージャーがサイエンス志向に傾くのであれば、「計画モデル」が実施されがちでしょう。いずれも安定的な事業環境であれば、戦略の有効性が計算できるかもしれませんが、急激な環境変化に対してはスピードに欠けるきらいはあります。

 

更に本書は、マネジメントには情報・人間・行動の3つの次元があることを説きます。情報のマネジメントとは、周囲の世界とコミュニケーションをとるという組織外部との情報流通の面と部署内をコントロールするという組織内部の情報流通の二つの面があります。人間のマネジメントにも、内部の人々を導くというリーダーシップの面と、組織を代表して外部の人々と関わるという対外コミュニケーションの面があります。行動のマネジメントも同様で、組織内部で物事を実行するという面と外部と取引を行う面があります。

ここから、マネージャーのコミュニケーションを考える上で、情報・人間・行動の3次元それぞれに、組織外部との関係と組織内部でのやりとりのふたつのシーンがあることを明確に意識して使い分ける必要があると示唆されます。現実のマネージャーの多くは、自分が得意と思っている次元・シーンでのコミュニケーションに偏っているのではないかと思われるのは、紹介者だけではないでしょう。組織の類型の違いによっても、これらのコミュニケーションは留意すべき点が異なってくるはずです。

 

次に、組織デザインのメカニズムについて考察していきます。

最初に考察されるのは、調整のメカニズムです。これは、相互の調整、直接的な監督、業務の標準化、成果の標準化、スキルの標準化、規範の標準化、という6つの類型に分かれます。

相互の調整は、必ずしもマネージャーを介するとは限らず、当事者同士が随時、互いにコミュニケーションをとることで調整していくことです。長年固定的なメンバーで熟練したスキルをもつ従業員同士が阿吽の呼吸で作業を進める職人芸の世界では、スキルや規範が標準化されたところに相互の調整が暗黙裡に行われています。組織の類型に即して言えば、この調整メカニズムは特にウェブ型の組織に求められるものです。仕事のプロセスや結果は、相互の調整の如何にかかっているため、一般にはかなりのバラつきが出るのではないかと危惧されます。

直接的な監督は、マネージャーが当事者に指示することでメンバー間の調整を行うものです。マネージャーがハブとなって機能するので、組織形態はピラミッド型で仕事はチェーンのように流れていくとしても、ハブ型の組織運用が求められます。マネージャーの質によって、仕事の成果には大きな違いが出そうです。

業務の標準化は、ルールやマニュアルなどが整備されることで、事前に業務内容を事細かく決定しておくものです。あまり高度なスキルを要しないオペレーターばかりで運営される組織では必須のメカニズムです。組織のマネージャーの手腕よりも、アナリストの能力によって成果が左右されるでしょう。著者は、ルールが徹底されていて現場の実務がほとんど標準化されている組織を「官僚組織」と呼ぶと断言していますが、個別の事情を酌まず杓子定規に物事を処理するという意味であれば、正に官僚的と言えるでしょう。

成果の標準化は、業務そのものを標準化できない場合に行われます。個々の作業の進め方はオペレーターに委ねられますが、成果(目標)についてはマネージャーが事前に指定することで共通のゴールを認識することが可能となります。タクシーを運転する場合を例に、成果(目的地に合理的なルートで安全に到着すること)と業務(自動車を運転する行為)の違いを理解できるように説明しています。

スキルの標準化は、事前に研修(練習)やシミュレーション(稽古や予行演習)などを通じて、それぞれの持ち場や動き方を通じて、誰が何を行うか、自動的に調整されるようになっているものです。紹介者は、テーマパーク等のエンターティンメントの運営やハイグレードな宿泊施設やレストランなどを具体例として想起しました。

規範の標準化は、文字通り、規範(あるいは価値観)を標準化することで、その信念に向けて行動することでメンバー同士の行動が調整されるものです。ルールやマニュアルの強制でもなく、学習による習得でもなく、教化とか社会化のプロセスを通じて行われる調整です。これは、伝説となるサービスといったエピソードの背景にあるものかもしれません。スキルの標準化と組み合わせて進めることで、より確実に成果を挙げることができるでしょう。また、成果の標準化のベースに規範の標準化があれば、成果の意味を共有することで可能となります。

マネジメントとは、これら6種類の調整メカニズムを活用することです。特に現代は、開かれたチーム、タスクフォース、ネットワーク組織など、直接的な監督や業務の標準化といった伝統的によく見られるメカニズムだけではマネジメントしきれない組織がありふれたものとして普及しているので、適切な調整メカニズムをマネージャーが選択して実践することが肝要です。

紹介者としては、これらの指摘に加えて、リモートワークにおける調整や静かな退職に見られるエンゲージメントの低い従業員のマネジメントなどについても、改めて効果的な調整メカニズムが何なのか、しっかりと検討する必要に迫られていると指摘できます。特に規範の標準化は重視し過ぎることはないと言えるでしょう。パーパスやミッションの重要性や必要性が説かれる一因でもあります。

 

著者によれば、組織デザインの要素というのは、役職・部署・部署間調整のことをいいます。

まず、役職(マネジメントポジション)の設計についてですが、3ステップで進めます。つまり、職務範囲を定める、正式化を進めて自由裁量に枠を嵌める、その役職に求めるスキルを学習させる(研修と教化)、というステップです。

実際の組織では、職務範囲の定義や正式化は職務分掌規程やマネージャーの職務マニュアルなどで明確になっていると思われます(日本の組織ではむしろ不文律のほうが実効性の高いルールかもしれません)が、役職別の研修と教化はOJTや通り一遍の役員研修や管理者研修で事が足りていると誤解しているケースが多いと紹介者は推測します。

次に部署のくくり方(グルーピング)を検討します。現実の組織は、いくつかの単位組織だけで成り立っているわけではありません。複数の単位組織を束ねて上級の組織を設け、それらをいくつか更に束ねてより上級の役職で監督するといった、組織構造が必要となります。

ここで注意すべきは、サイロとスラブです。サイロは、いわゆる蛸壺状態の組織の問題状況で、縦方向の直接的な監督が可能な換わりに横方向(部門間)の情報の流れや調整が容易に進まない状況をいいます。スラブは、同じ階層の役職者の間では情報が流れても、階層が違うと情報がうまく流れず、調整が進まない状況のことです。特に、上位階層が物理的に別の階に存在するとより悪化して見られることが多いようです。業務の内容、実行方法、求める成果(の共通性)、場所と時間、対象(の違い)などを、部署の設計に当たって考慮しなければなりません。

これらに加えて、部署の規模(部下の人数)や分権化の程度も重要です。特に分権化は調整のメカニズムに影響を及ぼし、最も進めると「相互の調整」になり、まったく進めないと「直接の監督」となります。調整のメカニズムをどうするかということは分権化(または集権化)をどこまで進めるのかということを考えることに他なりません。

第三の要素である部署間調整は、主に計画とコントロール及び部門間のつながり方に関するものです。計画とコントロールは、成果の標準化や相互の調整といったメカニズムを重視することになりそうです。目標の共有化、予算やシステムのありかたも検討を要します。

部門間のつながり方については、サイロやスラブといった問題に陥らないように、事前にリエゾン(部署間の連絡係、橋渡し役)を置くとかマトリクス組織を導入して、複数の上級マネジメントの監督下に置くといった方法が検討されることが多いでしょう。

 

こうした一般論としての組織デザインについて考察することとともに、組織デザインの現実として、文脈を踏まえた組織設計の重要性についても言及します。文脈というのは、組織の歴史、技術的システム、環境変化、権力のありかたについて考察を求めるものです。

歴史が長く規模が大きい組織ほど、組織における行動は正式な性格を帯び、組織構造は入り組んだものになり、役職と部署の専門分化が進み、管理体制が強化されがちです。また、業界業種の歴史が長いほど、組織の同質化が進み、正式化された組織構造をもちがちという指摘もあります。

技術的システムとは成果物を生み出すために事業活動で用いる手立てのことで、テクノロジーそのものを意味するわけではありません。業務が技術的システムによってコントロールされるほど、組織の管理上の構造も正式化されます。技術的システムが複雑なほど、サポートスタッフの陣容が手厚くなり、専門性が高くなり、影響力も大きくなります。業務コア(現場業務の中核)の自動化が進むほど、組織構造が官僚主義的なものから有機的なものに変容するという本書の記述にも十分に留意しておくべきです。

環境の影響としては、環境変化が激しいほど、組織構造は有機的なものになることと、環境の複雑性が高いほど、組織構造の分権化が進むことを指摘しています。ということは、現代は環境変化の激しさと複雑性はともに増しているはずですから、組織構造はより有機的で分権化されたものになるであろうと示唆されています。

権力のありかたも組織構造に大きく影響します。例えば、組織が外部からコントロールされているほど、組織構造の集権化と正式化が進むとか、複数の部外者の間で権力が分散している組織では、内部対立が生まれやすい、流行も組織構造に影響を及ぼす、といった一連の指摘は、国有化された企業とか複数のファンドに買収された企業に起こったエピソードを思い出すだけでも納得させられるものがあります。

 

以上、「チェーン「「ハブ」「ウェブ」「セット」というプレーヤーとその相互関係の基本的な類型を説明し、アート・クラフト・サイエンスの3つの要素からマネジメントのスタイルが形成されていることを示して、組織デザインのメカニズム(相互の調整、直接的な監督、業務の標準化、成果の標準化、スキルの標準化、規範の標準化)とその要素(役職、部署、部署間調整及び組織の文脈)について解説しました。

 

(3)に続く

 

【注1

自明のことかもしれませんが、本書の3235ページの記述をもとに、念のためにそれぞれのプレーヤーについて説明しておきます。

オペレーターは、製品の製造、サービスの提供、製造やサービスの直接的な支援など、組織の基本的な現場業務を担います。いわゆる現場のプレーヤーです。

サポートスタッフは、現場業務を間接的に支援します。人事、経理、情報システム、法務、総務、施設管理など、いわゆる間接部門で仕事をする人たちです。

アナリストは、分析を行うことによりその組織における活動をコントロールし、調整します。計画立案、スケジューリング、予算策定、結果の測定などを行います。いわゆる企画系の部署(事業企画、営業企画、生産企画など)や業務管理などが該当します。

マネージャーは、特定の部署または組織全体に対して、指揮・命令・監督を行います。組織図の上では、権限の階層が形づくられますが、そのひとつひとつの階層にマネージャーが存在します。組織全体となると、通常はCEOに代表されるCXOと称される執行役員層がトップのマネージャーとなります。マネージャーの名称は、業種業界や組織の種類のよって異なります。

(組織のもつ)文化というのは、その組織に浸透している信念の体系です。組織のすべてのプレーヤーに共有される枠組みを提供します。職種横断的に共有されているものもあれば、言語や地域によって共有されているものもあります。共有される価値観として明示的に標榜されていることも多いのですが、必ず目に見える形があるとは限りません。

インフルエンサーは、組織の外から組織の行動に影響を及ぼそうとする別の組織です。営利企業にとっては投資家や株主、労働組合、規制当局などだけでなく、NGONPO及び国際機関や地域社会などさまざまなものがあります。その中でより直接的なものをステークホルダーと呼ぶこともあります。

 

【注2

スタイルの特徴を判別するには、本書46ページにある3つの言葉からひとつを選ぶチェックリストを用います。ちなみに紹介者はa-0,c-7,s-3でした。一般的にマネージャーにアート・クラフト・サイエンスのバランスが求められるとすれば、マネージャーには向いていないのでしょう。

 

文章作成:QMS代表 井田修(2024918日更新)