ミンツバーグの組織論(3)
(3)基本的な4形態~パーソナル型・プログラム型・プロフェッショナル型・プロジェクト型とは
次に、組織の基本的な4形態を説明します。パーソナル型、プログラム型、プロフェッショナル型、プロジェクト型、それぞれの基本構造や長所・短所などを著者が詳説します。
① パーソナル型組織
パーソナル型とは、個人が君臨する組織で、極めてシンプルな構図をもちます。すなわち、ひとりのマネージャーに複数のオペレーターやサポートスタッフがダイレクトにつきます。アナリストはいないことも珍しくはありません。ハブ型の組織構造を取り、組織で行われるはずの意思決定や戦略形成は、最高位者(ひとりのマネージャー)が単独で行うか、または最高位者を中心とする少数者で行われるので、状況に迅速に対応できるメリットがあります。
この場合のマネージャーは、一般にサイエンス志向よりもアート志向が強く、直感的で場当たりな的な行動が多くなりがちで、その人の世界観や個性が組織の戦略に強く反映されたものになりやすい傾向にあります。
一般に、パーソナル型組織はスタートアップや小規模な事業体に多く見られる形態です。そして、創業者が事業の立ち上げから拡大に成功し、相応の事業基盤を作り上げた後もそのまま最高位者(CEO)として組織全体のリーダーとなる場合は、組織もそのままパーソナル型で運営されることも珍しくはありません。また、経営危機に見舞われリストラやターンアラウンドに迫られた組織は、一時的にこのタイプの組織構造に変化して、戦略の焦点を絞り文化を再建することに臨むケースが多く見られます。
以下、パーソナル型組織の特徴をまとめてみます。
・ マネージャーにビジョンが必要
・ (ビジョンに欠けると場当たり的な対応に終始しがち)
・ マネージャーが戦略を定めるだけでなく、その実行にも細部まで関与
・ マネージャー個人の能力や資質に全面的に依存するため、その人がいなくなると組織が機能しなくなる虞が大きい
・ マネージャー自身が事業の立ち上げ・拡大・再生などを実現すればするほど、その成功パターンから脱却できなくなりがちなため、戦略上の成功要因がそのまま失敗につながるリスクが大きい
・ 責任者(マネージャー)の後継者問題が特に不可避
・ (同じ人物を育成できない、責任者が自分の後継者を育成する必要性を感じない)
この形態の組織は、政治機構などで運営されるとポピュリストを生み出し権力にしがみつかせる危惧がありますが、営利企業やNPO・NGOでは新たな事業を創造したり危機に陥った組織を再生したりするのに、一時的であっても必要不可欠な組織形態であることは間違いない、と著者は指摘します。
② プログラム型組織
プログラム型とは、工程が定められている機械のことを意味します。そうした機械のように組織を運営するのが、プロジェクト型組織です。
分業と専門化の原理に基づき、この組織の業務コアで実行される業務は、できる限りシンプルで、専門特化していて、反復性の高いものとなります。業務コアを担うオペレーターは最低限のトレーニング(時にはトレーニングなし)で業務を実行することが狙いなのです。
個々の業務(職種)は相互に独立していますが、つながりはあり、チェーン型の組織構造をとります。それぞれのチェーンに責任者(マネージャー)が少なくとも一人はおり、それらの責任者を統括する上位の責任者がいるなど、この組織形態は階層性をもつ傾向が極めて強くあります。
プログラム型組織は、分業と専門化で運営される業務コアだけでなく、その業務コアを設計するアナリストの存在もオペレーターと同様に重要です。この組織における分業と専門化は、業務を実行して成果を出す人(オペレーター)と物事を組み立てたり成果を監理したりする人(アナリスト)を分けて、それぞれ専門分化させます。
オペレーターを公式にマネジメントするのはライン・マネージャーですが、作業標準を定めたり成果測定を行ったりその結果から新たな作業標準や目標設定を行ったりするアナリストも、非公式にマネジメントの一部を担う存在であることは間違いありません。
また、オペレーターやアナリストがそれぞれの業務に集中して効率を向上させやすいように、それぞれにとってコアではない業務(人事、経理、法務、施設管理など)を専門的に担うサポートスタッフも必要となります。
プログラム型組織は基本的に、大量生産・大量サービスを目指すコストリーダーシップ戦略を採る組織に有効です。環境変化が小さくスケールメリットが効く状況であれば尚更、効果的といえます。
パーソナル型組織でスタートした組織が事業に成功し、時を経て規模が拡大し、創業者個人ではすべてを見切れないようになると、自然とプログラム型に変化していることは実によく見受けられます。また、安全性や確実性が強く求められる仕事、例えば、銀行業や航空業界などは、顧客の要望以上に監督官庁などの組織の外部からの圧力も強いものとなっているので、コントロールとルールに高い価値を置く組織となりがちです。
従って、この組織構造では、個々の業務(職種)の間の調整は、各種のルールや外部も含めたコントロールを通じて、業務の成果とプロセスの標準化が推し進められます。その特徴としては、ピラミッド型の階層と、秩序、コントロール、システム、ルールを好むといった傾向が顕著で、良くも悪くも官僚制と言えます。
より具体的にはプログラム型組織は次のような特徴があります。
・ パーソナル型とは大きく異なり、組織の責任者(上はCEOから現場のマネージャーまで)が交代しても組織の機能は問題なく維持される
・ 秩序、コントロール、システム、ルールが強く存在するので、戦略が変わっても一人ひとりの仕事は容易には変わらないため、環境変化への対応が大幅に遅れがち
・ 業務コアを担うオペレーターが一人の人間として扱われず、機械や作業ラインとしてしか扱われない傾向が強い
・ チェーン型の問題であるサイロとスラブの問題が不可避で、部署間の調整がつかず、最上位者にまで持ち上がってしまう
・ 一方、組織階層が上がるほど、問題から遠ざかり、下からの報告を待つスタイルになりがちなので、問題が発生してから責任者が認識するまでに無視できないタイムラグが生じてしまう
・ マネージャーへの報告が定量的なデータに偏りがちで、定性的な情報に欠けており、問題解決への示唆やインサイトを得られない
・ 戦略(策定プロセスや策定された戦略の内容)までが標準化されてしまい、市場や顧客の違いや時間の経過による変化に適応できない
・ 結局のところ、官僚制のメリット(成果やプロセスの標準化、大量かつ正確かつ迅速な業務処理)がある半面、既述のようなデメリットも無視できない
プログラム型組織と官僚制が不可分な関係にあるのであれば、プログラム型組織から脱却して21世紀にふさわしい組織構造を設計し運営すべきと思われる人たちも多いでしょう。組織論の専門家といわれる人々もそうしたアプローチであるべき組織を語りがちですが、著者はそうではありません。
プログラム型組織は組織づくりの「唯一で最善の方法」ではないのかもしれないが、組織づくりの重要な方法のひとつであることは間違いない。私たちが大量生産による安価な製品やサービスを求め続け、機械よりも人間のほうがそうした製品やサービスを効率的に提供できる状況が続く限り、プログラム型組織はなくならない。そして、このタイプの組織がもつ短所を受け入れるほかない。(本書130ページ)
プログラム型組織に問題があるのであれば、それを前提として組織の運営方法に工夫を凝らしたり、他の組織構造を組み合わせて短所を補い合ったりするのが、マネジメントとして求められるはずです。
ただ、AIやロボティックスの発展が、機械(システム)のほうが人間よりも大量生産による安価な製品やサービスを効率的に提供できる状況を生み出し始めているかもしれず、そこにプログラム型組織の限界が見えてきていると思うのは、紹介者だけではないでしょう。
③ プロフェッショナル型組織
プロフェッショナル型とは、一定レベルの専門家としての知識や経験などを身につけた人たちを集めて、セットとして業務に当たる組織です。実際の業務に際して、マネージャーが現場で細部まで指示するまでもなく、それぞれの専門的な知見やスキルを活かして、専門家のセットとしてのチームが業務を処理します。
具体的には、医師や看護師などの医療専門スタッフから構成される病院などの医療サービス機関、弁護士や公認会計士や一級建築士など専門家ごとに組織するファーム(専門のサービスを提供する機構)、専門的な教育を行う機関(大学など)などです。
ここで言う専門家(プロフェッショナル)は、大学以上の専門分化した高等教育機関や職業団体などが行うトレーニングなどを通じて、組織の外からその職種の業務標準を持ち込むレベルにまで専門性を高めていることが必須となります。
彼らが所属する組織は、一見、職能別のプログラム型組織に見えたり、現場の業務ではハブ型の組織運営(一般にクライアントと呼ばれる問題を抱えた顧客を中心に、それぞれの専門家からなるチームが問題解決に当たるもの)のようにも見えたりします。情報の流れや調整という組織運営の本質は、それぞれの専門家が知識・経験・スキルなどに基づいて、(マネージャーの判断でもなく作業標準でもなく)自らの判断で意思決定を行うところにあり、それがこの組織形態の最大の特徴です。従って、現場での自律的な判断が求められるという点で最も分権化が進んでいる組織形態であるとも言えるのです。
その特徴をまとめてみましょう。
・ オペレーター自身が高度な専門家であるため、誰もがオペレーターになれるわけではなく、高度な専門教育や職業教育を受けていることが必須
・ 個別の顧客(クライアント)に直接対応するので、オペレーターが外部とのコミュニケーションに自ら当たることになる
・ ゼロから行うことはほぼないが、専門的なオプションを組み合わせる形でのカスタマイゼーションを行うのが常態化している
・ あまりマネージャーの存在を必要としないので階層構造もあまり存在しない
・ 一般にアナリストはあまり必要ないが、サポートスタッフは一定程度必要
・ 時に過度な専門分化が蛸壺化を生じさせることもある
・ 専門家としての裁量の大きさが業務の成果やプロセスの評価を難しくしている面もある(第三者が事後的に評価することも難しい)
・ 法規制や業界団体の自主的な規制など外部からの圧力や干渉にたやすく左右される
・ パーソナル型のように特定少数(個人)のマネージャーが組織全体のリーダーになるわけではない
・ 専門分野によって環境変化の程度が異なる故か、または専門家間の共通言語に欠けるためか、環境変化への対応が迅速にできるとは言い難い
④ プロジェクト型組織
プロジェクト型とは、ある目的のために集められた人々が自然発生的に形成する組織です。プロジェクトと呼ばれる仕事のやり方では、単に自分の職種の仕事をこなすだけでなく、実践と学習を平行することで創発的に戦略が形成されることも期待されます。とりわけ高度なイノベーションを実現するためのチームを意味することが多いようです。
正にウェブ上の組織であり、チーム内部での相互の調整で業務が進みます。アナリストによる成果や作業標準の設定、予算統制などが困難であるため、このタイプの組織にはアナリストが果たすべき役割はあまりないのに対して、サポートスタッフは必要であるだけでなく、他の専門スタッフとともにプロジェクトメンバーの一員として、意思決定や調整に結びつきます。
製品にせよサービスにせよ、新たなものを開発しようとすれば、規模の大小はあっても、社内外の専門家がプロジェクトに参画し、対等の関係で業務を進める上で必要な組織形態としてこのタイプを位置づけることができます。
その特徴をまとめてみます。
・ リーダーはいても特定の最高位者はいない
・ 従ってトップダウンのコントロールや一元的な指揮命令系統にかける
・ 戦略プランニングやマネージャーによる意思決定などにも欠ける
・ 作業標準や正式な手続きもない
・ 一人ひとりの役割が不明瞭で曖昧な状況に耐えられる人しかメンバーとして仕事ができない
・ 意思決定権限が分散されたり不明確なため、時には社内政治や個人的な駆け引きが優先されてしまう
・ 調整の時間や労力が掛かるからといって成果が必ず出るとも限らない
・ 作業効率が悪い
⑤ パーソナル型・プログラム型・プロフェッショナル型・プロジェクト型の比較検討
以上、4種類の組織形態について説明しました。これらを戦略形成とマネジメントの2つの面から比較してみると、それぞれの違いをより理解することができます。
戦略形成の面で言えば、パーソナル型は最高位者のビジョンがそのまま戦略となる場合が多いでしょう。戦略はプランニング(計画立案)というよりもパースペクティブ(物事の見方・捉え方)となりがちです。
プログラム型では、既存の戦略パースペクティブが暗黙の前提となってしまい、戦略プランニングというよりも現状の戦略の延長線上の行動計画を戦略と混同しているケースがよく見られます。この場合、戦略実行の微調整を行い、それを反映させたポジションの増減を戦略形成と誤解しているのかもしれません。
プロフェッショナル型では、専門家それぞれが戦略上のポジションをとっているので、現場の試行錯誤のなかから新たなポジションが生まれることになります。
プロジェクト型では、トップダウンの戦略形成では開発の試行錯誤は実現できません。いわば雑草モデルと呼ぶべき、同時多発的な戦略の萌芽のなかから戦略の焦点が明らかになっていくプロセスを重視すべきです。
次にマネジメントの面で言えば、パーソナル型は最高位者が自らのビジョンを日常的な指示を通じて現実化するものなので、マイクロマネジメントになりがちな面があると同時に、最高位者の目が届かないところでは野放図なマネジメントともなり得ます。
プログラム型は、微調整を積み重ねるので最も安定したマネジメントとなります。しかし、例外的な事項が発生したり、計画とのずれが生じたりすることは避けられないので、分析のための分析、現場から遊離した分析、数値測定できないことをマネジメントの対象から除外してしまうこと、変化を認識しないこと、過度な自信などから、安定のための安定に走りがちです。
プロフェッショナル型は、マネージャーの仕事は専門家の監督ではなく支援なので、内部的には専門家内部や異なる専門家の間の利害対立を調整します。その一方、対外的には組織全体を代表して利害を主張し、外部関係者と交渉して組織全体の利益を図ることが求められます。
プロジェクト型は、一人のマネージャーがマネジメントを担うわけではなく、プロジェクトメンバーが現場で判断するので、意思決定が分散しているのが最大の特徴です。マネージャーは指示命令するのではなく放任するのでもなく、メンバーの意思決定に関与して、意思決定者にヒントを与える役割に徹することが求められます。
パーソナル型・プログラム型・プロフェッショナル型・プロジェクト型という組織の4類型を紹介してきましたが、これらはいずれも理念的な存在で、実際の組織運営ではいくつかの形態をミックスしてマネジメントに当たることになります。
リストラに迫られた外食産業であれば、経営チームはパーソナル型を取りながら、ターンアラウンド・マネージャー(CEOまたは全権委任的な上級執行役員)のもとでリストラの計画を立てて実施していく実働部隊はプロジェクト型またはプロフェッショナル型となり、リストラ中でも通常通り顧客にサービスを提供しなければならない店舗や工場はプログラム型で運営されなければなりません。また、リストラだけに注力するのではなく、新業態開発のプロジェクトにも取り組む必要があるとすれば、こちらは文字通り、プロジェクト型の組織として運営されなければならないでしょう。
このように、ひとつの企業でもいくつかの組織モデルを併用しなければならないことが常態化しているのかもしれません。
文章作成:QMS代表 井田修(2024年9月26日更新)