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転職者を実際に戦力化するには(3)

転職者を実際に戦力化するには(3)

 

次に、人材不足に対応して転職者を受け入れる場合を考えてみます。

人材として求められる転職者は、通常、専門的な職種で様々な問題解決に当たるプロフェッショナルであったり、職場のリーダーや管理職といった役割を果たしたりすることが要請されます。

前回述べたように、人手として求められる転職者は、マニュアルや業務システムで定められているやりかたで作業を行い、所定の結果を出すことが要求され、採用されたその日から仕事をして、一定の結果を出すことが求められます。それに対して人材として求められる転職者は、採用されてから一定期間は新しい職場での仕事を学んだり覚えたりするとして、その後は単に仕事をして結果を出す以上に、前職での経験や身につけてきたスキルなども活用して、仕事のやりかたを改善したり成果のありかたを変えたりすることを求められます。

このように、人材として期待する人々に要求する仕事や成果は人手として求められる人たちとは異なります。人手不足が「いま必要」にフォーカスするのに対して、人材不足は「次に必要」を重視するものです。

そこで、人材不足に対応するために転職者を受け入れるには、次の3点に取り組むことが必要です。

第一に、転職者が自社のカルチャーになじめるように環境を整えておくこと、第二に、転職者が仕事上のアイデアや改善案を言い出しやすくして主体的に仕事を進めるようにすること、そして第三に次のチャンスを与えるべき人とそうでない人を一定期間で見極めることです。

それぞれを一口に言えば、第一はカルチャーフィット、第二は主体的な仕事ぶり、第三は戦力評価、ということです。

 

人材不足に対応して転職者(主に経験者採用のはず)を受け入れようとする組織では、物理的環境や制度的環境が整備されているのは当然です。それができていないのであれば、人手不足と同じ対策から着手しなければなりません。

物理的環境や制度的環境が整備されているとして改めて問われるのが、第一の「カルチャーフィット」です。これは組織の持つカルチャーと個人の価値観や行動規範との適合性の問題です。

別の組織から転職してくるわけですから、転職後の組織のカルチャーにぴったりとフィットする人はそうそういないでしょう。転職者に問われるのは、以前とは異なるカルチャーに対して、柔軟に対応できるかどうかです。

一方、組織に問われるのは、どんな人を受け入れても強固に変わらないカルチャーがあるというよりも、異なるカルチャーを体現する転職者を受け入れて活躍する機会を提供する組織であることを実証できるかどうかです。まさに組織としてダイバーシティ&インクルージョンが問われます。

新卒採用者だけで構成される組織はもはや滅多にお目にかからないとしても、まだまだ長期勤続者が人材の中核をなしており、職場のリーダーや管理職として組織のカルチャーを体現していることが少なくないかもしれません。組織に長年いる人たちにとっては当たり前のことや自明のことであっても、外部から転じた人から見れば、理解できない仕事のやりかたや手順あれば、空気を読めと言われても何が空気であるのかすら解らないともあるでしょう。

組織としてのカルチャーギャップへの感度が高ければ転職者を受け入れる可能性が高まりますし、そうでない伝統的な組織は意識的に転職者のフォローをすべきでしょう。そのためのツールとして、カルチャーに合っているかどうかを周囲の人たちへのアンケート調査で把握します。ただ、改めて調査をしなくても、職場を実地に観察したりリモートでも体面でもチームのミーティングをモニタリングしてみれば、誰が転職者か知らなくても「この人が最近入った転職者だ」とはっきりとわかるほど、浮いている人の存在が確認できたりすることもあります。いずれにしても、カルチャーにフィットしていないようであれば、早期に対応すべきです。

敢えてカルチャーを変える意図をもって複数の転職者を一度に受け入れるといった例外的な場合を除いて言えば、そもそもカルチャーに合いそうもない人は採用しないのがベストです。そのために一緒に仕事をすることになる人たちによる面談や仮想のビジネスミーティングやプレゼンテーションなどを採用プロセスの一部に取り入れて、カルチャーとの適合性の面から事前に評価しておくことが望まれます。

 

人材として転職者を受け入れる第二のポイントは「主体的な仕事ぶり」ができているかどうかです。「主体的な仕事ぶり」というのは、転職者が自ら進んで仕事上のアイデアや改善案を言い出しやすくして主体的に仕事を進めるようにすることです。既に述べたように、人材は今の仕事を処理するというよりも、次のビジネスを作ったり現有の人材では取り組めていなかった組織の課題を見つけ出して解決していったりすることが求められるはずです。

そこで、組織の抱える課題と転職者の動き方の二つの面から検討してみましょう。

組織が抱える課題というのは、転職者を受け入れて戦力としてきた歴史や実績がどの程度あるかというものです。特に、経営層や上級管理職に転職者が相当数いる組織と、転職者はいても経営幹部クラスにはあまりいない組織では、転職者を受け入れて活用する組織的なスキルが違います。

転職者が経営幹部には少ない組織では、どうしても転職者を異質な目で見てしまいがちです。それでは、リーダーや管理職として転職してきた人材が、心置きなく経営幹部や上司に進言することが難しいでしょう。そもそも、長年の人間関係で職位などの上下関係が出来上がっている組織では、本人の主体性よりも空気を読む力のほうが現実の仕事では求められる場面が多いでしょう。そうした情況では、ちょっとしたアイデアや改善提案を安心して言い出せないかもしれません。一度は口にしてみても周囲の反対や黙殺があれば、二度目はなかなか言い出しにくいものでしょう。

これが、組織の抱える課題です。転職者の声を組織として受け止める覚悟が問われるわけです。

次に転職者の動き方の面から考えます。

転職者自身は、転職時から自分の能力や経験を活用してアピールしたくなりがちです。とは言え、新しい環境ですぐに結果が出る程度の仕事を期待して採用するのは、人手であって人材ではありません。

自らの人材としての価値をアピールするには、現有の社内人材では手が付けられなかった課題や組織として次の段階に進む上での課題などを抽出して、その解決に向けて関係者を巻き込んだり周囲を動かしたりして、自分個人の手柄よりも職場全体やチームとしての変化や改革を少しずつでもやり遂げることが要請されます。

 

第一の「カルチャーフィット」も第二の「主体的な仕事ぶり」も、採用プロセスにおいてある程度は判断ができるかもしれません。転職者を数多く受け入れる組織ほど、採用プロセスのどこかに、採用後に一緒に働くことになるはずの人たちとのミーティングなどの場を設けて、どのような価値観やもちどのような言動を取るのか見る機会を確保します。そこで人材としての見極めのひとつを行うのです。

人材不足に応じた転職者の効率的なオンボーディングの大前提は、カルチャーに合わない人や自ら動くことができない人は採用しないことに限ります。職場で浮いている人の面倒を見る手間とエネルギーは管理職に掛かるか周囲の人たちに迷惑となるかです。自ら主体的に動くことができない人というのも、配属後の職場やチームで足を引っ張るだけです。入社直後ならまだしも、数か月から半年を経ても主体的に仕事をするのでないのであれば、その後も人材としての価値を見出すことはないでしょう。

 また、同じ組織や業界から転職してきた人たちが同期のように同じ職場に複数名いる場合は、要注意です。同じ組織や業界の出身ということは、良くも悪くも言動や価値観や仕事の進め方に共通性があり、その言動ややりかたをそのまま進めるリスクがあります。できることならば、違う部署や異なる地域に配属して、本人のもつカルチャーフィットへの適性を見ると同時に、個人として主体的に仕事を進めことができるかどうか実地に判断する機会としたいところです。

 

さて、第三の「戦力評価」というのは、人材として採用した人たちを戦力外・現戦力・次の戦力にいずれかのタイミングで区分することです。

「戦力外」というのは、期待するほど人材不足を解消するには至らなかったものです。数的なものではなく、質的なものです。そもそも、スキルや経験が足りないということは採用時にチェックしているはずで今更ありえない要因ですが、カルチャーに合わない上に柔軟にカルチャーに自ら適合したり、カルチャーを一部でも変えることで実力を発揮したりするには至らなかったとなることは十分ありえます。

特に上司との関係は重要で、上司を動かしてチャンスを得るくらいでないと人材として期待外れとなるでしょう。同時に部下や同僚からどのように見られている人材かも評価して、次を生み出す戦力かどうかを判断します。

「現戦力」というのは、当面はそのまま仕事をしてもらう人材です。組織として求める戦略の変更や事業環境の変化に柔軟に対応できるかどうかは未知数です。特に今後のビジネスキャリアをどのように本人が考えているかは重要です。キャリアを単にアップさせるべきものと考えている(昇進がキャリアの目的)のか、キャリアのチェンジやブランクも念頭に置いてジグザクとしたキャリアをイメージしているのか、仕事は仕事として他に価値を見出すことがあるのか、仕事だけでなくカウンセリングなども行って対応すべき人材でしょう。

「次の戦力」というのは、現在戦力になっているもののなかで、主体的に動く点で顕著なものがあり、時には現在のカルチャーに揺さぶりをかけるところもある人材であるかどうかで判断します。「次の戦力」としてより高度なミッションに挑戦し相当の結果を実現していけば、人材から人財(人的資産)へと転化していく可能性もあります。

「戦力評価」が必要なのは、人材を募集する際に、いかに作りこんだジョブ・ディスクリプション(職務記述書)を用意し、そこに表現されているスキルやコンピテンシーやマインドセットをもった人を採用できたとしても、そのジョブ・ディスクリプションはその時点のものであって、将来必要なものではないためです。現在と将来ではズレが必ず生じるので、人材を再評価することが不可避です。

そこで、これらの中でどのタイプかを13年程度のうちに見極めて、次のチャンスを与えるべき人とそうでない人を区分します。次のチャンスを与えるのに値する人材ならば、管理職としての昇進とか別の部署やプロジェクトにつけることで、次のチャンスを目に見える形で提示することになります。もちろん、こうした人事施策は転職者だけを対象とするものではなく、新卒入社者など広く社員全体を対象に行われるべきものです。

転職者を戦力化する際に、こういった将来のキャリアビジョンも可能な範囲で具体的に提示することも、実はオンボーディングの時期から既に重視すべきものです。人材には、目の前の仕事や処遇よりも、次のステップを実感させることを忘れてはなりません。

 

 (4)に続く

 

作成・編集:人事戦略チーム(20231128日更新)