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転職者を実際に戦力化するには(2)

転職者を実際に戦力化するには(2)

 

そもそも人間に依存しない業務システム、即ち、ロボット化やRPA化を進めたり、IT化や自動化をできるだけ図ったりすることこそ、組織全体としては最も重点を置くべき施策でしょう。とは言え、人手に頼らず仕事ができるように仕事をする仕組みを変えるのが本筋であるとしても、当面の対応として人手に頼ることもあります。

そこで、人手不足に対応して採用した転職者を戦力化するには、次の3点を抑えておく必要があります。

第一に、転職者が職場で安心できるように環境を整えておくこと、第二に、転職者がすぐに仕事に取り掛かれるように仕事のやり方を覚えやすくしたり仕事のハードルを下げたりしておくこと、そして第三に、比較的早い時期に仕事や職場に向かない人を排除することです。

それぞれを一口に言えば、第一は安心できる職場環境、第二は仕事のハードルは低く、第三は戦力と非戦力の振るい分け、ということです。

 

はじめに「安心できる職場環境」から説明します。これは、転職者が職場で安心できるように環境を整えておくことですが、その内容は多岐にわたります。 

例えば、転職者を迎え入れる職場の物理的な環境、特に夏場に熱中症になる危険性がないかなどが重要なポイントです。照明が暗いとか物が無造作に置かれていて通りにくいといった労働災害を招く危険性があれば解消すべきですし、他の人々にはある個人別のロッカーが入社初日から用意されていないというのも大きな問題です。デスクのフリーアドレス化やリモートオフィスである際の自宅のIT環境整備への支援なども、重視すべき事項です。

また、心理的な環境というのも無視できません。わからないことがあったら誰に相談すればよいのか、職場のリーダーなのかアルバイトの先輩なのか、明確にしておくことが求められます。相談すればよいとされる人のほうから転職者に声をかけるなど、話しやすい環境を作っているのかどうかも重要です。

制度的な環境も忘れてはなりません。受け入れる組織の側で労働条件や職場環境を整備することも必須ですが、大事なのは表面(募集要項)上の表現ではなく、実態です。労働時間や残業は規定通りなのか実態は異なるのか、休日や休暇がどの程度本当に取りやすいのか、勤務地の選択やリモート勤務などがどこまで自由に行っているのか、などなど、働く人と雇う組織の間で取り交わすべき労働条件を巡って事前の説明と食い違うことがあればあるほど、転職者の不信感が募り、仕事どころではなくなってしまいます。既にいる社員にとっては当たり前のことであっても、上司が帰るまでは帰ることができず、その時間は残業時間としてつけることもできないなど、いわゆる昭和的な慣行に支配されている職場などは、特に注意が必要です。

職場のルールは合理的に定められているのか、なぜ、そのルールがあるのか科学的に説明できるのかが問われます。髪の色や長さ、髭の有無などを理由に個性や個人の自由を無意味に制限していてはダメです。職場内でいじめやハラスメントなどを起こしていたら、お話になりません。

ちなみに、人手不足に対応するには、まずは採用市場で勝つことです。物理的な環境を整備し、心理的な環境も調整し、制度的な環境も書面上は整えたとしましょう。

こうして整備した制度を説明するのは人事部門などが入社前や入社直後に行うはずです。一方、現実の運用は職場の特性や慣習に支配されているので、職場のリーダーや管理職が「残業のやりかた」とか「有給休暇の申請方法とその手順」などを勤怠管理システムに則って説明すべきですし、その内容を他の社員がいる前で行うことで、ルールと現実を一致せざるを得ない状況を作り出すことも肝要です。

転職者の圧倒的に多くを占めるのは、複数の職場を経験してきた人たちです。それまでによい経験も悪い経験もしてきているはずですから、少なくとも悪い経験を思い出すことはないように受け入れる組織は留意しなければなりません。

 

次に「仕事のハードルは低く」ですが、これは転職者がすぐに仕事に取り掛かれるように仕事のやり方を覚えやすくしたり仕事のハードルを下げたりしておくことです。

転職者自身が、求める仕事の経験者である場合、受け入れ側では何も教えなくてもできるだろうと思いがちですが、そう容易には行きません。同じ業界での経験があるとしても、企業が違えば扱う製品・商品やサービスの名称が違います。同じ味噌ラーメンと呼称されるものであっても、店が違えば味噌も違うし麺も違います。スープの作り方も違えば、載せる具材の種類や切り方も違うでしょう。全て一から覚えなければなりません。

転職者を受け入れる組織も当然、業務マニュアルを用意したり仕事のやりかたを紹介する映像を準備したりすることでしょう。パソコンやスマホの画面から説明資料を見ることができるので、後は自分でやってという会社もあるかもしれません。

しかし、現実の職場で仕事をするということは、いかに実務経験があったとしても初日から一人前の仕事ができるとは思えません。特に現場での仕事ほど、ひとつひとつの道具や手順を理解し体で動けるようにならないと結果は出ません。

受け入れる側が特に注意したいのは、「わからないことがあったら、何でも聞いて」と先輩格の社員とかリーダーや管理職が言ったまま放置してしまうことです。いかにマニュアルが整備されていても、誰も知る人がいない職場に一人で放り出されて初日から結果をだすことは不可能です。まして、新卒入社したばかりの社員はともかく、即戦力として入社した転職者に手取り足取り教えることはしないでしょうから、OJT頼みの指導は何もしないことと同じです。

オンボーディングにはまずは1日、次に1週間、そして1か月が目安です。そのオンボーディングで仕事ができる(任せられる)と認められるようになれば、少しずつ仕事の内容や種類を変えていくことで転職者の持っている能力を発揮させていくことになります。時には、注意や指導も必要かもしれません。転職者の仕事ぶりをしっかりと把握して評価できるところや褒めるに値するところは評価し称賛し、一方で次の課題として注意・指導すべきところを明確にしていくことが望まれます。

 

第三は戦力と非戦力の振るい分け、即ち、比較的早い時期に仕事や職場に向かない人を排除することです。

人手不足の状況で転職してきた人たちですから、一度受け入れた人は全員、戦力となってもらいたいものです。そのつもりで採用選考を行ったりリファラル採用などを試みたりして、より定着率が高まるように工夫を凝らしている組織も多いでしょう。

しかし、いかに様々な試みを行ったとしても、採用ミスはどこかで起こります。特に、人手不足に追われている現場がある際は、採用する側にも焦りもあればプレッシャーもあるはずです。採否を決める基準を多少は下げることも仕方がないかもしれません。

そこで、最初から、一定期間ごとに戦力となる人かどうかを見極めるように計画しておく必要があります。例えば、毎月とか四半期毎とか半年置きに、転職者本人の意向や現状認識を確認しつつ、同時にその転職者を受け入れた職場の責任者や同じ職場で働く同僚たち(非正規の社員や派遣社員など関係する人たち)がその転職者をどのように見て感じているのか評価してもらう、というような方策です。

その結果、能力不足であるとか職場に合わないとか周囲から浮いているといった、今後本当の戦力となりうると判断する上でのマイナス面があるのであれば、やはり退職してもらうしかありません。他の職場や職種に異動するというのは、理論上はありえますが、人手不足に応じた即戦力として採用した以上、実務的には他に移すことは困難です。

従って、活躍してほしい職場に合わない人を採用してしまったならば、採用時に取り決めておいた一定の金銭を支払って退職してもらうのが原則です。人手不足で即戦力を採用するということは、あくまでも仕事と金銭という職務給的な関係が原則で、その金銭面での条件のなかに退職に関する条件を事前に付帯させておくべきです。ちなみに、退職する必要がない場合は、この金銭を勤続1年のボーナスとか正社員登用の祝い金として支払ってもよいでしょう。

人手不足に対応して転職者を求めるということは、「いま必要」にフォーカスする採用です。決して「次に必要」とか「現状を変えるのに必要」な人材を求めているわけではないのです。この点をしっかりと受け入れる組織や職場の側が認識しておく必要があります。

今辞めさせるとまた人手不足になりそうだから引き留めておくというのでは、職場に合わなかったりもともと基礎的な能力が不足していたりする人の面倒を他の人々が見なければならず、下手をすると周囲の人間たちが辞めていってしまうかもしれません。人手不足の原因を追究することは別途しっかりと行うとして、人手不足時に不適切な人を雇ってしまったという直近の問題に対処するには、その人の退職が周囲にとっても本人にとっても最善です。

一般論として優秀な人材だから辞めさせるのは惜しい、という声が上がる場合があります。特に、転職者が高学歴であったり前職が有名企業であったりリーダーや管理職経験者であったりすると、せっかく入社した人材を手放したくないと経営者や人事責任者などが誤った判断を下しかねません。次回以降に述べる「人材不足」や「人財不足」で採用した転職者であればまだ、こうした判断もないわけではありませんが、人手不足への対応として即戦力として受け入れた人については、学歴や職歴はほとんど意味を成しません。問われるべきは、現に今やってほしい仕事ができるかどうか、そして実際にできたかどうかです。

 

(3)に続く 

 

作成・編集:人事戦略チーム(20231123日更新)