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リモートワークにおけるリーダーシップ(7)

リモートワークにおけるリーダーシップ(7

 

次に、社外の関係者もいる場面でのリーダーシップのありかたを考えてみましょう。例えば、顧客との商談や外部スタッフなども交えてプロジェクトを進める場合に、リモートワークの中でどのようにリーダーシップを発揮すればよいのでしょうか。

 

そもそも顧客に対してリーダーシップを発揮するとはどういうことでしょうか。商談においてセールストークやプレゼンテーションで顧客をリードして、手早くクロージングにもっていけばよいのでしょうか。

リモートワークでなければ、顧客と直接のやりとりを通じて、ストレートに値引きをする・おまけをつける・お買い得を演出するなどして、価格交渉を行いながら顧客に「得した」と思わせるのが営業のリーダーシップであったかもしれません。

しかし、リモートワークを通じて同様のことを行うと、顧客はその場のノリで購入を決めるよりも、もともとも提示されていた価格の妥当性や正当性に疑問を抱き、価格だけでなく品質や機能などにも不安を抱く虞があります。リモートワークであるが故に、直接、製品やサービスを手に取って確かめることができない以上、顧客が抱いた不明なことや不安な点にとことん付き合って不満や不安を解消するのが、顧客に対するこれからのリーダーシップのありかたでしょう。

その上で、顧客が購入を決めた後でも、事前に収録した映像やスペックを記した文書ファイルなどを閲覧可能にしておき、いつでも不安な点や不明なことを顧客自身が自ら解消するように行動を促すことも、営業のリーダーシップとして必要です。営業を行う側がプッシュするのではなく、顧客に選択権をもたせたり、必要な情報にいつでもアクセス可能な状況を設けて、不安や不満を解消できるようにしておく仕掛けが求められます。

もちろん、顧客に自ら決めるように導くことも必要です。ときには、残りの個数をカウンターで表示するといったテレビショッピングやネット販売で行われているような仕掛けがあったほうがいいかもしれません。また、来店した顧客を逃がさない接客が従来は必要でしたが、来店しない顧客にリモートで必要な情報を届ける仕組み、たとえば、アプリでクーポンやチラシを配布する程度の仕組みなども必須でしょう。

このとき、顧客との関係性がどの程度の時間、蓄積されてきたものかによって、情報を提供するツールやそのコンテンツは変わってきます。蓄積が全くない場合、すなわち「一見さん」とか初めて購入しようとしている顧客(その時点ではまだ顧客ではない人)に対しては、広く浅く(マス)から次第に求めているものを絞り込むような仕掛けが必要です。それに対して既に一定の関係性が出来上っている顧客には、これまでの購入履歴から次のオススメを提示したり、他の顧客との交流の場(リモートでもリアルでも)に招待するといった、より深く個別性の高いアプローチが妥当でしょう。

いずれにせよ、営業担当が個々に仕掛けるというよりも、営業体制のなかでシステム化された仕掛けが効果を発揮するものです。したがって、営業のリーダーシップは、そういった仕掛けを作り出し、その効果を検証して、次の仕掛けへの洞察を得るなかから発揮されるものです。

 

こうしたアプローチは法人営業でも基本的には同じです。というのも、旧来の接待やインフォーマルな折衝で物事を決めていく手法は、人と人との直接的な接触が不可避なため、極めて採りにくいものだからです。

そこで、セールストークやプレゼンテーションを無理にリモートで行うよりも、必要な情報はすべて開示してみせて、あとは顧客に自ら決めさせるといったアプローチが、実は営業が顧客との間でリーダーシップを発揮する、ひとつのスタイルです。

その際に、決定するまでの説明や交渉で用いるものは、文書に限らず、映像、音声、数字やグラフなど、ICTを活用してリモートでやりとりすることが可能なものを何でも用いるとともに、その結果やコンテンツもすべて残して事後にアクセスできるようにしておきます。また、購入条件や付帯条項などもすべて商談の中で決定したものは、PDFファイルをFAXや郵送物の代わりに活用して修正不可の形態で取り交わしておきます。

いわゆる腹芸や口約束はリモートワークでは通じません。必ず、文書化し記録を残すことが肝要です。

言い換えれば、具体的にリモートで商談を進める場をセットするのであれば、そのときまでに用意しておくべき書式や説明資料などを事前に相互に取り交わして確認したり、メールでやりとりするなどして事前に内容を細部まで詰めておくことが、営業がリーダーシップを発揮することに他なりません。もはや営業というよりもコーディネーターと呼ぶ方がふさわしいかもしれません。

外部スタッフなどを交えてプロジェクトを進める際も顧客への営業活動と同様です。ただし、参画するメンバーの立場が商談のときよりも複雑になるので、リーダーシップを発揮するとはいっても、表面的には単なる調整役に見えるような動き方をすることになるでしょう。

リモートワークにおいてリーダーシップを発揮する上で問題なのは、リーダーらしく見えるかどうかではありません。リーダーに求められるのは、リモートで仕事を進めながら、チーム(組織全体、会社全体)でちゃんと結果を出すことです。もし、リーダーが一方的に指示・命令を出したり、勝手に時間や資金に制限を設けたりしてしまうと、関係者は動いてくれないことを肝に銘じておきます。リーダーが何かをするのではなく、少なくとも関係者が仕事を進めていく上で障害となるものは事前に取り除いておくことこそ、リーダーの果たすべき役割なのです。

 

 (8)に続く

 

作成・編集:経営支援チーム(2021611日更新)