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リモートワークで評価するには(5)

リモートワークで評価するには(5

 

リモートワークにおける評価に限らず評価制度全般に言えることですが、いかに評価基準を整備し評価者トレーニングを行い本人も評価者も時間をかけて評価に取り組んだとしても、評価結果とその処遇への反映の程度が妥当なものだと社員の多くが納得しうるものでない限り、真っ当に機能することはありません。

まして、これまであまり経験したことのないリモートワークを基本とした職場において評価を行うとなると、事前準備や変更点の周知などに相当な労力をかけたとしても、相当な不安感がつきまとうものです。

そこで評価の納得性や妥当性を担保し、できれば向上させるのにリモートワークならではのポイントが3点ほどあります。

第一に、リモートワークであるが故に評価者は目の前に部下がいないため、客観的に実績や行動にフォーカスして評価せざるを得なくなります。その結果、直近評価や印象評価を防ぐ効果があります。

実際、多くの管理職の方々が本音として語ってくれたところでは、なんとなくいつも遅くまで残っていて頑張っているように見えるだけの社員が、実はこれといって成果を挙げていなかったり、チームへの貢献がないどころか足を引っ張る存在であったことに、改めて気づかされたといった厳しい見方がでてきています。もちろん、評価を行う直前になって頑張りだすような部下も、目の前にいない分、冷静にみることができるのは当然のことです。

同時に、従来は職場でさほど目立つ存在ではなかった社員が、コロナ禍の状況下で落ち着いていつも通りの結果を出している姿もよく見られるようです。そうでなければ、企業業績の落ち込みにストップがかからなかったり、ましてや業績の急回復を果たした企業など存在しえなかったはずです。

こうした冷静な見方ができるようになったのはいいことですが、部下の方はこれまでと同じかそれ以上に高く評価してくれるという期待をもっているかもしれません。この期待(部下の認識)と評価(上司の認識)とのずれが、より明確に表出する可能性が高いでしょう。

このずれを埋める評価面接に第二のポイントがあります。つまり、緊急事態宣言下では、評価面談やフィードバックミーティングもリモートで行わざるを得ない会社も少なくないものと思われます。そうなると、評価をするマネージャーの側も評価される本人の側も、自らの主張や疑問点などをきちんと言葉として表現したりフォーマットに記入して明確な形にして伝えることが必要となります。

従来はこれらの面談やミーティングを対面で行うことで、上司がすべてを説明しなくても部下の方が上司の口調・態度・表情などから自分の評価を察して対応することもできたでしょう。しかし、リモートでの面接となると、できる限り言語化して明示的に説明しないと、互いに相手が何を言いたいのか、なかなか理解しにくいものです。

こうしたコミュニケーションのスタイルを、煩わしいとか面倒だと感じるのは仕方がないとしても、そのスタイルを実践しないのはマネジメントの放棄と言わざるを得ません。コロナ禍という環境変化に適応するのに必要であるならば、実践するのがマネジメントです。特にマネージャーや役員は、ITツールを活用して事前に必要な情報を集めておいてリモートの面接に臨むことが必要です。時には面接だけでなく、評価の根拠となる事象を列挙したフォーマットに本人がコメント(言い訳)を記入することを求めてもいいでしょう。こうした場合、やはり多面評価の結果や日々の日報データの蓄積がものを言います。

第三に、評価の基準や手続き、処遇への反映方法など、コロナ禍での臨時対応もあって、評価全般について従業員からの質問や要望・意見などが数多く出てくるはずです。もともと心理的安全性の高い職場であれば、緊急時・危機対応時にこそ、言いやすさがプラスに働いて、さまざまな問題提起や提案が行われるでしょう。それらを汲み取って、実際の評価にどう活かすかはマネジメントの問題です。

もし、従業員からの質問や要望・意見などがほとんど出てこないのであれば、これまでは心理的安全性が低かったと経営者や人事責任者は反省しなければなりません。コロナ禍のような例外的な事態に置かれているのは、すべての企業です。それなのに、評価のような社員個々にとって重要な事項について、これといって不満や要求の声が聞こえてこないとすれば、よほど抑圧的な組織風土にあると言わざるを得ません。

トップセールスで社外に出ることが多かったりMBWAで社内を巡ることに時間やエネルギーを費やしたりしていた経営者も、コロナ禍の下ではリモートで対応せざるを得ないはずです。むしろ、出張や社内会議に取られていた時間が空いた分、人事や組織運営などに注力することができるはずです。

そこで、経営者や人事責任者が社内に向けてリモートの画面越しであっても自ら語りかける機会を設けて、評価に関する疑問や要望などに答えることが重要です。心理的安全性を高めるひとつのきっかけとして、こうした直接的なコミュニケーションの場を設けることが望まれます。

最後にもうひとつ、評価の公開性ということで言えば、社員の中には職場内でのうわさ話や評価結果を居酒屋などで語り合う機会を喪失して、その不安や不満から評価時に否定的なことばかりを述べる者が出現するかもしれません。特に、評価結果や処遇への不満から自分だけが低く評価されていると被害者意識をもつケースもあるでしょう。

そうした際には、個人名は明らかにしない上で、こういう意見もあったということで事後に会社全体で評価や評価面接で出た話題を集約して、それぞれに会社としての見解や改善プランを示すことが重要です。もちろん、評価結果の分布状況や処遇への反映結果などを社内限りで公開していく方向に人事のオペレーションを切り替えていくことと並行して進めていくことが望まれます。

直接会って話ができないからこそITツールを活用して、できる限り多くの疑問や異見を把握することで、リアルタイムでは困難かもしれませんが、リモートでの対話を試みることは忘れてはなりません。その積み重ねが評価の納得性や妥当性を担保します。

 

(6)に続く

 

作成・編集:人事戦略チーム(202135日更新)