マネジメント課題としての事業承継(4)

マネジメント課題としての事業承継(4

 

 事業承継を考える際に誰に引き継ぐべきかという問いと同時に検討すべきものとして、承継を実施するタイミングと承継準備を開始する時期があります。 事業承継を実施するタイミングというのは、一般のサクセッション・プランニング(後継者計画)と同様に、現時点・数年後・世代交代の3種類に分けて考えるとよいでしょう。

 

 まず、現時点で事業を承継するというのは、経営者自身にとってあまり考えたくないことかもしれませんが、実は最も真剣に考えておくべきことです。

もし、今日、事故や急病で自分の身に万が一のことがあったら、事業は、会社は、どうなってしまうのでしょうか。少なくとも、当座を凌ぐために誰かが経営者の臨時代理を務めなければなりません。

現実的には、いわゆるナンバー2に相当する役職位に就いている人が後継者になるしかないでしょう。そのために、副社長・副会長などの副〇〇という役職位がありますし、副ポジションを置くほどの組織規模でないのであれば、経営者に最も近いところで日常的に仕事をしている人で最上位のポジションにある人が当面の後継者として経営者の役割を担う以外に、現実的な方法はありません。

ここでは、誰に事業を承継させるかという問い自体が意味をなさず、後継者の選択に経営者の考えを差し挿む余地がありません。突発的で緊急対応となる現時点での事業承継については、そもそも経営者が準備をする余地がありません。

それは事業を承継せざるをえないナンバー2のようなポジションにある人にとっても準備不足は否めません。ナンバー2はナンバー2であって、経営者そのものではありません。いつかは自分もトップになると思っていても、実際にその立場にならないとわからないこと・見えてこないことはたくさんあります。

敢えて経営者ができることといえば、承継の準備の第一歩くらいは普段から心がけておくくらいでしょう。万一の時は〇〇が会社や事業の指揮を執るということを、限られた人たちに日常的に内示しておくことは必要です。できれば、遺言書などの形で文書化しておくことが望ましいですし、それを年に1回は見直して、次の1年間の事業プランとともに書き換えていくほうがいいでしょう。

 

次に、数年後に事業を承継させるというのは、いわゆる後継者レースを行って、そこでの結果を見て最終的な判断を下すケースです。

この場合、現実に見られる多くの実例では、オーナー経営者やサラリーマン経営者であっても実力者と呼ばれるような人たちは、こうした後継者選考プロセスを適切に経て自ら選んだ後継者であっても、承継後最初の決算の結果が期待外れであれば、あっさりと後継者を排して自らが経営者に復帰することがあります。特に、後継者が社長兼COOで前任の社長が会長兼CEOとして残っているような時には、前任者が社長に復帰して、結局、事業承継は振り出しに戻る虞が大でしょう。

数年後に具体的に次の経営者引き継ぐのであれば、準備に今日から着手しなければなりません。まずは、候補者のリストアップを行います。社内や身内に目ぼしい候補者が見つからないのであれば、経営者候補含みで他社から中途採用で幹部社員を募集するとか、エグゼクティブ・サーチファームに経営者候補となる人材の調査・発掘・紹介を依頼することになります。

計画的に事業を承継していく、それも複数の候補者を指名して公正な競争環境の下で後継者を確定させるというのは、ある種の理想形ではありますが、サラリーマン経営者を選ぶ際でも、経営トップの地位に就けなかった人たちの処遇には一工夫が求められます。通例では、他社に転じるとかグループ内の相応の企業にトップとして天下るということになりがちです。

ましてファミリービジネスでは、候補者同士が兄弟姉妹やなどの親族という人間関係がありますから、個人的な遺恨や嫉妬などが残らないように後継者になれなかった人たちを遇するのは、至難の業です。

つまるところ、事業承継を法的に行うのは数年後であるとしても、その準備として後継者候補を決めるプロセスを進めるのであれば、そのプロセスに着手する時点から事業承継の実際はスタートしているのです。

 

事業承継のタイミングが世代交代というのは、経営者が一気に10歳単位で若返るものをいいます。ファミリービジネスで実の親子の間で事業が承継されると、自動的に世代交代となります。オーナー経営者が長男・長女に経営を引き継がせるという一般によく見られる形態は、世代交代のタイミングで事業承継が行われる典型的なものです。中小企業の多くについては、このタイミングでの事業承継が標準的と言ってもよいでしょう。

世代交代を目指すのであれば、通常は経営者の子供などの親族(血族)のなかで経営者としてのキャリアを積む意思のある人を、できれば複数人、目星をつけておくところからスタートすることになります。家族構成などによりますが、本人も親族一同も、この子が継ぐものと衆目が一致し、本人も子供の頃から自分が継ぐものと自覚しながら育ってくるのが望ましいのですが、世代交代は長期的な課題解決策なので、途中で思いもよらないことが起きて、予定とは違う世代交代となることも間々あります(注5)。

多国籍企業によく見られるように、全社ではなくある事業部門や事業子会社の責任者や経営者に帯同する役員秘書などのポジションを経営者候補の育成プログラムの一部として経験させることはよくあります。しかし、ファミリービジネスや中小企業にとって、キャリア開発のためのポジションをもつ余裕はありません。そこで、現経営者(父親であることが多いでしょう)の目が直接届かない他社に一定期間、経営者としての修業の一部として勤務する程度が準備として可能な方策かもしれません。

実際には、そもそも後継者候補となりうる次世代の人で事業を承継する意思のある人がいないとか、いても1人だけというのが現実でしょう。そうであれば、若い時から後継者であることを公言して、より困難な仕事や難しいテーマにチャレンジさせ、時には失敗にも目を瞑ることが事業承継プログラムと言えるかもしれません。

 

事業承継が本当に重要な経営課題となるファミリービジネスや中小企業、そしてベンチャー企業について理想を言えば、同族や若手社員のなかから本人の就きたい職業やキャリアの希望なども踏まえながら、複数の候補者に相異なるキャリアを積ませて世代交代を目指し、経営者自身は2030年程度で次の経営者にバトンを渡し、その後は経営には口を出さないことを貫くことに徹するべきでしょう。

近年、こうしたスタイルの経営者や創業者も一定数、出現してはいます。とはいえ、多くの経営者にとって、目先の事業や収益に注力せざるを得ない現実があります。コロナ禍がなかったとしても、中小企業の多くで後継者が見つからずに休業・廃業となっていたであろう故に、今日から経営を誰に引き継ぐのかを経営課題として優先的に考えなければならない時代になったのではないでしょうか。

 

(5)に続く

 

【注5

たとえば、酒造メーカーの後継者として大学の専攻も醸造やバイオテクノロジーだった兄が演劇の道に目覚めてしまい、弟が後継者としてその酒造メーカーを引き継いだ例として、神戸の佐々木酒造の佐々木晃氏がいます。同社のHPにその経緯が触れられています。

 

 

  作成・編集:経営支援チーム(20201130日)