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組織  「組織という有機体」のデザイン 28のボキャブラリー(2)

組織  「組織という有機体」のデザイン 28のボキャブラリー(2

 

(2)組織デザインの目的は行動変容

 

 そもそも、組織デザインとは何でしょうか。前回のご紹介で、単に組織図をいじることではないことはご理解いただけたとして、では、組織をデザインするとはどういうことでしょうか。多くの場合、それは組織を改革するとか変革するといったことと同義であり、何らかの形で組織を作り直すことであることは想像できるとしても、形だけに留まらず、何をどのように変えていくことが求められるのでしょうか。

そこで、組織デザインの最初のボキャブラリーが提示されます。

 

ボキャブラリー1

人の行動を変えること、すなわち行動変容こそが組織を変える目的である。

 

 組織デザインの目的は人(当該組織で働く人々という意味であることは自明でしょう)の行動を変えること、そう著者は言い切ります。

 組織改革でよく見られるのは、まず、組織図を変えることです。それだけで期待した成果が挙がるわけではないことを、経営者や経営幹部自身もこれまでの経験やケースから学んでいるでしょう。多くの場合、組織図の変更の次に働く人の意識を変えようとします。意識が変われば、組織図を変えた意味もしっかりと理解され、その意図を実現できるはず、というわけです。

 たとえば、営業や製造といった職能別組織から、事業部制のような製品市場別の組織に変えたとします。その際の狙いは、通常、損益責任を明確にして無理な受注や生産活動にブレーキをかけ、採算性に合った受注・生産活動を実現することなどです。

従来の職能別組織では、営業は受注することばかりで、赤字受注に責任を負わないとか、製造は作るばかりで納期や品質やコストにはこだわるが、どの製品がどの程度の利益貢献があるのか、誰も知らないし興味もない、会社全体では忙しいばかりで儲けは少ない、といった問題状況があったから、事業部制を導入してそれぞれの部門で損益を意識して仕事をしてほしいはずです。

しかし、事業部制を導入して、営業や製造の担当者を各事業部にそのまま配置したのでは、事業部内で従来と変わらない行動を営業も製造もそのまま取り続けていきかねません。個々の社員から見れば、営業担当は受注活動をする、製造担当は納期・品質・コストを守って生産活動をするという点では、職能別組織も事業部制も変わりはありません。

結局のところ、組織図は変わり、部署名は変わっても、社員一人ひとりの仕事は特に変わりません。そこで事業部制だから事業部ごとに賞与に差をつけるというのでは、賞与が減った事業部からは不満不平が出るのが当然です。一方、会社全体では相変わらず、忙しいばかりで儲けは少ない、下手をすると組織改革に要したコストの分だけ利益が減少することにもなりかねません。そうなると全ての事業部の賞与を減額することにもなりかねません。

それでは組織改革は失敗です。そうならないように、事業部制の狙いや趣旨を社員ひとりひとりに周知徹底させるために、事業部制を運用するのに必要なレベルで社員に損益責任への意識付けをしっかりとする意識改革が求められる、というようにストーリーが展開していくことも往々にしてあります。

すると、今度は不採算な製品や顧客との取引を打ち切るという方針がありながら、同時に売上目標のボリュームや生産工程の稼働率も維持・向上させるといった無理難題が目標として掲げられたり、単なるコストカットを強引に追求して残業をつけさせないとか下請け企業との取引価格を一方的に引き下げるといった不法行為に手を染めたりといったことに陥りがちです。

本当に必要なのは、形(組織図)だけの組織改革でもなく、無理に組織改革の意図を実現しようとする意識改革でもありません。適切な道具立てをもって無理なく組織の動き方を変えていく組織デザインが必要なのです。とはいえ、そこには別のタイプの抵抗勢力が存在します。

 

ボキャブラリー4

「小さな幸せグループ」こそが、組織の変化を阻害する大問題である。

 

 本書が主張するボキャブラリーというものの代表例が、この「小さな幸せグループ」です。これは次のような特徴をもつそうです。

 

自分のやり方とペースで仕事をこなし、日常生活の中に楽しみを見つけていく少人数のグループが、ほぼ例外なくいくつか存在している。(中略)

この人たちは、ちょっとした変更でも、とかく文句や異議を唱えがちである。改善するのか改悪するのかは問題ではなく、現状を変えることが問題なのである。なぜなら、これまで後生大事につくり上げてきた「小さな幸せ」が壊されかねないからである。(「組織 『組織という有機体』のデザイン 28のボキャブラリー」42ページ)

 

人間誰しも、現状の変更は、それが自分にとって相当な経済的利益をもたらすものであっても、なかなか積極的に受け入れるわけではないでしょう。その一例として、行動経済学でいうところのスイッチングコスト(特に情緒的価値からみたもの)があります。

これが一個人の問題であれば、より機能が向上し低価格で使える製品であっても、機能が低く維持コストも高い製品やサービスを使い続ける自由があると断言することも可能です。しかし、組織、特に営利企業のような組織においては、より機能が高く(顧客に提供する製品やサービスが高機能であり)、低コストであるような仕事のやりかたがあるのであれば、そのやりかたを採用しないのは市場における競争優位を失う危険を冒すことです。究極には、会社や顧客に対する背信行為とも言い得るものです。

そうした理屈は頭ではわかっても、長年慣れ親しんだ仕事のやりかたを放棄して新たに仕事のやりかたを習得するというのは、心理的・精神的にきついところがあります。特にベテランほどしんどいと感じるはずです。だからこそ、アンラーニングとラーニング(学習棄却と新たな学習)を習慣化することが求められるのです。そして、それが行動変革につながります。

 

組織デザインの試みは破壊が目的ではない。外的変化に適応するために、組織行動の変革を促す仕組みをつくることである。(「組織 『組織という有機体』のデザイン 28のボキャブラリー」44ページ)

 

 本書が指摘する通り、外的変化は否応なく起こりますし、その真っ只中に企業も個人も放り込まれているのです。それが、コロナのような感染症の流行によって生じることもあれば、猛烈な台風や東日本大震災のような自然現象によって引き起こされた災害によることもあるでしょう。また、バブル崩壊やリーマンショックといった経済的な厄災から生じることもあれば、9.11のテロや事故・事件で発生する事象もあるでしょう。

 忘れていけない重要なポイントは、そうした外的変化に対してどのようにすばやく適応していくのか、その適応策をうまく実行していくことで新たな成果を生み出していくには、今何を変えていけばいいのか、こうした試行錯誤を常態化することでしょう。

 

(3)に続く 

 

文章作成:QMS代表 井田修(2020921日更新)