コロナ時代のマネジメント(2)
コロナ時代のマネジメントの最初のテーマは、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)がどのような業界にどういった影響を及ぼしているのか、ということです。特に大きな影響を受けている、旅行関連サービス、各種の輸送サービス、ホテル・宿泊施設、不動産、エンターティンメント、医療サービス、教育・学習支援サービス、飲食、流通、金融サービス、ITサービスを中心に、生じた影響と今後の姿を考察します。
① 旅行関連サービス
旅行関連サービスでは、インバウンド・アウトバウンドを問わず、急激な需要の減少に見舞われています。減少というよりもむしろ、消滅というほうがふさわしいものです。しかし、一時的には消滅したように思われても、コロナ終息後(ワクチンが開発され、世界中の大半の人々に抗体ができた頃)には、特に個人の観光については、ある程度まで元の需要レベルにまで戻ってくるでしょう。
ただし、法人の需要について、個人よりも悲観的にならざるを得ません。というのは、コロナが終息したとしても空間的に離れている相手とはミーティング程度のものであれば、移動は不要と判断されるでしょう。テレワークと同様にITシステムを活用すれば、わざわざ相手方に出向かなくても対応できることが明らかになっている以上、出張という行動が時間的にも費用面でも労力的にも無駄が多いからです。
この点、コストダウンの余地が大きいことは自明ですし、株主からみれば無駄な出張ばかりしている経営幹部は解任のターゲットにしかなりえないはずです。出張をするとなると、それなりの必要性(直接の技術指導や経営トップ同士のM&Aをめぐる交渉など、どうしても先方と直接会っては話さなければない事情やテーマ)が不可欠で、それを合理的に説明できるケースは実はあまり多くはないのです。
そこで、旅行代理店のなかには、顧客企業の代理として現地の情報収集や物品の買付代行を行うといったサービスを提供することで新たな商材を開発しているところもあります。顧客である法人企業からいえば、海外出張や現地駐在を行わなくても、情報収集や人脈形成ができるのであれば、代行サービスを活用することもひとつの方法でしょう。
② 大規模輸送サービス(航空・海運・鉄道およびその関連施設)
旅行関連サービスと同様の影響は大規模輸送サービス(航空・海運・鉄道およびその関連施設)にも及びます。なかでも、LCCのように大量の人員をまとめて一気に運ぶことで収益を上げるビジネスモデルは、抜本的な見直しを迫られています。
大規模な旅客機を運航するとか、大型のクルーズ船を周航させるとか、満員電車で通勤・通学客を大量に運ぶといったものは、人の密集をさけることが求められる以上、運ぶキャパシティが半分以下になることを前提にビジネスモデルを再構築するしかありません。空港施設、港湾施設、駅や駅周辺の商業施設など関連する設備や施設のビジネスも、そこを通過し利用する顧客が半分以下になることを前提にビジネスモデルを再開発しなければなりません。
これには、職種の再定義や配置すべき人員数の大幅な見直しなど、この業界で働く多くの人々にも多大な影響が及ぶことは必定です。既にその一端は確認できます。航空業界への就職希望者が直撃を受けて、募集人員がゼロという事態に直面しているのです。
現状のまま存続しやすいのは、プライベート・ジェットのように、1人当たりの料金としては相当に高額で人数の少ない移動手段です。これらはもともと感染症リスクが少ないでしょうし、多少の追加コストがかかっても料金の高さで吸収したり、コストを料金に転嫁しても顧客に支払い余力があるからです。
一方、貨物輸送については間違いなく需要の拡大が見込めます。旅客機の客室内に貨物を積み込んで運ぶといった光景が珍しくはなくなっていますが、今後は旅客2~3割、貨物7~8割というのが旅客機の実態となるかもしれません。
顧客の側から見れば、次のホテル・宿泊施設も同様ですが、マイルやポイントを獲得するために航空機や鉄道などの移動サービスを利用するのは、今後は問題外の行動となるでしょう。確かに、今日から国内の移動制限が解除され、国際的な移動も順次、開放的になるでしょう。しかし、そもそも出張のムダが周知されたり、インターネットで自宅にいながら観光地に行けるような経験ができるとしたら、わざわざ感染症のリスクを冒してまで旅行をしなければならないのでしょうか。
③ ホテル・宿泊施設
こうした顧客のニーズの変化はホテル・宿泊施設にも大きな変革を迫ります。ただし、施設のグレードによる差は激しいかもしれません。
客単価が低く回転率の高さが勝負となる大規模で低価格が売りの施設は、よほど立地条件に恵まれていなければ、経営破綻は不可避でしょう。立地条件が悪いほど、限りなく低価格を追求せざるを得ないので、客室稼働率が下がって収入が減少していくことになるので、なおのこと財務面から立ち行かなくなるのは目に見えています。
立地条件のよい物件を抑えている大手チェーンの施設では、財務力があれば採算ラインを超えて客室稼働率を上げることも可能とするような営業政策を実施することも不可能ではありません。それを起爆剤に、業績を回復させる契機とすることもありえます。
一般のシティホテルや観光地の大規模な旅館など、従来のように食事や施設を売りとして重点的にアピールする経営は、成立しません。というのも、シングル以外の収容人数の多い部屋では、そもそもキャパシティが半分以下となりかねません。結婚披露宴や各種団体のパーティーなどの宴会需要も厳しいものがあります。なかでも、いままでは収益への寄与度が高かったであろう立食パーティーなど、スタッフも客もマスクにフェイスシールドをして消毒液を振りまくのでは、そうそう開催することもないでしょう。
一方で、サービスで利用者を増やすというのも、理論的にはあり得ても、地元客を中心としてヘビーなリピーターになりうるサービスというと、日帰り温泉入浴施設くらいしか現実には存在しないのではないでしょうか。とすれば、施設ごと一括して介護や福祉の施設に転用するといったことも検討すべきかもしれません。
ちなみに、客単価が高く高級なグレードに位置付けられる施設は、観光需要や法人需要の多少の減少はあっても、今後もそれなりに存在しそうです。これは、航空サービスにおけるプライベート・ジェットに相当するもので、もともと多くない需要に対して提供するほうも限られているからこそ成立するビジネスモデルです。
④ 個人向け輸送サービス
同じ輸送サービスといっても、宅配便や出前代行など、個人に届けるラスト・ワン・マイルを担う個人向け輸送サービス事業は相当な成長が期待できそうです。
期待と同時に、その担い手となる人員の確保が課題であることは自明です。その点、余剰人員を抱えている業界から、新規事業としてこの分野に参入する企業が出てきたり、より幅広く密度の高いネットワークを構築するためにM&Aを行う企業が現れたりするなど、企業間競争も激しくなるのが必然といえます。
ロボットやドローンが個人への配送を担うことが実用化されるよりも、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のワクチンが実用化されるほうが早いのではないでしょうか。そうだとすると、うまく人員の確保・配置ができる(だけのIT技術を活用できる)企業が、この分野でリーダーシップをとることになります。
⑤ 不動産
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)による営業自粛で最も問題となったのが、固定費、特に不動産賃貸料です。
営業はしてない(できない)ので、売上は立ちません。事業活動ができないのだから、経費も掛からないかと思いきや、それは変動費の話であって、いわゆる固定費は毎月決まった金額が流出していきます。そのなかで最も占める比率が高いものが店舗の家賃や事務所の賃料です。
一般の企業においても、本社・管理部門・営業拠点などの立地の良い事務所が本当に必要なのか、改めて問われています。少なくとも相当に高い賃料を支払い、内装や諸設備にも決して安くはない金額を投資してまで、維持・運営するだけの価値があるのかどうか、いま改めて問われています。
そこで、いわゆるオフィスビルを立地の良いところに保有している不動産事業や、ホテルやオフィスビルなどから得られる収益に対する投資(リートなどの金融商品の購入)なども、入居者の撤退が続くようであれば、必然的に見直しが求められます。
一方、個人の住宅(マンションや戸建て住宅など)については、在宅勤務可能な広さや家族それぞれが活動できる部屋数などが必要と実感した人々が少なくなかったことでしょう。今後はテレワークがしやすいかどうかも、賃貸物件か販売物件かを問わず、個人向け不動産ビジネスにおける顧客ニーズとして対応すべきでしょう。
これは郊外の別荘や都心のワンルームマンションなどのビジネスにも不可欠な視点です。個人を対象とする物件であっても、仕事をスムースにできる環境が備わっていることが必須の条件です。ホテル用の物件をテレワーク中の別荘の替わりとか仕事用のワンルームマンションに転用するといったことも、よく見られるようになりそうです。
⑥ エンターティンメント
ホテルでのパーティーのように1か所の会場に多くの人々を集めて行うスタイルのイベントやエンターティンメントも、大きく見直すことになります。
当面、エンターティンメント・ビジネスはキャパシティを半分以下に減らさなければ、実施できないのではないでしょうか。そうなると、観客から得られる収益(チケット収入、各種のグッズ販売、会場およびその周辺での飲食代金、交通費や宿泊費など)の大幅な減少は避けられません。まさかチケット代や販売するグッズの代金を一気に2倍、3倍と引き上げるわけにもいかないでしょう。
同時配信へのアクセス権をチケット代のように販売することも可能ではあります。その結果、これまでは会場に足を運びたくても運べなかった層にも、同時配信にアクセスして楽しんでもらうことができる意味は大きいとは言えます。そして、それによる収益も無視できないものと思われます。プロスポーツを観戦する時にも、応援という形で会場にいない観客(ファン)の声が届くように、同時配信へのアクセス権を販売するところも出てくるでしょう。それをファンクラブ限定で行うという方法もあります。
しかし、同時配信でなくても後日、公式サイトで無料か大幅な低価格で観ることができればいいという層ばかりを生み出す心配も大きくあります。今後、どのようなビジネスモデルを生み出していくのか、知恵が問われるところです。
そして、今後確立されるビジネスモデルがどの程度の収益力があるかによって、これまでのような施設で同様のコンテンツ(同じコストをかけることができる演出プラン・音楽・照明・美術・演者・スタッフなど)を同じような公演期間や上演回数で、そのまま上演していくことが可能なのか、まったく異なるものが求められるのか、大きく変わるでしょう。その影響は、大規模なテーマパークから20人も入ればいっぱいのライブハウスまで、避けることはできません。
⑦ 医療サービス
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のネガティブ・インパクトを最も大きく受けてしまった業界のひとつが、医療サービスです。従来のクリニックや総合病院が、感染症対策をしながら受入れ患者数を絞って対応するのでは、対応可能な患者数が激減してしまい、ビジネスとして成り立たない状況に追い込まれています。
これまで慣例的に行われてきたように、同じ時間帯に一定の人数の予約を入れて待合室などの閉鎖的な空間に相当数の患者を待たせては、その空間で密を作ってしまいます。今後は、同じ時間帯には1人しか予約がない状態を作り、待っている患者がいても1人とすることが要請されますから、結果的に診療行為を行いうる患者の数は現在よりも大幅に減少します。
これまでも試験的に行われていたリモート診療は、軽度のものや慢性的なものについては、ある程度まで普及するでしょう。ただ、患者の自宅には検査機器などがないため、必要と判断される検査は自分で適当な医療機関や検査センターのようなところを予約して、検査結果を再度、リモート診療で判断し、必要な薬を処方されるといった手間がかかります。
より抜本的には、現行の保険診療のありかたや医療体制そのものを見直す必要があるかもしれません。単に保険点数のウエイト付けを変えれば対応できるとは思えません。現行の医療制度の下、感染症対策のためにより多くのコストをすべての医療サービス提供者が自己負担するというのでは、持ち出しでサービスを提供させておいて、感染したら自分たちのせいと言わんばかりです。
すぐには具体的な解決策を見つけることができないかもしれませんが、少なくとも、感染症専門の病院など、診療科目別ではなく対応可能なテーマ別の病院体制の下に医療サービス全体を再構成する必要があるかもしれません。
ここで感染症専門病院というのは、風邪・インフルエンザ・新型コロナウイルス感染症・結核・ノロウイルス・風疹・麻疹・水疱瘡・流行性耳下腺炎・手足口病・その他の感染症のおそれのある急性患者を、最初に診察して予想される感染症についてウイルス検査・抗体検査などを実施して感染症を特定し、一人ひとりの患者や保菌者を隔離して治療にあたる医療機関を想定しています。
現在の総合病院のように急性の感染症も慢性の病気やガンもすべて同じ医療スタッフが診療に当たるというのでは、急拡大する可能性がある感染症には気合と根性で対応するしかありません。救急病院やリハビリテーション専門病院のように、既に対応するテーマごとに設置されている病院もありますし、その中には感染症対策を重視した救急専門病院もあります。ただし、単なる総合病院や一般的な診療所では感染症対策には不十分であることは、今回の経験で明らかです。
もちろん、すべての医療機関で感染症対策の医療器材をある程度は備蓄しておく必要はあります。同時に感染症に特化した医療機関も必要でしょう。現状は専門的な感染症対策組織が国立感染症研究所だけで、現実的な対応が取れません。保健所の役割の再定義も含めて、一定の地域(人口)ごとに感染症専門病院を常設することが望まれます。これは新規に建物を建てるということではなく、既存の医療施設を改修したり統合するなどして、人員も含めて再配置することで設置につなげていくものです。
⑧ 教育・学習支援サービス
今回のCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響は、いきなり学校活動にストップをかけたため、まず最初に子供たちに降りかかってきました。
学校も含めて、教育・学習支援サービスにおいて、従来は教室での講義中心のビジネスが主流となっていましたが、その限界と新しい取り組みが見えてきたのではないでしょうか。感染症対策として単純に考えても、1教室当たりの収容人数を減少させざるを得ないのであれば、教育方法そのものにイノベーションが必要です。
当初は苦し紛れで実施されたのかもしれませんが、Zoomなどを使って授業を行うことで、実は一人ひとりの理解度や進捗度に応じた指導ができるようになったり、不登校の生徒や児童が授業に参加したりできるようになるなど、リモート授業ならではのメリットが実現できたのは大きな成果と言えます。
その一方で、家庭、特に親に負担がかかったことも事実です。そもそもリモート授業に対応可能な機器がすべての家庭にあったわけではありませんし、仮にあったとしても、その経済的な負担は親が負っています。そもそも、在宅ワークも在宅授業もとなると、誰も行ったことがない状況のため、試行錯誤の連続であったことは否めません。
こうした現実面からも、在宅学習とかリモート授業といったものが常態化して、日常的にスクーリングと在宅学習が連動しているように、塾や学校など教育サービス提供業者におけるイノベーションが待たれます。これは単に感染症対策として必要というだけでなく、熱中症の危険性が長く続くようになっている現状を鑑みるに、いつでも必要な方策ではないでしょうか。
ちなみに、従来のように多数の拠点(教室)を展開して子供たちに教える学習塾という形態は、飲食業や小売業における多店舗展開ビジネスとまったく同様に店舗で一度に収容できる顧客(子供)の数が感染症予防対策上、半減するとすれば、収益を上げることは困難でしょう。やはりリモート授業や個室型の教室でのリモート個別指導のような形態を開発する必要がありそうです。
⑨ 飲食業
飲食業については、改めて述べるまでもないでしょう。特に客単価の低い飲食業ほど、厳しい状況に置かれています。
一般に、客単価が小さいほど、より高い客席回転率で売上を作り、坪効(単位店舗面積当たりの売上高)を上げていくことになります。4人掛けのテーブルを2人までしか客を入れられないとか、カウンター席を1~3人おきに使うのでは、客席数自体を削減していることと変わりがありません。
そうした状況で、客が入れ替わるごとに消毒する手間を見るだけでもコスト増と売上ダウンの厳しさが想像できる上、これまで以上に客の回転率を上げるというのは至難の業です。また、店内空気の入れ替えなどによる光熱費の上昇もあったり、パーティション設置などで物件費も増えるし、マスクや消毒剤などの消耗品費もばかになりません。
飲食業、特に客単価が低いものほど、もともと利益率が低いビジネスです。そこをアルコールを提供することでカバーして利益率を上げるビジネスでもある故に、アルコールを飲んで騒ぐという行為が宅飲みに取って代わられるとなると、ダメージが大きすぎます。
また、持ち帰り商品を開発したり、宅配を手掛けたりしているケースも多々見られます。そうした努力も、もともと単価の低い商品に宅配手数料を載せるのでは低価格でできる飲食の意味が薄れてしまいますし、食中毒や味の劣化などの持ち帰りに伴うリスクに適確に対応するには相応のコストや仕組みが必要であることも事実です。
大手のチェーンでも相当な規模での店舗削減が予定されており、これからの時代に対応した業態が開発されるでしょう。それが具体的に何であるかは不明ですが、こうしたものがイノベーションにほかなりません。個人経営の飲食店でも同様のイノベーションが求められます。
ちなみに、客単価が高いものほど、客数が減っても、否、むしろ客数が減るほど、その少数の顧客の求めに応じた料理やサービスを開発することで、客単価の維持・向上を図ることが可能かもしれません。仮に、完全に個室だけで営業するレストランや高級和食店などを想定すると、個室のキャパシティはせいぜい3人とか4人までとしても、個室を使えるという特別感に見合う質の高い料理やサービスを実現できれば、ビジネスとして十分に成立するものと思われます。
⑩ 流通業(小売業・卸売業)
飲食業と同様に店舗の立地条件が大きく業績を左右するのが、店舗販売型の小売業です。飲食業と同様に多店舗展開の程度が高いビジネスモデルほど、店舗の再配置が必要です。たとえば、ビジネス街から住宅街へのシフト、都市部における集中出店モデルから郊外やリゾート地などへの分散出店などということです。そして、立地条件の変化に応じて商品・サービスの開発ポリシーも大きく変わるはずです。
こうした変化に急いで対応しなければならない代表的な業態がコンビニでしょう。特にビジネス街を中心とした大都市に多くの店舗を有しているチェーンほど、その影響は大きく、出店政策だけでなく、商品開発や店舗運営のやりかたから再構築することが求められます。たとえば、ランチ需要に応えるべく、飲料・弁当やパン・スイーツなどを開発し、短時間勤務の人員配置で集中的なレジ対応を可能としてきた方法が、そもそも不要となったときにどこで売上を作っていくのかが問われることになります。
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響といっても、食品など一般消費者が自家消費に向ける商材を小売りしているビジネスは安定して売上を伸ばすことができそうです。とはいえ、ネットショッピングの急成長の前では迫力不足の感は否めません。同時に、消毒やソーシャル・ディスタンシングの徹底など、コストアップや効率低下の要因もあり、売上アップほどには利益は伸びないおそれが大でしょう。
また、宅配やお取り寄せといったものも成長が見込まれていますが、これらは物流サービスが期待通りのサービスを実現できて初めて成長が実現できるに過ぎません。他力本願とまではいかないとしても、自助努力には限界があるのも事実です。
卸売業のうち、医療器材やマスク・フェイスシールドなどの衛生材料などは当面、伸びが期待できる程度でしょう。商談などをいかに相手との直接的な接触なしに行えるかが成否を分けるポイントで、比較的古い体質が色濃く残っている業界において、Zoomなどを活用してリモート商談をうまくできる体制作りや営業人材の質的転換をどこまで迅速に実現できるかどうかが問われます。
⑪ 金融サービス
多店舗を展開するビジネスという点では、飲食業や小売業と同様の課題に直面しています。感染症対策が契機となって、店舗の維持・運営コストが増大し、来店客に対するサービスのコストと来店客がもたらす収益とのバランスを真剣に検討しなければならない状況にあります。その店舗の半径数キロ圏内の優良顧客および潜在的な優良顧客(資産家など)と定期的に挨拶を交わし、何かあった時には金融面での相談にすぐに乗ってきた実績がある以上の関係性がなければ、ある地域に店舗を有する意味がないでしょう。
結論として、資産家や地元の優良法人などの一部の顧客を除いて、大半はネット取引のみに誘導すべきです。量的に見れば、金融サービスの仕事の大半は、銀行・証券・保険などの業界を問わず、既に原則的にITで処理することになっています。これはコスト面から不可避なトレンドであって、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)がそれを多少は加速したに過ぎません。
⑫ ITサービス
ITサービスを提供する企業がテレワークを支えるシステムやサービスを開発するのは当然でありますし、売上面ではコロナの影響がプラスになるはずです。ただ、それが本当に利益になるかどうかは別の問題です。商談や引き合いが次々と入ってきて忙しい半面、リモートで営業や開発を進めることが可能な組織運営の体制やカルチャーができ上っているかどうかが問われます。
顧客から見れば、テレワークの見本であるはずのITサービス提供者が、実はあまりテレワークを実践していないとか、実践はしていてもなかなか仕事がうまく回っていない(顧客からの問い合わせに即時に的確な回答がない、見積書や契約書が紙で送られてくる、まだまだ書類に押印を求めてくる、などなど)と判断できるような事象が起きているようでは、その企業のサービスを利用しようという気になれません。
個人向け輸送サービスほどは激しくないかもしれませんが、従来の事業をIT化することでこの分野に参入する企業が出てきたり、同業間で人材や顧客基盤や技術基盤などを増強するためにM&Aを行う企業が現れたりするなど、相変わらず企業間競争がグローバルに起き続けるでしょう。
⑬ 一般の製造業
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響により、原材料や部品などの在庫の管理・調達について、従来のようにサプライチェーンをグローバルに展開していることのリスクが顕在化しました。今後は、感染症に限らず、頻度は低くても一度起こったら大規模化してしまうリスクに対して、いかにロジスティクスを安定運用できるかが問われます。同時にコスト効率を着実に向上させていくことも課題となります。
グローバルに事業を展開するほど、現地での情報収集や信頼関係の構築のために駐在員を置いたり本社から出張したりしてきたことの意味や効果を再検討すべきでしょう。テレワークで出社せずに仕事が処理できるように、現地に行かなくても適切に業務を進めることが可能となるように、マネジメントのやりかたを見直すことが必要です。そして、駐在員や海外出張以外の方法でグローバルなマネジメントを行うツールをいくつか開発・導入しておく手間を惜しんではいけません。
もちろん、ロジスティクスやグローバル・マネジメントだけに問題が現れているわけではありません。テレワークや在宅勤務に対応したマネジメントのありかたや人事制度・組織運営手法などの改革も不可避であることは、改めて述べるまでもありません。
作成・編集:経営支援チーム(2020年6月19日)