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コロナ時代のマネジメント(1)

 

コロナ時代のマネジメント(1 

 

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)がグローバルに流行していることで、個々の企業に多大な影響を与えたのは言うまでもありません。業績への影響がいまだに不明な企業も少なくありません。 

人同士の接触を抑えるために数多くの人々や組織が在宅勤務を強制され、気がつくとテレワークが勤務形態のスタンダードになりつつあるのかもしれません。既に多くの企業や官公庁において、大企業でも中小企業でも、IT系の会社も伝統的なメーカーや流通業においても、同じ組織のメンバーが同じオフィスに同時に集まって仕事をすることが例外的という意味で、リモートワークというべきものが幅広く導入・運営されています。 

アフターコロナと呼ぶべきか、ウィズコロナと称すべきかはともかくとして、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)は企業経営において新たな時代をいきなり出現させて見せました。 

ここでは、これからの時代を仮にコロナ時代と呼称しておきましょう。 

 

この連載コラムでは、まずはじめに業界別の影響について概観します。特に大きな影響を受けている、旅行関連サービス、航空・海運・鉄道およびその関連施設、ホテル・宿泊施設、輸送サービス、不動産、エンターティンメント、医療サービス、教育・学習支援サービス、飲食、流通、ITサービスなどを中心に生じた影響と今後の姿を考察します。 

次に、ビジネスの慣行や仕事のスタイルにおける変化を考えます。たとえば、これまでのように、顧客先に出張して会食や接待などを通じて、いわゆる人間関係を作って営業をしていくスタイルが今後はどう変わらざるを得ないのか、考察してみます。見本市や商談会でのきっかけ作りや飛び込みセールス、自己紹介や名刺交換なども大きく変化していくにしても、単にZoomでやりとりすればいいわけでもないでしょう。 

仕事のやりかたが変われば、組織や人のマネジメントの方法やルールも変わります。一例を挙げれば、雇用契約そのものからしてテレワークを原則とするものに変更することが要請されます。また、早期に代替可能なロジスティクスの整備や生産拠点の分散化を図るというように、リスクマネジメントの観点からリスク許容度の高い経営手法も必要とされそうです。財務的にはキャッシュ保有を高めて、固定資産のウエイトを極力、下げることも重要かと思われます。 

そして、組織や人のマネジメントの方法やルールが変われば、自動的に組織・人事管理への適切なアプローチも見直すことになります。もう少し具体的に言えば、一般の社員の仕事以上に管理職の仕事内容を大幅に見直し、組織や個人の業績評価のやりかたやその指標を再設定し、組織の機能や構造を作り直すこと(文字通りのリストラクチャリング)が必須です。報酬制度、特に非金銭的な報酬制度については、大幅な見直しが求められそうです。また、特に組織内のコミュニケーションのありかたも問題となります。 

同時に、個々の職種においても、それぞれの再定義が必要です。顧客などと直接接してきた販売職やサービス職(飲食・医療・エンターティンメント・教育など個人と直接の接点をもってサービスを提供するもの)などは、その職種そのものが消失することも含めてゼロからの見直しに迫られています。その際に忘れてならないのは、直接的な接触が厳しく制限される状況で顧客に提供すべき価値は何なのか、改めて定義し直すことです。 

一方、こうした状況下で必ず起こるのがイノベーションです。特に新サービスの起業については、いつどこからどういったものが出現するのかわかりません。すでに出張代行・買付代行といったものはHISのような大企業から出現していますが、対面型の仕事に取って代わるサービスには技術的なブレイクスルー以上に社会的な約束事を一新することが不可欠です。特に人と情報が不可分で動くと思われていた状況(営業や採用などの活動)から、極力、人を動かさずに情報だけを動かすことでビジネスが成立する状況に適応できるかどうかが問われる以上、そこにイノベーションの機会が存在します。 

政治的な影響など感染症に付随して起こる(経済や企業経営以外の)諸問題についても、迅速な対応が将来にわたって求められます。少なくともコロナウイルス以外によって引き起こされる次の感染症については、10年単位でみれば必ず何かが起きると覚悟しておくことです。その時に、慌てずに手早く対応できるかどうかが、再び問われます。 

そうした変化がさまざまに起こっても、企業経営は絶えず対応していかねばなりません。そこで、これからの企業に求められるコア・コンピテンスとは何でしょうか。変化への迅速な対応を可能とするアジリティ、リスク許容度の高いリスクマネジメントのケイパビリティ、多大なコストや資産がかからなくても収益を上げることができるビジネスモデルを次々に生み出す能力、今思いつくままに挙げてみても、実行する上での難度がなかなり高いものばかりです。近年のように、ビジョンやリーダーシップが企業経営の根幹をなすという見方には終焉が訪れているのかもしれません。連載の最後にこうした課題について検討してみます。 

 

今回の連載コラムでは、あくまでも現時点で得られる情報に基づいて想定される変化とその影響をベースに、定性的に予想される変化や必要なシステムやルールを試みに考えてみるものです。連載中であっても、記述した内容を否定するような言説が出てくる可能性があることを事前に申し述べておきます。

 

(2)に続く

 

  作成・編集:経営支援チーム(202063日)