ファクトフルネス ~ 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣~(2)
(2)分断=世界は富めるものと貧しいものに二分されている?
本書で最初に指摘される思い込みが「分断本能」です。これは、金持ちと貧しい者の2種類にこの世のものは分かれている、という思い込みで、それは国家間の認識(先進国と発展途上国)でもあれば、個人間の認識(金持ち、セレブ、上級国民など呼称はさまざまだが、リッチな人々と貧困に喘ぐ人々とに二分されているという思い込み)でもあります。
この思い込みに囚われていると、現実に多くいる存在に注意が向かず、両極端ばかりに目が行ってしまいます。それでは、正しい現実認識ができませんし、解決すべき課題もその解決策も、適切なものを選択できません。
大半の人は低所得でも高所得でもなく、中所得の国に暮らしている。世界が分断されていると考える人には想像できないだろうが、これは事実だ。(中略)そこ(引用者注、中所得の国)には、人類の75%が暮らしている。
中所得の国と高所得の国を合わせると、人類の91%になる。そのほとんどはグローバル市場に取り込まれ、徐々に満足のいく暮らしができるようになっている。(「ファクトフルネス ~ 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣 ~」42~43ページより)
国家間の貧富の格差と同様に、同じ国内にける格差についても同様の思い込みがあると、本書は指摘します。
世界で最も格差が大きい国のひとつであるブラジルを例にとってみよう。ブラジルでは、最も裕福な10%の人たちが、国全体の所得の41%を懐に入れている。ひどいと思わないか?いくらなんでも不公平すぎる。(中略)
たしかに41%は不公平なほど高い。とはいえ、41%という数字は数十年で最も低い数字なのだ。(中略)
ブラジル国民の大半は極度の貧困(引用者注、1日あたりの所得が2ドル未満の所得階層=本書ではレベル1=というカテゴリーに属する人々)を抜け出している。いちばん人数が多いのはレベル3(引用者注、1日あたりの所得が8ドル以上32ドル未満の所得階層)だ。バイクや眼鏡を買い、貯金をすれば子供を高校に行かせたり、洗濯機を買うことができる世帯だ。世界的に見ても格差が大きい国でさえ、分断は見当たらない。ほとんどの人は真ん中にいる。(「ファクトフルネス ~ 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣 ~」55~56ページより)
きちんと数字で物事を見ると、単なる平均値や両極端な存在だけではなく、分布が理解できるようになります。また、ある一時点の数字だけでなく、時系列での変化を見ることも、物事がよくなっているのか悪くなっているのかを判断する上で不可欠です。引用したブラジルの所得分布についての記述は、まさに分布や経年変化の重要性を物語っています。
1日1ドルの極度の貧困にいる人たちは、1日16ドルどころか、1日4ドルも稼げるようになれば、どれだけ良い暮らしができるかを知っている。靴すら履けない人たちは、自転車があればどれだけ良い暮らしができるかを知っている。(中略)
ドラマチックすぎる「分断された」世界の見方の代わりに、4つのレベルで考える。これこそが、この本で伝授する「事実に基づいた思考法」のひとつめにして最も大事なポイントだ。(中略)
ファクトフルネスとは……話のなかの「分断」を示す言葉に気づくこと。それが、重なり合わない2つのグループを連想させることに気づくこと。多くの場合、実際には分断はなく、誰もいないと思われていた中間部分に大半の人がいる。
分断本能を抑えるには、大半の人がどこにいるか探すこと。(「ファクトフルネス ~ 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣 ~」58~59ページより)
確かに所得格差は今も現に存在します。
ただ、その格差の分布の両極だけに着目するのではなく、最も多く存在する中間層にもっと目を向けることが必要です。敵と味方、金持ちと貧乏人、支配者と抑圧される人民、といった、この世界は分断されているという思い込みを抜け出す第一歩となります。
文章作成:QMS代表 井田修(2020年5月25日更新)