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ビジネススクールで教えているファミリービジネス経営論(7)

 

ビジネススクールで教えているファミリービジネス経営論(7 

 

(7)ケーススタディの紹介

 

ビジネススクールで教えているファミリービジネス経営論」を紹介してきましたが、最後にある物語をベースに作成してみた、以下のケースストーリーをお読みください。この会社の創業者である父親の立場に立って、後継者を誰にすべきか、またその後継者にどのようにビジネスやファミリーを引き継いでいけばよいのか、その具体的な計画はいつどのように着手して進めていけばよいのか、考えてみてください。

  

あなたは、ジェンコ商会という主に食料品の輸入・販売の会社の経営者で実質的なオーナーでもあります。共同創業者でビジネスパートナーでもあり、良き相談役でもあったジェンコ氏は既に亡くなって久しいのですが、あなたは特に体の悪いところもなく元気です。

  あなたには実の息子が3人と娘が1人、息子同然に育ててきた養子(男)が1人います。あなたの妻も健在で、小さな孫たちや長男の嫁と暮らしています。

  長男のサニーは、取締役として既に父親といっしょに日常的に仕事をしています。既婚で二人の子供がいます。性格は、仕事も女性関係もガンガン積極的に行くタイプです。あなたがみるところ、サニーの妻は夫の浮気に気づいているようですが、見て見ないふりをしているようです。

  次男フレドは、おとなしい性格です。取締役のひとりとしてビジネスを手伝ってはいます。人間的に問題があるというわけではありませんが、あなたも他の兄弟たちも、ビジネスで頼りになる男とは思っていないというのが、本音でしょう。独身ですが、長男のサニーとは異なるタイプで女性関係にルーズなところがあるとあなたも気づいています。

  三男のマイケルは、あなたの意思に敢えて逆らって、アイビーリーグ在学中に志願兵として戦地に赴き、終戦後、海兵隊を除隊となり復員してきたばかりです。今後、どういうキャリアを目指しているのか不明ですが、あなたやファミリーの他のメンバー、会社の古参幹部などは、会社の仕事を手伝うよりは、将来は上院議員か州知事くらいの大物になってほしいと期待しています。学業優秀で性格面も申し分ない人物、とあなたも思っています。あなたに紹介した婚約者がいますが、女性関係はその婚約者だけのようです。

  長女のコニーは新婚です。先日行われた彼女の結婚披露パーティーは、あなたの親族だけでなく、ジェンコ商会の経営幹部、取引先などの会社関係者、同じ業界のライバル企業の経営者たちも出席するなど、実に盛大なものでした。コニーの夫となったカルロについては、名目上は会社の幹部でそれ相当の給与を支給して生活は保障していますが、実際は仕事には一切、関与させていません。これはあなたの決定ですが、他の取締役たちも異存はありません。

  息子同然で兄弟たちといっしょに育ったトムは、ロースクールに学び、弁護士の資格を取得しました。今はあなたの法律顧問(会社としてはCEOの顧問弁護士兼相談役)として、日常的にサニーとともに父親の仕事を手伝っています。慎重な性格ですが、難度の高い交渉であっても、任された仕事は間違いなくやり通す能力と意志を持っています。既婚です。

  ある日、ジェンコ商会が扱っていない商品を取り扱う新興の商社(S社)から業務提携の打診がありました。ジェンコ商会が押さえている地域や顧客層にも、S社の商品を流したいので、その商売をするうえでのサポートをしてほしい、もちろん、相応の対価をマージンとして支払うというものでした。

  この会談の場に、あなた・長男ソニー・次男フレド・顧問弁護士トム・非ファミリーの取締役たちが臨みました。その場で、あなたが会社を代表してS社のCEOと話している最中に、長男ソニーが個人的な意見を差しはさむ場面もあり、S社にこちらの足並みの乱れを見透かされてしまったのではないかと、あなたは大いに気がかりでした。

  結局、S社の主力商品やビジネスのやりかたに大きな疑問を持っていたあなたは、この申し入れを明確に断りました。しかし、他のライバル会社がサポートする恐れが大きいとみて、裏の事情に詳しいある幹部社員に状況を探らせるなど、必要と判断した措置をとりました。

 この一件からも推察されるとおり、あなたや亡きジェンコ氏とともに事業の拡大に注力してきた古参の取締役や執行役員などは何人もいます。彼らもまだまだ健在で、今も会社を支えています。ビジネスは順調ではありますが、業界内のライバル会社も多く、油断はならないと、あなたはいつも思っています。そのためか、まだまだ現役で自分が仕切らなければ、という意識を強く自覚しています。

 

 さて、この会社の創業者兼オーナーかつCEOであるあなた、そしてファミリーのリーダーであるあなたは、次の世代のリーダーを誰にするでしょうか。その指名は、いつ、どのようにしますか。また、そのリーダーを選ぶプロセスや育成するためのプログラムについて、何か特別なものを用意しますか。

 

(8)に続く

  

文章作成:QMS代表 井田修(2019115日更新)