ミシェル・ルグランの訃報に接して

ミシェル・ルグランの訃報に接して

 

先週、フランスの作曲家でジャズピアニストでもあるミシェル・ルグラン氏が86歳で死去しました(注1)。氏は50年代後半から、映画音楽や舞台(ミュージカル)で数多くの作品を生み出すとともに、自らピアノを弾き、歌を歌うなどパフォーマーとしても幅広く活躍し続けました(注2)。

昨年亡くなったフランシス・レイと同時代で活躍した音楽家で、実際に二人が関わった作品として「愛と哀しみのボレロ」などがあります。

 

日本にもツアーでたびたび訪れており、筆者も20年以上前にステージを直接鑑賞する機会がありました。メロディーラインの美しさとジャズ風のノリの良さ、そしてルグラン氏本人が演奏を楽しんでいるさまが見てとれて、観客もともに楽曲を楽しむことができるステージだったと記憶しています。

最初に氏の音楽に触れたのは、多分、「シェルブールの雨傘」ではなかったかと思います。ジャック・ドゥミ監督とはいくつも組んでおり(注3)、ジャック・ドミ監督夫人でもあるアニエス・ヴァルダ監督の「5時から7時までのクレオ」でも音楽を担当しています。

アメリカ映画では「華麗なる賭け」「おもいでの夏」「真夜中の向こう側」「結婚しない族」「ネバーセイ・ネバーアゲイン」、イギリス映画では「恋」など、筆者が観ている限りの作品に限っても、10本以上はあります。

そうした数多い映画音楽(注4)のなかでも、最も強くミシェル・ルグランらしいと感じるのは、「ロシュフォールの恋人たち」の中の“Chanson de Simon(シモンの歌)”です。ロシュフォールで楽器店を営むシモン・ダムという中年の男が、昔の悲恋を歌うのですが、そのなかで恋人が彼の元を去った理由(注5)には失笑せざるを得ません。それをルグラン氏のおしゃれな曲とジャック・ドゥミのライトな色彩感覚の画面と組み合わせて観客に提示されると、楽しいような、いとおしいような感情に支配されてしまいます。

関わった数多くの映像作品や舞台作品とともに、ミシェル・ルグランの音楽もこれからも長く生き続け、多くの人々に愛されることでしょう。

 

【注1

たとえば、以下のように報じられています。

https://www.asahi.com/articles/ASM1V63JMM1VUHBI02D.html

https://natalie.mu/eiga/news/317608

 

【注2

詳しくは、以下の公式HPの“MUSIC”や“BIOGRAPHY”をご覧ください。

http://michellegrandofficial.com/

作曲家として映画・TV・ミュージカルの音楽を担当し、ピアニスト兼ボーカルとして自らのコンサートでワールドツアーを行うほか、ジョン・ノイマイヤーのバレエ作品「リリオム」の音楽も担当しています。

 

【注3

ドゥミ監督のデビュー作でもある「ローラ」、「シェルブールの雨傘」と同じくカトリーヌ・ドヌーブを主演に据えた「ロシュフォールの恋人たち」や「ロバと王女」、池田理代子原作の「ベルサイユのばら」などがあります。

 

【注4

ルグランの映画音楽の代表的なものは、たとえば次のようにまとめて紹介されているものがあります。

https://www.youtube.com/watch?v=stvlkOmaLeM

ここで紹介されている楽曲は以下の通りです。

1.  The Umbrellas of Cherbourg (0:00)「シェルブールの雨傘」

2.  Young Girls of Rochefort (5:06)「ロシュフォールの恋人たち」

3.  Summer of 42 (9:34)「おもいでの夏」

4.  Never Say Never Again (13:30) 「ネバーセイ・ネバーアゲイン」

5.  How Do You Keep The Music Playing (17:04) 「結婚しない族」の主題歌

6.  The Thomas Crown Affair (23:05) 「華麗なる賭け」

7.  What Are You Doing The Rest Of Your Life (26:59) TV映画「ハッピーエンド」の主題歌)

8.  The Three Musketeers (32:58) 「三銃士」

9.  Wuthering Heights (41:03)「嵐が丘」

10. Brian’s Song (46:11) TV映画「ブライアンズ・ソング」の主題歌)

11. Dingo (49:28) 「ディンゴ」(映画およびマイルス・デイビスと共作したサントラ版)

12. Yentl (53:34) 「愛のイェントル」

13. The Go-Between (1:07:30)「恋」

 

【注5

シモン・ダムと結婚するとマダム・ダムと呼ばれることになることに恋人は耐えられなかった、とシモンは歌います。

なお、「ロシュフォールの恋人たち」については、たとえば以下のサイト(サントラおよび映画の一部)などをご覧ください。

 

 

  作成・編集:QMS代表 井田修(201921日)