フランシス・レイの訃報に接して
先週水曜日、フランスの作曲家のフランシス・レイ氏が86歳で死去していたことが公表されました(注1)。氏は60年代以降、映画音楽と歌で数多くの作品を生み出しました(注2)。楽曲を提供したアーティストには、エディット・ピアフを筆頭に、ヨーロッパ・アメリカ・アジアなどに広がります。
最も成功したのは、やはりラブストーリーの作品における音楽でしょう。オーケストラなど楽器中心の映画音楽の世界に、歌(声)を基軸とした映画音楽というひとつの標準を作り出した作曲家ではないでしょうか。
多分最も知られているであろう映画音楽は、1966年製作の『男と女(フランス語タイトル“un home et une femme”)』の男女のスキャットでしょう。死去を伝える報道のなかでも、必ずといってよいほど、このスキャットへの言及があります。
映画のジャンルや制作国などは多種多様で、なかには日本人の監督の日本の映画でも仕事をしているものがあります。仕事をしている年数も長く50年を超えています。そのなかで最も多く組んだのは、『男と女』の監督であるクロード・ルルーシュでしょう。
個人的には、1977年製作の『ビリティス(英語タイトル”Bilitis”)』の音楽のなかで、女声のささやくような曲が最も強く印象に残っているものです。写真家のデビッド・ハミルトンが監督したこの映画は、ハミルトンの写真の世界に音楽をつけて動かしてみせたような作品ですが、その世界を音楽で表現したらこうなるはず、という映像以上に音楽が忘れ難い作品となっています。
もうひとつは、1981年製作の『愛と哀しみのボレロ(フランス語タイトル”Les Uns et Les Autres”)』です。ジョルジュ・ドンがモーリス・ラヴェル作曲の「ボレロ」を踊るシーンが有名ですが、映画全体の音楽はレイとミシェル・ルグランが共同で担当したものです。歌やメロディ作りに長けたレイと、ミュージカルやジャズを得意とするルグランが、シャンソン・ジャズ・クラシックなどが随所に現れる、3時間を超える大作を作り上げました。
また、『ある愛の詩(英語タイトル“Love Story”)』(注3)の音楽や主題歌などは、メロディを生み出すレイならではの仕事でしょう。レイが音楽を担当した作品は、ヒット作も多く、この作品や『男と女』では続編でも音楽を担当しました。
関わった数多くの映画とともに、フランシス・レイの音楽も生き続けることでしょう。
【注1】
たとえば、以下のように報じられています。
https://www.asahi.com/articles/ASLC82H84LC8UHBI014.html
https://www.jiji.com/jc/article?k=2018110801080&g=int
【注2】
詳しくは、公式HPの“FILMOGRAPHY”や“SONGS”をご覧ください。
【注3】
ウィキペディアのステルビオ・チプリアーニ(イタリアの作曲家)の項によると、『ある愛の詩』と同じ1970年に製作された『ベニスの愛(イタリア語タイトル“Anonimo veneziano”)』でチプリアーニが作った曲が、レイの作曲した『ある愛の詩』のテーマ曲と類似していて問題となったことがあったそうです。奇しくも、チプリアーニも今年10月に亡くなっています。
作成・編集:QMS代表 井田修(2018年11月11日)