「働き方」改革を巡る座談会(5)~必要な政策は?~

「働き方」改革を巡る座談会(5)~必要な政策は?~

 

以下の座談会では、一部、守秘義務を要する事項に言及しているものもあるため、個人名などを特定されないよう、お話しいただいた方はすべて匿名とさせていただきます。それぞれの方々が経営される企業について語っていらっしゃる内容も、企業名を特定されないように、一部、変更して掲載しています。

 

ご参加いただいた方々のプロフィールは以下の通りです。

Aさん(男性40歳代):外食サービスを創業。現在もCEOとして複数の業態で多店舗展開の陣頭指揮を執る。

Bさん(男性50歳代):ある地方でマルチ・フランチャイジーを経営。外食、コンビニエンスストア、事業所向けサービス、教育関連サービスなどをフランチャイジーとして展開。

Cさん(女性30歳代):IT関連サービスを創業。観光や宿泊などに特化してビジネスを展開している。

Dさん(女性40歳代):製造業の会社を父親より引き継ぎ、CEOとして大きく業態転換を図った。現在、一種のSPA(製造小売業)として事業展開中。

Eさん(男性30歳代):建設関連の会社で新規事業を立ち上げ、その後、立ち上げた事業をスピンオフしてCEOに就任。現在、建設関連のITサービス会社を経営。

 

― ところで、来年度から施行される労働時間法制の見直しや雇用形態に関わらない公平な処遇の実現などを行っていく上で、労働政策の面で特に希望することはありますか。

 

Bさん 個々の政策の必要性はわからないではありませんが、あまりに小出しというかバラバラで、却って企業の現場に無用な混乱を引き起こしています。

 

― 具体的には?

 

Eさん たとえば、副業の解禁なんて、わざわざ政策として打ち出すまでもないでしょう。副業禁止の会社であったって、従来から例外的に認めることはよくありました。うちの会社でも、エンジニアが他社のシステム開発を手伝うこともあれば、反対に別の会社の人にうちの仕事を手伝ってもらうこともあります。業務上必要であれば、副業どころか本業の中でもダブルワーク的なことはよくあります。

 

Bさん 副業を奨励しておいて、労働時間を削減するとか、有給休暇の取得を義務付けるというのでは、働く人たちも、たくさん働く方がいいのか、あまり働かない方がいいのか、迷うのではないでしょうか。

 

― 労働者への政策と企業への政策がうまく整合性が取れていないのかもしれません。

 

Cさん 労働政策に要望するとすれば、ひとつあります。

 

― 何でしょうか?

 

Cさん 労働契約自体に有効期間の上限を定めて欲しいとは思います。たとえば、労働契約は最長5年、もし更新するとしても1回だけ、というような契約年数の縛りです。

 

Dさん 全員有期雇用ということですか。

 

Cさん そうです。大企業や公務員などは相変わらず、終身雇用で能力の高い労働力を囲い込んでいる現実があります。ベンチャーを立ち上げてみてわかりましたが、すでに人材を囲い込んでいる大手企業とは、まともに正面から競争するのは容易ではありません。その最大の理由が人材です。日本の場合、まだまだ中途採用市場に潤沢に人材が溢れているとは、到底、言えません。人材市場で大手企業も中小企業も同じ土俵で人材獲得競争をしたくても、そもそも取るべき人材が少ないのが実態です。

 

Bさん 趣旨には賛成です。実現可能性は低いでしょうね。

 

― ほかに、ありますか?

 

Aさん ブラック企業を公表するというのは悪くないと思います。ただ、民間企業だけが労働者を雇っているわけではなく、官公庁や各種の団体や法人なども相当な数の人々を雇用しているわけです。そういうところで、実習生とか研修生という名目で、最低賃金に達さない賃金で外国人を働かせるようではダメです。

 

Cさん ブラック企業をなくすということは、同時に、労働法規を遵守する会社がバカを見ることがないようにすることでないと、ブラックといわれても会社を畳んでしまえばいいということにもなりかねません。

 

Bさん 実感として、ブラック企業が公表されているものしか存在しないなんて、誰も思っていません。ブラック企業のごく一部がリストアップされているに過ぎませんよ。

 

― なかなか、すべてのブラック企業を摘発するというわけにはいきませんか。

 

Dさん 労働基準監督官が法人の数に比べて少ないことは事実です。もし本当に労働法規をきちんと遵守させる意思があるのであれば、社会保険労務士から労働基準監督官への転職を奨励して一気に人数を増やすとか、即効性のある政策をとるべきでしょう。

 

― 公務員の数を増やすのは、いかがなものでしょうか。

 

Dさん 必要なところがあれば、そこは増やすし、不要なところがあれば削減する。当たり前のことです。全体のコストは一定にしておくか、むしろ減らしながら、増やすべきところは増やす、一般の企業ではどこでもやっていることです。もちろん、さまざまな創意工夫で労働生産性を向上させることも忘れてはいけません。

 

Eさん 行政当局にはいろいろ言いたいことはありますが、下手な措置をとるおそれがあるのなら、新しい政策は取らずに、今あるルールを徹底させることに注力すればいいと思います。

 

Bさん 法律関係でいえば、顧問弁護士が日常の相談に乗ってくれるのに対して、何か刑事事件があれば、公権力をもった検察官が取り調べて起訴しますよね。税務でも、日常的には税理士や税務署の担当官に相談すれば済みますが、脱税ともなれば査察などの捜査権限をもつ部署から来ますよね。労働関係でも同様に、監督官は悪質だったり重大な違反があったりする時に強制的に捜査するのに特化して、日常の相談や届け出対応は社労士でも十分でしょう。

 

― 法律ではどのあたりまで規定しておいたほうがいいと思いますか。

 

Bさん あまり個別の労働条件について、法律で細かく規定しないほうがいいと思います。決めるのは、最低限守るべき事項にしておくほうがいいですね。労働時間の上限、最低賃金の金額、休日や有給休暇の日数など、既にあるもので十分です。

 

Aさん むしろ、自由度が高いほうが経営者にも労働者にもいいのではないでしょうか。何しろ、人材を獲得し定着してもらい、その能力を十分に発揮してもらう競争を企業はしているわけです。法律上守るべき要件も守れない企業には、そうそう人材がはいってこないし、既にいる人は辞めてしまいますからね。

 

Eさん そうはいっても、最低限守るべき事項を守れないのであれば、強制的に摘発するのが筋でしょう。労働法や労働環境を巡る問題も、企業統治のひとつとして捉えるほうが合っているように思います。

 

― 本日は長い時間にわたり、興味深いお話をいただき、ありがとうございました。ご参加いただいた皆様が、ますますご活躍されますようにお祈り申し上げます。

 

 

文章作成・編集:QMS+行政書士井田道子事務所(2018918日更新)