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「働き方」改革を巡る座談会(3)~何から取り組むべきか~

「働き方」改革を巡る座談会(3)~何から取り組むべきか~

 

以下の座談会では、一部、守秘義務を要する事項に言及しているものもあるため、個人名などを特定されないよう、お話しいただいた方はすべて匿名とさせていただきます。それぞれの方々が経営される企業について語っていらっしゃる内容も、企業名を特定されないように、一部、変更して掲載しています。

 

ご参加いただいた方々のプロフィールは以下の通りです。

Aさん(男性40歳代):外食サービスを創業。現在もCEOとして複数の業態で多店舗展開の陣頭指揮を執る。

Bさん(男性50歳代):ある地方でマルチ・フランチャイジーを経営。外食、コンビニエンスストア、事業所向けサービス、教育関連サービスなどをフランチャイジーとして展開。

Cさん(女性30歳代):IT関連サービスを創業。観光や宿泊などに特化してビジネスを展開している。

Dさん(女性40歳代):製造業の会社を父親より引き継ぎ、CEOとして大きく業態転換を図った。現在、一種のSPA(製造小売業)として事業展開中。

Eさん(男性30歳代):建設関連の会社で新規事業を立ち上げ、その後、立ち上げた事業をスピンオフしてCEOに就任。現在、建設関連のITサービス会社を経営。

 

― 皆さんのお話を伺っていると、「働き方」改革の課題は、ビジネスモデルの見直しに始まる自社で取り組む課題と、決済手段やコミュニケーションインフラなどのビジネス慣行全体に関わる課題と、大きく二つに分けられると思います。

 

Aさん 社会全体とか業界慣行とか言っていたら、改革なんてできませんよ。人材不足にしろ、現金決済にしろ、それを前提としてビジネスをやるわけですから、業務システムとか人員体制とかを見直して仕事のやりかたを改革していくわけです。

 

Bさん 「働き方」改革と言っても、現実には残業削減とか実労働時間の短縮ということを言っているに過ぎないケースが大半ではないですか。

 

Eさん 働き方改革宣言(注3)でしたっけ、要は、長時間労働を抑制して、休みを取りやすくする、みたいなものですよね。

 

Dさん そんなこと、まともな企業は大概、実施しています。いまでも社員に長時間労働を強いている経営者なんて無能なだけです。

 

Aさん 見方を変えれば、ブラック企業が脱ブラックになるためのチャンスをあげましょう、ということかもしれませんね。個人的に知っている会社が宣言して、奨励金をもらいましたが、さすがにこの頃は過労で誰か倒れたという話は聞かなくなりました。

 

― 「働き方」改革は、ブラック企業撲滅運動ですか?

 

Dさん そういう面も否定できないでしょう。うちでも以前は、納期やコストの面で無理なものであっても、何とか受注をこなそうと社員に長時間労働を強いていた時代もありました。

 

Eさん システム開発でもそうです。毎日深夜まで作業をしていると、それが当たり前になって、午後10時過ぎにならないと、仕事をやろうという気持ちにならなくなってきます。週に23回は徹夜もしないと、仕事をやり切ったという達成感が得られません。

 

Cさん それでは、ワーカホリックどころか、完全に麻痺でしょう。

 

Eさん 今振り返ってみると、異常ですね。でも、当時はそれが当然で、むしろいいことのように感じていました。私だけでなく、いっしょに開発していたメンバーも同様に感じていたと思います。

 

Cさん そういう時は、本来は経営者やマネージャーが作業を止めさせるべきでしょうけれど…在宅勤務の社員をみていると、お子さんの送り迎えとか育児や家事などで時間が決まっていて、自然と仕事を終えるようになります。オフィスに居続けるほうが、作業が止まらないですね。

 

― 経営者はどこから着手すればいいでしょうか?

 

Dさん 確かに、自分の会社の経営に精一杯、特に業績が悪いとなれば、資金繰りやら新事業・新製品の開発、顧客開拓と頭も時間もいくらあっても足りませんから、どうしても人事管理には目が届かなくなります。

 

Aさん 業績がいい時だって同じでしょう。儲かって次々に店を開けるとなれば、採用には注力しても、その後の教育や管理までは、やらなきゃいけないとわかっていても、手が回りません。でもそれを理由にしては経営になりません。

 

Bさん まずは、自社の現状を自己診断してみればいいと思います。厚生労働省などから公表されているツール(注4)などを適当に活用すればいいでしょう。経営者が自ら取り組めればそれにこしたことはありませんが、社員の誰かとか第三者に任せても構いません。

 

― 最初は現状を確認することですね。

 

Eさん この改善指標って、週60時間以上の労働者の割合と有給休暇取得率で見ていますけど、この2軸でいいんですか?

 

Bさん 厚生労働省は、働き方は労働時間と有給休暇の取得状況で判断できると考えているのでしょう。「働き方」がしっかりと改革できているところは、労働時間が異常に長いことはないし、有給休暇も計画的に消化されているように見えます。たぶん、この程度のことも実現できない企業というのは、それが大手か中小か関係なく、問題のある企業ということですね。

 

Dさん ちなみに、“働き方改革”と“チェックリスト”でググルといろいろ出てきますよ。本気で経営者が取り組むのなら、こうしたもののなかから、第三者の視点で厳しく評価してもらうことから着手してもいいでしょう。ただ、お付き合いのある関係先の方には依頼しないほうがいいですよ。経営者の顔色を見て、忖度して報告してきますから、却って実態が見えなくなります。

 

Cさん うちでも定期的に社員を対象にアンケート調査を外部に委託して実施しています。コストは多少かかりますが、続けてみると、会社の状況がわかって、次の手を打ちやすくなりました。特にテレワークの社員は、日常的に表情や行動が見えないので、問題を早めに見つけるには不可欠です。

 

― まずは現状を把握することですね。

 

Bさん 経営者なら、財務情報や営業データは毎日、見ていると思います。

 

Aさん 店ごと、業態ごとに、売上・食材費・人件費に利益、客数に客単価、それも時間帯別に見ますね。

 

Bさん それと同じです。人件費というと会計情報ですが、そこにいる個々の社員の状況を計数的に掴んでおくには、毎日の労働時間は最低限見るべきでしょう。それと、計数的には掴めないとしても毎日の働いた成果を、「○○さんは今日も頑張った」でもいいから、一言、コメントで残しておきたいですね。うちでは、業種が多様なので横並びの数字での比較はできませんが、マネージャーでもアルバイトでも、何か気がかりなことや良かったことがあれば、勤怠アプリに一言いれてもらうようにしています。

 

【注3

たとえば、働き方改革宣言についての東京都の取り組みは、以下のサイトを参照ください。

https://hatarakikata.metro.tokyo.jp/

また、全国社会保険労務士連合会からは『働き方改革取り組み宣言シート』が公開されています。

https://www.shakaihokenroumushi.jp/Portals/0/doc/nsec/kikaku/2017/sengenshito.pdf

 

【注4

『働き方・休み方改善指標』(厚生労働省)

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000139030.pdf

 

 

文章作成・編集:QMS+行政書士井田道子事務所(2018820日更新)