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「働き方」改革を巡る座談会(2)~課題は何か?~

「働き方」改革を巡る座談会(2)~課題は何か?~

 

以下の座談会では、一部、守秘義務を要する事項に言及しているものもあるため、個人名などを特定されないよう、お話しいただいた方はすべて匿名とさせていただきます。それぞれの方々が経営される企業について語っていらっしゃる内容も、企業名を特定されないように、一部、変更して掲載しています。

 

ご参加いただいた方々のプロフィールは以下の通りです。

Aさん(男性40歳代):外食サービスを創業。現在もCEOとして複数の業態で多店舗展開の陣頭指揮を執る。

Bさん(男性50歳代):ある地方でマルチ・フランチャイジーを経営。外食、コンビニエンスストア、事業所向けサービス、教育関連サービスなどをフランチャイジーとして展開。

Cさん(女性30歳代):IT関連サービスを創業。観光や宿泊などに特化してビジネスを展開している。

Dさん(女性40歳代):製造業の会社を父親より引き継ぎ、CEOとして大きく業態転換を図った。現在、一種のSPA(製造小売業)として事業展開中。

Eさん(男性30歳代):建設関連の会社で新規事業を立ち上げ、その後、立ち上げた事業をスピンオフしてCEOに就任。現在、建設関連のITサービス会社を経営。

 

― 「働き方」改革を進める上で、これといって意識されている課題はありますか。

 

Eさん 組織運営とか人材面での課題というのは、特に感じません。もともとベンチャーや中小企業はあまり人材もいませんし、経営者といっても担当者と同じように実務をやっていますから、口頭でもチャットでもその場で決めて動きます。

 

Cさん そうですね、事務処理とか報連相とかは、システム上で完結しています。Eさんの会社も同様と思いますが、システム開発やお客様サポートといった仕事は、テレワークといいますか、社員や業務提携先の方々の自宅や事務所でやってもらうのが大半なので、無理やり残業とか長時間労働を強制しようにも、「今日はここまで」って言って電源を切られたら、それで終わりです。

 

Eさん 最後に泣きながら徹夜するのは、経営者しかいません。

 

― Aさんはどうですか。

 

Aさん 私たちのような外食ビジネスでは、経理処理にしても、人材採用にしても、アプリで対応できますから、いちいち紙に書いて本社に上げるということはありません。業務マニュアルやトレーニングも店舗では基本的にタブレットで対応できるようにしています。

 

― さすがに採用は本人に会ってみないと決められないのでは?

 

Aさん 外食とか対面型のサービス業では、現場のスタッフの採用は面接や実技試験などを行わないと決定できません。ただ、そこに至るまでの応募書類提出とか書類選考、面接の日程調整といったものは、絶えず最新のITサービスを導入しています。電話で日程を調整するとか、応募書類を郵送してもらうということは、ないですね。

 その上で、実際に会ってみます。スマホの画面で見た印象と、実際に会ってみた印象というのは、かなり違いますから、新業態店を出す時には必ず私が会います。採用を決めるのは店長ですが、どうしても合わない人については、私が拒否権をもつようにしています。

 Eさんのところでは、直接会わなくても、技術レベルの高い人材なら採用されるのですか。

 

Eさん よほど高度な技術があって、どうしても欲しい人材であれば、ネットを通じてコミュニケーションをするだけで仕事を頼むかもしれませんが、実際にエンジニアを採用するのであれば、直接会いますね。見た目ではなくて、その人の技術やビジネスについての考え方とか、仕事の価値観みたいなものが合っているかどうか、確かめたいので直接、会うようにしています。

 

Bさん フランチャイズ・ビジネスも同様です。本部との間では、契約書などは紙ベースで取り交わしますが、日常の業務ではITベースですね。

ただ、課題というほどのことではないかもしれませんが、本部から誰か来たり、アンケートなどの調査があったりすると、仕事が中断されたり、その後に対応しなければならないことが出てきたりして、余計な手間がかかることはよくありますね。

 

― 本社とか本部と現場との関係は、永遠のテーマかもしれませんね。

 

Bさん 私たちは複数のフランチャイズに加入していますから、それぞれの違いとか特徴もあります。現場のフランチャイジーを最優先に考えて対応してくれるところもあります。

 

― Dさんは何か課題を感じられていますか。

 

Dさん 「働き方」を改革するというのは、労働生産性を向上させることにつながらなければ意味がないと思います。まず、そこがはっきりしないケースが多いのではないかと危惧しています。

労働生産性を向上させるには、まず自社のビジネスモデルの見直しから始めるのが筋でしょう。先代の頃は大手の下請けとして部品の受注生産をしていたのですが、それを止めて、自社製品のネット販売に切り替えた当初は、なかなかトップライン(売上)が目標をクリアできず、苦労しました。とはいえ、営業担当を置く余裕はありませんから、ネットに注力したというのが実情です。結果的に、トップラインの生産性は担当者が1名ですから、労働生産性は高くなりました。

 

― 製造における労働生産性はいかがですか。

 

Dさん 職人さんっていうのは、どうしてもいいものを作りたいのです。それが、自分の納得できるものに偏ってしまうと、コストも工数もかかり過ぎてしまいがちです。それでは、経営者としてボトムライン(利益)を確保できませんし、働いた分に見合った処遇も実現できません。

 そこで、職人さんのもっているスキルやノウハウを活かした製品を企画するが経営者の仕事になってきます。その際に、職人さんたちと喧嘩腰になっても、製品にとって不要なものと絶対に欲しいものをわかってもらうのに、相当な時間がかかりましたし、その間に退職していった人もいます。

 ただ、一度理解して納得してもらうと、製品作りは早いですね。同時に、職場環境も私が先頭に立って毎朝、5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)を徹底していったり、未経験の人たちを新たに雇用してベテランの職人に指導してもらったりしたので、労働生産性は着実に向上しました。

結局のところ、最大の課題はトップラインを引き上げられるような製品を企画し続けていけるかという点かもしれません。これも、社員全体で進める仕組みを試行錯誤している最中です。

 

Aさん うちのビジネスでいえば、労働生産性を向上させる上で、もしかすると最大の問題は、現金管理かもしれません。うちのような店舗型のビジネスの場合、実際に支払いに使われるのは、まだまだ現金が多いのです。

 

Bさん 確かにそうですね。店で現金管理がなくなれば、本当に作業効率は上がりますし、店長やシフトリーダーがその日の売上や現金を集計したり確認したりする作業が不要になれば、その分、23人時程度は毎日、工数を削減できます。

 

Eさん うちは個人顧客向けのビジネスではないので現金を扱うことはまずないのですが、業界慣行としてまだまだFAXでのやり取りが多いので、ITサービスを提供しながらも、お客様とのコミュニケーションは電話とFAXです。

 

Cさん うちも国内のお取引先には電話やFAXを使うことが多いですね。海外とのやりとりは、ほぼすべてネットです。国内のほうがコミュニケーションの手間とか時間はかかりますね。ビジネスのスピード感は、海外の方が速いし、何より余計な手間がかかりません。

 

Eさん ファイルをワンクリックでやり取りできるのに、わざわざ何ページも印刷してからFAXして、先方に着いたかどうか電話で確認して…

 

Cさん そうそう。「働き方」を改革するなら、FAX禁止法でも作ったほうがすぐに効果が出るんじゃないですか。

 

Aさん ついでに現金も使用する範囲を限定してほしいですね。

 

― 労働生産性を向上させるには、ひとつの会社でできることには限界があるということでしょうか。

 

Dさん 事業承継やIT導入などで補助金や助成金の制度を活用したのですが、申込手続きや申請書類の作成などでまだまだペーパーワークが多くて、けっこうな作業量でした。見積書や領収書をひとつとっても、紙で整理し保存するのではなくファイルで対応するようになれば、企業も官公庁も生産性が上がることは間違いありません。

 

 

文章作成・編集:QMS+行政書士井田道子事務所(201886日更新)