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ティール組織~マネジメントの常識を覆す次世代型組織

(6)本書を活用するには

 

 本書は、進化型(ティール)組織のガイドブックとして参照する価値があります。それだけでなく、進化(ティール)型組織を目指さない場合にも、それぞれの組織運営形態、特に達成型や多元型の組織についても、その特徴や運営のポイントが表形式でコンパクトにまとめられており、組織運営を見直す際の指針となります。

これから起業しようとする人にとって、組織を立ち上げて運営していく際にモデルとして参照すべきものが何か、ヒントを与えてくれるでしょう。また、付録①「調査用の質問票」は、組織運営をどうすべきか考えている起業家や経営者にとって、ひとつひとつに答えていくことで、自社の組織がどうあるべきか、また現実はどうなっているのか、自然と分析ができます。たとえ進化型(ティール)組織を目指さないとしても、この質問票を使って実際に機能する組織を設計することができるでしょう。

従来の組織のありかたに違和感をもっている人や新しいビジネスには新しい組織があるはずと考えている人にとって、本書で紹介されている進化型(ティール)組織はそれぞれがストーリーで語られているので、具体的な場面で理解しやすいと思われます。これらの組織はまた、その手法や組織改革の経緯などをオープンにしているところばかりなので、学ぶのに便利でもあります。

たとえば、ビュートゾルフは、オランダの地域医療・介護サービスのNPOですが、既にグローバルに事業を展開しています。日本でも2014年と2017年にCEOのヨス・デ・ブロックが講演を行ったり、日本法人を設立したりするなど、日本語で情報を収集しやすいという点で最も学びやすい組織です。

FAVIというフランスの自動車部品メーカーについては、25年以上の経緯や組織運営の詳細が300ページ近い英文の資料(2006年時点)にまとめて公開されています。このように、その組織の歴史を取りまとめてみるというのも、自社の組織運営の特徴を振り返ってみるのに効果的です。そしてそこから、自社の組織運営の特徴や型が見て取れるはずです。

モーニング・スターというトマト加工会社は、特に自主経営に関する情報提供・学習のためのサイトを会社として用意しており、進化(ティール)型組織として独自の組織運営を担う社員がそのやりかたを自ら学習する機会を保証しています。こうしたサイトと自社の教育プログラムを比較してみると、身につけるべきスキルやマインドセットの面から進化(ティール)型組織の特徴が理解できるかもしれません。

ホラクラシー(法人としてはホラクラシーワン)に至っては、自ら開発し手法を整備したホラクラシーという組織運営モデルを普及させることが事業となっています。本格的に進化型(ティール)組織を導入しようとするならば、それもグローバルな組織展開を考えているならば、ある程度は確立した手法を活用することも検討すべきでしょう。

もっと気軽に進化型(ティール)組織の雰囲気を感じ取るには、サウンズ・トゥルーのウェブサイト(英語)の“about us”のところを参照してもいいかもしれません。そこには、職場に連れてきているペット(主に犬と猫)と社員の紹介があります。また、既に亡くなってしまったペットについても、記録が残っています。

 

本書の紹介の最後に注意したいことが3点あります。

第一に、外部から強制して進化型(ティール)組織を作るのは避けるべきだということです。

経営者や社員が自ら従来の組織のありかたに疑問を持ち、別のやりかたがあるのではと感じるところがスタート地点です。その次に、具体的な手法やプロセスを学ぶことになったときに、本書で紹介されている組織の事例が参考となるでしょう。

第二は、経営者や起業家などが経営に関する情報を社員に向けてすべてオープンにする意思が本当にあるのかどうか、そして、社員が決めたことを実行に移すのを見守っていることができるのかどうか、という経営トップ自身の経営スタイルや意思決定スタイルにおける進化型(ティール)組織との適合性です。

特に自らがすべてを決めないと気が済まないタイプの経営者や、会社の財務情報や技術・ノウハウなどを通じて会社の真の姿を社員に知られたくないCEOなどは、無理に進化型(ティール)組織に自社を変えていく必要はありません。

第三に、これも経営トップ自身のことですが、経営者や起業家などの個人的な資質や性格が周囲の人々にとって、親しみやすく相談しやすいキャラクターかどうかという点です。

これが実は一番厄介なポイントかもしれません。というのも、社員Aにとってはいつも笑顔を絶やさず相談しやすいCEOであっても、社員Bにとっては笑顔の裏に冷酷な影を感じてしまい(そう感じるに足るキャリアや実績があるため仕方がないのですが)、表面的には相談を持ちかけるように見えても本心は明かすことができないかもしれません。社員Bにとっては、自主経営も全体性の回復も存在目的の進化も画餅です。

以上のように、進化(ティール)型組織はすべての組織にとってのモデルとなるものではありません。これを踏まえて本書の一部でも活用できるものは活用すべきでしょう。実際、ビュートゾルフの分散型のチーム運営の方法は、サテライトオフィスや在宅勤務などが多くなりつつある現在、十分に示唆に富むものがあります。

  

文章作成:QMS代表 井田修(2018627日更新)