人材不足時代のベンチャー経営(2)

 

人材不足時代のベンチャー経営(2)

 

 同じ地域で同じ職種であっても、時給1500円を提示しても人が集まらない会社もあれば、時給1000円でも応募者が集まる企業もあります。パートタイマーやアルバイトだけでなく、正社員の採用であっても同様です。同じ業界で初任給に差がほとんどないのに、学生に人気のある企業もあれば、明らかに応募の少ない会社もあります。

 こうした違いは、個々の企業の知名度やターゲットとする人材層における魅力など、企業の人材調達能力の差によるものもありますが、人材調達能力ではさほど大きな差がないと考えられる中小企業やベンチャーの間でも、人を採用しようとするとその結果には大きな違いがあります。

こうした違いは、人材の募集要項での賃金以外の事項から生じるものと思われます。たとえば、勤務する場所(地域)、勤務時間やその時間帯、福利厚生プログラムなどの違いが、人材採用に大きく影響しているものと思われます。

 

勤務する場所というのは、通勤しやすいかどうかとか、在宅勤務などのテレワークや直行直帰などオフィスに縛られない勤務体系があるかどうかなどです。

社員の労働負荷を考えれば、通勤に便利な場所とか社員の住んでいる地域に近い勤務地ということを実現できればいいのですが、容易なことではないでしょう。そもそも通勤しなくても仕事ができるのであれば、それに超したことはないので、在宅勤務やテレワークを導入している会社のほうが、一般的には人材調達に有利でしょう。

勤務時間やその時間帯も人の採用に当たっては無視できない要素です。

まず、固定的な労働時間か裁量労働制などのフレキシブルなものかで全く異なります。また残業があったほうがいい人もいれば、一切できないという事情の人もいます。

これらも、会社が指定しうる固定的な労働時間をベースに、残業もある程度までは厭わない人だけを採用するというように、企業の側が人材条件を狭く絞り込んでしまうと、そうそう人は採用できません。言い換えれば、労働時間も勤務する場所と同様に、できる限りフレキシブルに対応できる企業が、働く人から選ばれるのです。

福利厚生プログラムについても同じようなことが言えます。勤務する場所や時間以上に、社員個々のニーズに合ったものが必要となりますから、より柔軟で多様なものが求められます。

就学前の子供を育てている人を例にとって考えてみましょう。

子連れ出勤を奨励するのか禁止するのか、企業内保育園などを整備するのか、ベビーシッターのサービスを利用できるように外部業者を斡旋するのか、課題解決のためには単に福利厚生プログラムにコストをかければいいわけではありません。子連れ出勤が象徴的ですが、職場のありかたや組織全体のマネジメントスタイルそのものが問われることになる課題もあります。

特にシングルマザー・シングルファーザーにとっては、保育園やベビーシッター斡旋よりも子連れ出勤のほうがいいかもしれません。とはいえ、子連れで出社して仕事をしてよいといっても、現実には通勤で混雑した電車に乗って通勤しなければならない職場や勤務時間では、子連れ勤務を許可したり奨励したりしても却って社員やその子供にとっては不都合かもしれません。勤務する場所や時間によっては、在宅勤務のほうが望ましいことも十分にありえます。

また、有給休暇の取り易さといった点も無視できない要素です。ルール上は事前申請が必要であっても、育児や介護などに当たっているのであれば当日申請でも認めるとか、1日ではなく半日や時間単位の有給休暇を認めるといった対応が求められます。

 

以上述べてきたことは、ほんの一例です。

現実には社員の人数分だけ、働く場所や時間の決め方や福利厚生プログラムの組み合わせが必要になるかもしれません。このように、社員個々の事情に対応できる柔軟さが組織に求められるとすれば、正しくダイバーシティとインクルージョンが問われることになります。

本来、ベンチャーは雇用環境や労働条件についても、しがらみなく(そもそも創業したばかりのベンチャーにはしがらみや過去の経緯といった歴史がないはず)、ゼロベースで柔軟に対応できるのが強みであるはずです。

こうした点は歴史の長い企業や多くの社員を抱える大企業よりも有利なはずです。その強みを活かすことができないようでは、ベンチャーをやる意味がないとすら、言えるかもしれません。

ただ、このようにさまざまなプログラムを柔軟に制度化して運用しているとしても、それだけではベンチャーは一般の企業との人材獲得競争には勝てません。あくまでも多少は優位を築けるかもしれない程度のものです。

 

(3)に続く

 

        作成・編集:人事戦略チーム(2018315日更新)