ゼロイチ営業(2)

 

ゼロイチ営業(2)

 

ゼロイチ営業といっても、単に製品やサービスが新しいとか、既存の製品・サービスを未開拓の市場に売っていくだけなら、通常見られる新規開拓型の営業に過ぎません。これだけではゼロイチ型の営業と言えません。

ベンチャーは会社名やブランドがまったく知られていない状況でスタートするので、文字通り、ゼロから最初のイチを作り出す作業になります。仮に、大企業の子会社など、社名の一部にでも一般的な知名度がある部分があれば、世間の人々のなかには少しは話を聞く耳をもつ人がいるでしょう。しかし、まったく聞いたことがない会社名やブランドでは、門前払いをされるのが普通です。そこを突破していくのが、ゼロイチ営業です。

 

さて、ゼロイチ営業に求められるスキルというと、まずはコミュニケーションの意欲または習慣ということでしょう。

いつどのような場面、どのような人に対しても、それが直接の対面であっても、ネット経由でのやりとりであっても、すぐに自然に自己紹介(ここでは個人の紹介というよりも会社や製品・サービスについての紹介)をしているようでないと、ゼロイチ営業の端緒は開けません。

これは、何かを計画的にPDCAを回すというよりは、DADAというべきかもしれません。まずやってみて、ダメだった理由を分析するより、別のやり方をすぐに試してみる、そういう行動を自然にとっているので、ある程度の数をこなすなかから営業のきっかけを掴む可能性が出てきます。

顧客になりそうかどうかを考える前に、出会った人々に自社の製品やサービスをまず紹介する習慣こそが大事でしょう。そして、同じ紹介をするにしても、相手の反応などから、チラシ1枚にしてもそのデザインや渡し方を日々、改善していく習性が求められえます。

言い換えれば、ある人や組織が顧客となりそうかどうかを考える前に、顧客になってほしいところに出向いて、コミュニケーションをとるとか、そもそも顧客となりそうもなくても、顧客につながりそうなヒントを探ったり、顧客となりそうな関係先がその先にあることを想定したりして、少しでも興味をもってもらうように話を展開してしまう、そういう習慣・習性をもっていることが必要です。

これは、直接言葉を交わす場面ではもとより、ネットを通じて自社の製品やサービスに興味・関心をもってもらう際にも、少しでも引っかかりがあるように次々と仕掛けを施すことが肝要です。また、そうした仕掛けを施すことが楽しいくらいでないと相応の期間続けることは難しいはずです。

ダメ元とはいいますが、100件でも1000件でも会って話す機会を作れることは最低限クリアすべきものでしょう。そのためには、たとえば展示会(○○フェア)に出展して、そこで名刺を交換したりチラシを配ったりデモを実施して、1人でも多くの人々に知ってもらいます。その上さらに、交換した名刺の人々に翌日から直接会いに行くくらいの行動が求められます。

 

起業家とはいえまったく営業経験のない人でも、自己紹介も兼ねて100件も話すことができれば、自然とゼロイチ営業の基本スキルには習熟してくるものです。

実際には、こうしたコミュニケーションのほぼ全てが、成約には至らないという点で無駄になるように思われます。そこで、今日(ここ)がダメなら明日(次)があるという割り切りの良さとか、断られることをストレスとして貯めこまないメンタリティをもつことも忘れてはなりません。

こうしたことが自然とできている人もいますし、なかなかできずに結果がでないことを引き摺ってしまう人もいます。もし前者であれば、起業家自身がゼロイチ営業に邁進すればいいのですが、後者の場合はゼロイチ営業に向いている人を採用する必要があります。起業家自身は個々の営業活動をするのではなく、営業の体制作り(その第一歩がゼロイチ営業に挑戦する人材を確保するか外部に委託することです)および体制作りを可能とする資金調達に当たることになります。

戦術的には財務上のバックアップがあれば、ゼロからイチの実績を作りだすことはさほど難しくはないかもしれません。たとえば、自社の製品・サービスについて「無料、お試し」の広告宣伝を大規模に実施して、とにかく営業(販売)実績を作り出すという方法もあります。特に不特定多数の個人顧客を想定するビジネスでは、こうした手法が有効となる場合もあります。

こうした場合、本当の意味での営業が必要になるのは、無料お試しキャンペーンの後です。一度は自社の製品やサービスを経験した顧客をいかにリピーターやファンになってもらえるのかが、営業上の最大の鍵となるでしょう。

圧倒的に多くのベンチャーの現実は、資金や人材などの経営資源を大量に投入することは無理な相談でしょう。そこでは、伝手を辿って細々と営業を進めるのが実態かもしれません。特にB to Bのビジネスにおいては、そうした傾向が主流でしょう。

この場合、営業すべき相手が明確に特定されることもありますが、具体的な手段がないことも間々あります。そこで、ターゲットとなりうる業界や企業とのコネクションをもつであろう人材をアドバイザーや顧問として雇ったり、営業活動自体を業務委託したりすることで、ゼロイチ営業を進めるベンチャーも少なくありません。

展示会などへの出展・参加なども含めて、公的な機関によるゼロイチ営業のサポートもあります。たとえば、東京都(中小企業振興公社)では「革新的サービスの事業化支援事業」や「TOKYOイチオシ応援事業」などで外部アドバイザーなどによる営業先開拓支援を行うなど、それぞれの専門スタッフがもつ人脈やネットワークを通じて営業先を開拓するサポートもあります(注1)。

また、VCのなかには自社の専門スタッフや業務提携先などを通じて、営業支援に積極的なところもあります。財務とセットで営業開発に取り組むのも、ひとつの方法です。

 

(3)に続く

 

【注1

詳しくは、公益財団法人東京都中小企業振興公社のHPをご覧ください。既に募集は終了していますが、平成29年度の制度概要は次のとおりです。

http://www.tokyo-kosha.or.jp/support/service/kakushin.html

http://www.tokyo-kosha.or.jp/support/josei/jigyo/ichioshi.html

 

 

作成・編集:経営支援チーム(2018111日)更新