創業補助金の採択事例にみる創業動向について(5)

(5)具体的な起業テーマについて

 

次に、採択された事例に見られる起業テーマについて、その特徴などを業種別にご紹介しましょう。

 

①「食」に関連するもの

 

 「食」に関連するものは採択件数の4分の1以上を占めており、その数が多いのですが、その中から典型的な採択事例として、次のようなものがあります(注8)。

 

・全粒粉・ライ麦を使用した健康パン・手作りパンの製造販売(26・岐阜)

・自社生産の無農薬野菜を使った地ビール製造とカフェレストランの展開(26・茨城)

・本物志向のそばを提供し、地域の豊かな食文化に貢献する手打ちそば店の開設(26・徳島)

・薬膳カレーと天然食材をメインとした健康志向の料理店事業の展開(26・佐賀)

・農学博士が作る高付加価値ジャム・ジュース・アップルパイ等の製造販売(26・熊本)

・地元の食材を活かした地域密着型の和食居酒屋の展開(26・大分)

 

 業態別に「食」で採択事例を見てみると、パンの製造・販売が最も目立っています。次いで、カフェやレストラン(イタリアンやフレンチ)、和食店や居酒屋、ラーメン店といったものが多いようです。

 その一方で、おにぎり店など米をメインに据えた業態はほとんど見られず、弁当店・移動販売、定食店なども数少ない事例となっています。

 「食」の場合、地元の食材や自家(自社)生産の食材をキーワードとしたものが一般的といえるほど、地域に関係なく数多く見受けられます。そのなかの代表的なものを以下にピックアップしてみました。

 

・北海道の選りすぐり食材を使ったジェラ―トショップの展開(27・北海道)

・地元食材を使用したコース料理主体のレストラン開業(29・秋田)

・庄内の食材を通してつながりや食文化交流で地域を活性化する飲食店事業(28・山形)

・秋保ワイナリー内で軽食・お菓子・雑貨販売の実施(26・宮城)

・地域食材によるアイデア洋菓子の製造販売と立地(総合病院そば)を活用した低糖カフェの展開(29・栃木)

・江戸東京野菜や地元食材を酒菜に交流を楽しめる居酒屋(27・東京)

・鎌倉にてアメリカンスタイルのバーベキュー料理を食べられるカフェを出展(27・神奈川)

・自ら狩猟するジビエを提供する市内初のイタリアンレストラン(26・静岡)

・武家屋敷の自宅土蔵を改装して農作物を活かした農カフェ事業(26・長野)

・富山県産バイ貝等を使い、楽しんでいただける貝料理専門店(27・富山)

・店主自家栽培の京野菜とワインによる京イタリアンのおもてなし(27・京都)

・大和食材による日本食文化「神饌」を世界に誇れる長寿飲食事業として実施(29・奈良)

・置き薬風の売り方を導入し、福山の特産品を世界に発信していくカフェの展開(27・広島)

・地元の食材を使用して安心して食べられるベーグルカフェ(26・徳島)

・築60年超の古民家を活用したベーカリー事業の展開(26・愛媛)

・分子ガストロノミーに基づいた鹿児島県産黒牛・魚介フライ料理の提供(26・鹿児島)

 

 こうしてみると、地域の食材をアピールするとともに、健康や観光などとも連動して「食」で起業するのが主流のようです。

 また、独自の技術で開発したものを事業展開するという、ベンチャーらしい起業事例もあります。

 

・「活〆神経抜き」処理を施した魚の仕入・飲食店への販売の事業化(27・宮城)

・八百屋直結型グリーンスムージー販売事業の展開(27・福岡)

・オリジナルレシピのマヨネーズ「Magic Mayonnaise」の新規製造・販売(26・神奈川)

・岡山発 ミッシェル・ブラスの技法を継承したフランス料理店(26・岡山)

 

 シェアリングエコノミーの発想をもって「食」で起業するものもあります。具体的には、稼働していない不動産や捨てられている材料を活用するものです。

 

・廃校を活用したきのこ工場で北海道を椎茸生産日本一に(26・北海道)

・フラワーセンター跡地利用苺園(体験型いちごカフェ・巨大迷路)の開園(26・静岡)

・廃棄対象となる新鮮野菜を活用したドレッシングやディップ等の加工品製造販売(26・神奈川)

 

 顧客ターゲットを明確に絞り込んだ事業プランも、次のように採択されています。

 

・地域密着型大人の男女のための婚活居酒屋の展開(27・東京)

・単身者の方が通いたくなる創作中華料理店の展開(27・福岡)

・薬剤師がプロデュースする糖質オフの健康カフェ(26・埼玉)

・アスリートの体調管理を目的とした会員制食堂の運営(26・愛知)

・地域貢献と人材育成を目的として飲食店の空き時間を利用した子供用カフェ(29・東京)

 

 そして、海外に販路を拡大するという事業プランもあります。

 

・福岡県産フルーツを海外市場に売り込む販路開拓の実施(28・福岡)

・愛知県産日本茶と日本文化の中国への輸出事業(27・愛知)

 

 さらに、食材を開発・生産・販売したり飲食店を開業したりするというだけでなく、「食」を文化として捉えて事業展開を図る起業プランも採択されています。

 

・博多や久留米に負けない新しい宇部ラーメンのブランド作りと発信(26・山口)

・宮崎ラーメンの文化定着・発信基地創造事業(29・宮崎)

・海外も注目する日本の珈琲文化を守り既存店・創業を支援する事業(27・大阪)

 

 数は限られていますが、「食」に関する事業者をサポートするビジネスを提案する事例も採択されています。

 

・中小飲食企業のプロモーションに特化したコンサルタントの開業(26・滋賀)

・全国2位の野菜ソムリエが提案する「食」に特化した広告事業の展開(26・福岡)

 

 以上、「食」に関するものの中から、特徴的な採択事例をいくつかご紹介しましたが、まとめると次のように言えるでしょう。

 すでにある「食」そのものを扱う場合、地元食材とか何らかの地域性や独自性を打ち出すことが求められます。もちろん、新たに開発した食材や調理法というものも、検討に値します。

 次に、何らかのトレンドを「食」にも持ち込んだものも有力です。それは、シェアリングエコノミーでも安全安心でも不稼働不動産の再活用でもインバウンド観光でも、十分にありえます。

 そして、顧客ターゲットの絞り込みという視点も見逃せません。その先には、海外展開や新たな文化の創造・発信もあります。

 忘れてならないのは、「食」にダイレクトに関わるものだけでなく、「食」に関わるビジネスを成功させるには、その周りでサポートを求める需要もあるということです。ここにもビジネスチャンスはありそうです。

 

【注8

()内は、数字が採択年度(平成○○年度)、地名は採択された事例の都道府県名を表します。次回以降の事例紹介でも同様の記述となります。

 

(6)に続く

          作成・編集:QMS代表 井田修(201798日)更新