創業補助金の採択事例に見る創業動向について(1)

 

はじめに

 

経済産業省中小企業庁が行っている「創業補助金」制度は、毎年、日本全国から多種多様な創業プランを募り、その中から、その年度の政策目的や予算規模などに応じて、補助金を支給する対象を選ぶものです。

支給要件や募集時期などは、毎年、変わっているところがありますが、基本的には、新たな需要や雇用を生み出し、経済の活性化を目指すものです(注1)。

 

「創業補助金」は、その採択結果が採択一覧の形で公表されています。そこには、応募者の氏名、地域(都道府県および市区町村)、事業テーマが記載されており、現実にどのような起業(創業)テーマがあるのか、見ることができます。今回は、その一覧表をもとに、近年の創業動向を振り返ってみたいと思います。

 

【注1

「創業補助金」についての詳細は、以下のウェブサイトを参照してください。

http://sogyo-shokei.jp/sogyo/

 

(1)全体の動向について

 

 まず、直近4年の採択件数を見てみましょう。

 

1:平成2629年度の年度別採択件数

   

 

26年度

27年度

28年度

29年度

4年度合計

採択件数

1631.0

755.0

134.0

109.0

2629.0

構成比(%

62.0

28.7

5.1

4.1

100.0

 

 4年間で、合計2600件を超える創業プランに補助が行われています。ただし、その多くは、平成26年度・27年度のものが占めています。

 

それでは、そもそも応募の状況はどうかといえば、表2に示すとおりです。

 

2:平成2629年度の年度別採択動向

   

 

26年度

27年度

28年度

29年度

4年度合計

応募件数

2984

1170

2866

739

7759

採択件数

1631

755

134

109

2629

採択率(%

54.7

64.5

4.7

14.7

33.9

 

 隔年で応募が3000件に近い時と1000件程度のときがあるように思われます。この結果を見ると、急激に採択が絞り込まれている印象を受けます。これは、政策目的の変化や予算規模の問題があることを窺わせます。

 

 次に、採択された事業テーマを業種別に見てみましょう。

 

3:平成2629年度の業種別補助件数

         

 

「食」

ケア

製販

IT

T&R

教育

美容

その他

合計

補助件数

711.0

347.0

496.0

176.5

148.0

111.5

171.0

468.0

2629.0

構成比(%

27.0

13.2

18.9

6.7

5.6

4.2

6.5

17.8

100.0

 

 今回データをとりまとめるに当たって、公表されている事業テーマを8種類に分けてみました(注2)。

 その結果、「食」に関連するものが4分の1を超えて最も多くを占め、次いで製販に関するもの、ケアに関するものが10%以上となっています。これらの3業種で、全体の約6割を占めます。

 起業というと一般に注目度が高いように感じられるITT&Rについては、「創業補助金」ではそれほど多くを占めているわけではない、と指摘できます。

 

【注2

業種分類については、以下の通り、個々の事業テーマを勘案して取り扱いました。

「食」:

食に関連するもの。食材や食品の製造・販売、飲食業、食品や飲食に関するコンサルティングといったもの。

ケア:

医療や介護に関するもの。人間や動物を対象とする病院や診療所、医療関連サービス、介護や障害者支援に関するものなど。

製販:

ものつくりおよびその販売に関するもの。新しい製品の開発・製造・販売およびそれらを支援する各種のサービスなど。輸出入も含めている。

IT

情報技術に関するもの。システム、プログラム、アプリ、ICTサービスなどを開発・販売・導入するもの。

T&R

旅行関連および不動産関連のもの。このふたつは、近年のインバウンド需要の盛り上がりを受けて、多く創業されているのではないかと仮説を設定したため、ひとつの業種区分として設けてみた。

教育:

学校や塾や資格取得サポートなどはもとより、広く何かを教えるもの。ただし、企業の人材育成をテーマとするものは除く。

美容:

美容室、美容目的のサロンや教室など。理容は除く。

その他:

上記の7種類に該当しないもの。

 

 今回の業種分類に当たっては、公表されている事業テーマが該当する業種があれば、その業種で1.0としてカウントしていますが、二つの業種に関わるものについては、0.5を計上しています。たとえば、「健康を足元から支えるため接骨院とオーダーメードインソールの作成販売の複合事業」というテーマは、ケアと製販の両方の業種でそれぞれ0.5としてカウントしています。

 

(2)に続く

         作成・編集:QMS代表 井田修(2017817日)更新