同一労働同一賃金を巡って(3)

 

同一労働同一賃金を巡って(3

 

2)より続く

 

前回、同一労働同一賃金は処遇(特に賃金制度)の仕組みの問題である前に、職務分担とか仕事の配分に関する問題であることを述べましたが、それと同時に、仕事をするプロセスやその結果をきちんと管理するという業績管理(パフォーマンス・マネジメント)が適切に機能しているかどうかも、多くの企業で問われるべき課題であるでしょう(注3)。

 

たとえば、次のような状況を想定してみましょう。

販促担当のマネージャーであるあなたには、3人の部下がいます。いわゆる正社員のAさん(新卒入社した会社を2年で退職して転職してきて3年ほど)、在宅勤務のBさん(介護のため通勤は困難だが自宅で毎週、所定労働時間分をきちんと仕事をしている)、週3日勤務のCさん(もともと派遣社員で仕事をしていたところ、能力が高いと見込んでパートタイマーとして採用)です。

この3人とチームを組んで仕事をしているあなたは、来月のセールスプロモーションの企画案を来週末までにとりまとめるつもりでいたとしましょう。

こうした企画案は、いつもはあなたが作成していましたが、あなた自身は今週末から来週いっぱい出張が続き、とりまとめる時間がありません。そこで、3人に、来月のセールスプロモーションの企画案を作成してもらい、最もできが良かったものをベースに企画案をとりまとめることにしました。

企画書のフォーマットやこれまでの企画案などは、AさんもBさんもCさんも会社が貸与したパソコンから見ることができますし、出張中とはいえ、少なくともメールでコミュニケーションをとることはできます。

3人には、いつも仕事を依頼するのと同様にこの仕事も依頼しました。AさんとCさんには、2人いっしょに過去の企画書などを見せながら直接、話をして仕事の趣旨、企画案に必要な内容、納期、作業の進め方などを指示しました。また、Bさんには同じ資料などを添付してメールで同様の指示をしました。

それから、1週間が経ち、あなたのもとには3人が作成した企画案のファイルが届きました。それらを見たあなたは、次のようにそれぞれの企画案を評価しました。

Aさんの案は、パワーポイントの枚数だけは多いものの、肝心な来月のセールスプロモーション案を読んだあなたにはピンと来るものがありません。市場分析とか業界動向とか、一般的すぎてこれでは使いものにならないと判断しました。この1週間、BさんやCさんは途中で何度かメールで質問や確認をしてきましたが、Aさんはあなたが進捗状況をメールで尋ねても「取り掛かっています」とか「順調です」というばかりだったのが、この結果か、とあなたはがっかりしました。

Bさんの案は、参考に見るようにいった過去の企画案と同程度のものはできていますので、一応、合格点は付けられるものと判断できます。ただ、多少は期待していたBさんなりの視点とかアイデアなどが盛り込まれているようには感じられない点が、あなたにとっては大いに不満といえます。

Cさんの案は、数値面での詰めが荒っぽいところはありますが、Cさん独自のアイデアが随所に盛り込まれていて、検討するに値するプランであると判断しました。細部の見直しや修正は必要ではあるものの、この案をベースに来月のセールスプロモーションの企画案をとりまとめることにしました。

 

さて、あなたはこの3人の仕事(来月のセールスプロモーションの企画案を1週間以内にとりまとめて提出すること)について評価するとしたら、どのように評価するでしょうか。

ここで考えていただきたいのは、仕事の成果について評価する際に、いちいち、これは正社員だからとか、これはパートタイマーだからといったことを考慮に入れるかどうかです。そもそもいれるべきではないでしょうし、実際に仕事を依頼したマネージャーの立場になれば、正社員であろうと非正規の社員であろうと、仕事の成果がちゃんと出ているかどうかが問われることになる点は変わりがありません。

そうであるならば、仕事のプロセスや結果を評価すること(それが業績評価ということに他なりません)は、その仕事をする人の雇用区分とは関係のないことです。マネージャー(企業といってもいいでしょう)にとって重要なのは、業績がきちんと挙がるように適切にマネジメントをすることです。そのためのツールのひとつが業績評価である以上、同じ仕事を担当させたのであれば、雇用区分に関係なく、同じ業績評価システムを適用することになります。

 

「同一労働」というのは、同じ仕事を担当させるという意味とともに、その仕事の結果が同じという意味ももちます。同一労働同一賃金をより丁寧に表現するならば、同じ仕事をしてその仕事の結果が同じと評価されるのであれば、同じ賃金(処遇水準)を得られるという原則である、ということができるでしょう。

 ここで、仕事の結果が同じと評価されるかどうかは、正しく業績管理(パフォーマンス・マネジメント)の問題です。

同じ仕事であれば、同じ業績評価基準と業績評価プロセス(手順)を経て、評価を行うということになります。もし、同じ仕事なのに、評価基準が違ったり評価プロセスが異なったりするとすれば、業績評価のそもそもの目的である、業績を挙げることができるように適切にマネジメントをするということができなくなってしまいます。

たとえば、1人の管理職の下に、5人の部下がいるとしましょう。そのうち、2人はいわゆる正社員、3人はパートタイマーで、実際に担当している仕事は5人とも同様のものだとしましょう。小売や外食などの店舗で接客をするとか、営業店での内勤事務などをイメージしていただくといいかもしれません。

この場合、現実の仕事が5人ともに同じ仕事で、管理職(店長とか支店の管理担当の課長など)だけが部下の管理や例外的な事項への対応を行っているとすれば、部下の5人の評価基準は同じでないと意味がありません。その評価基準とは、日常の作業を適切に行っているかどうかとか、会社や店などでやるべきこととして定めたものをきちんと実行できているかどうかで判断することになるでしょう。もちろん、詳細はチェックリストや日々の営業報告などの中で評価に関わる事実が蓄積されていくことになります。評価基準と同様に、業績評価プロセスについても、同じ仕事であれば同じプロセスを適用することになります。

 より詳しく述べれば次のようになります。

 

評価者が同じ

1人の管理職が5人の部下の評価者となって、全員の評価を行うことになります。部下それぞれの雇用管理上の区分は関係ありません。実際に担当している仕事が同じかどうか、という点だけが関係のあるポイントとなります。

もし担当する仕事が違うのであれば、仕事の指示・命令を出す人が違うこともありますから、評価者も違うことはありえます。

 

評価のフォーム(様式)が同じ

同じ仕事をしているのであれば、正社員だから○○様式、アルバイトだから××様式である必要はありません。むしろ、仕事が同じなのに評価フォームが違うことのほうが不自然です。

 

評語の定義・段階・表記などが同じ

様式が同じである以上、その内容も同じです。

 

評価の手順が同じ

たとえば、評価面談や目標設定面接などを行うのであれば、同じ仕事をしている人は同じように面談を行うことになります。評価の段階(一次評価、二次評価、最終評価など)やプロセスなども、基本的に同じものとなります。

 

評価の回数や評価を行うタイミング(時期)が同じ

仕事の実態に応じて評価をするタイミングが適切に設定されているはずですから、同じ仕事であれば同じタイミングで評価を行います。もし、毎月評価をすることで業績管理ができるのであれば、その対象が正社員か非正規社員かどうかに関係なく、毎月、評価をすることになります。そうしなければ、その仕事についての適切な業績管理ができなくなり、仕事の成果が適切に挙がるようにはなららいでしょう。

また、多面評価やオピニオンサーベイなど被評価者からのフィードバックを必要とするのであれば、これも正社員か非正規社員かに関係なく同様に行います。評価者がいわゆる正社員か非正規の社員かでマネジメントに差をつけているとすれば、そのほうが問題視されます。

 

以上、述べてきたことは、既に多くの企業でそれなりに実施されてきていることでもあります。特に、流通や外食、さまざまなサービス業など、非正規社員の存在を抜きにしては事業運営が成り立たない業界や、人材活用に優れた企業などでは、当たり前のこととして実践されていることでしょう。

その一方、そもそも適切なルールや仕組みで業績評価が行われているのは、正社員だけというのに等しい会社も、まだまだ数多く存在します。

それどころか、勤続年数が長いアルバイト社員や嘱託社員のほうが、いわゆる正社員や管理職よりも現実にその職場での仕事の内容を熟知していることも往々にして目にします。部門間を跨いだ人事異動が頻繁にある正社員や管理職は、異動してきた職場のことを何も知らず、実務的なことは全面的にベテランのアルバイトや嘱託社員に依存することすら、珍しいことではありません。

そうなると、同一労働同一賃金の議論の前に、担当する仕事と処遇のバランスが崩れている状況を改善しなければなりません。もし、同一労働同一賃金を実現するのが困難だと感じている企業があるとすれば、その原因のひとつはこうした現実にあるのではないでしょうか。

 

【注3

当コラムでは、これまでにも業績評価に関連した記事をご紹介してきました。そのなかで評価に関する問題点についての記事は、「こんな不満ありませんか?~評価について」があります。

https://www.qms-imo.com/2015/05/07/%E3%81%93%E3%82%93%E3%81%AA%E4%B8%8D%E6%BA%80%E3%81%82%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%9B%E3%82%93%E3%81%8B-%E8%A9%95%E4%BE%A1%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6-%E5%89%8D/

それらの問題点を解決していく際のポイントについては、「評価の不満を解消するには」という記事があります。

https://www.qms-imo.com/2015/05/21/%E8%A9%95%E4%BE%A1%E3%81%AE%E4%B8%8D%E6%BA%80%E3%82%92%E8%A7%A3%E6%B6%88%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%AB%E3%81%AF-%EF%BC%91/

 業績評価についての課題やその解決に関して一般的なものは、上記のコラムなども参照してください。

 

4)に続く

 

 

作成・編集:人事戦略チーム(2017212日)