「今すぐ採用」を活かすには(2)
ベンチャーでは「○○ができる人が欲しい、今すぐ」ということがよくありますが、その際に採用すべき人材は大きく3種類あります。その第二は、仕事といっても作業ベースのことではなく、仕事の仕組みや成功パターンを作るような人材が欲しいという場合です。
ここで採用にあたって評価すべきものは、具体的なスキルというよりも、コンピテンシーとして認識されるようなものに変わります。
たとえば、経費処理の仕組みを作る、そのためにクラウドベースの会計システムを導入するといった仕事です。また、営業戦略を自ら立案してPDCAサイクルを回しながら、他の社員や社外関係先なども巻き込んで、新規開拓の成功パターンを生み出すといったようなものです。仕事というよりも、入社後にやってほしい具体的なミッションというべきかもしれません。
こうしたものは、その人が過去に実現してきた仕事の成果として把握することはできても、それを自社で実現できるかどうかということになると、かなり曖昧な表現でしか言えないものでしょう。
過去に実績を上げたと自負している人であっても、個々の企業の違いから生じるさまざまな環境要因の違いは、実際に入社してみて初めて把握できるものでしょう。特に、いろいろな経営資源がある大企業での成功体験は、往々にして、経営資源などないに等しいベンチャーや小規模企業では、むしろマイナス要因とみなすほうがいいかもしれません。反対のケースもまた同様でしょう。その人の置かれている環境が違えば、違うコンピテンシーが重要になります。大きな組織で成果を生み出すには、組織を動かすのに有効なコンピテンシーが求められ、それは一人で何でもやるものとは異なります。
さて、仕事の仕組みや成功パターンを作るような人材を採用しようとすると、通常は即戦力となりうる人材やマネージャー(候補)の求人情報を求人メディアに掲載します。それから、書類選考、筆記試験やアセスメント、数次に亘る面接といったプロセスを経て、採用を決めることになりますから、「すぐに欲しい」といっても数ヶ月はかかります。
一般の求人サイトだけでは募集の効率はよくないかもしれません。職種や業種を絞った求人サイトや、ヘッドハンティング型の人材紹介などを活用することも必要かもしれません。さらに、ベンチャーや中小企業が知名度の点で劣るのはしかたがありませんから、その分、転職フェアへの出展や新卒採用(総合職など幹部候補としての採用)メディアへの出稿なども並行して行うことで相乗効果を狙います。採用や求人に直接は関係のないメディア(マスメディアもソーシャルメディアも含めて)において、経営者がビジョンやビジネスなどについて語るといったことも、実はそれなりに効果があるようです。
また、企業が採用を決めても、家族の反対などで入社を辞退されてしまうといった話もよく耳にするところです。そうならないように、人事や処遇のプログラムを整備したり、労働環境が悪くないことをアピールしたりするなど、採用以外のことにも十分に注意を払う必要があります。
このように採用コストがかかるのが、ベンチャーにとってかなりの難点です。それでいて、必ずしも期待通りの人材が採用できるわけでもないので、ぎりぎりまで採用に前向きになれない経営者も少なくないことでしょう。
こうしたコストを払って、ようやく検討に足る候補者がでてきたとしても、実際に会ってみるとその印象には大きな幅があります。
その候補者が「まずできそうもない」ということは、ある程度の確信をもって判断できるでしょう。この判断は、多くの場合、そう問題なくできます。もちろん、その入社希望者を採用することは、まずありませんが、場合によっては、第一の場合のような人手として採用することもありえます。
ここで注意したいのは、マネージャー(候補)なのか単なる労働力(人手)なのか、経営者の頭の中ではクリアに決まっていても、周囲にはそれが伝わっておらず、マネージャー(候補)として採用されたはずなのに単純作業しかやっていない、と他の社員から不満がでてくることです。特に処遇面で優遇されているとなると、組織運営上も経済効率の面でも問題です。このような問題を事前に回避するには、当初の目的を外れた採用はしないことに尽きます。
次に、その候補者が「やってくれそう」と思われるケースです。これは、こちらの期待が半分、入社希望者の売り込み方が半分で構成される、極めてあやふやな判断にならざるを得ません。「やってくれるに違いない」と強く確信するほうが、期待が大きい分だけ、入社後に落胆や失望につながるリスクも大きいでしょう。
この場合は、入社後にその人をどのように活用するのか、経営者自身が悩むことになりそうです。そこで、入社後にできるだけ短いサイクルで、課題(仕事の目標)設定とその解決策の進捗度(目標達成度)の評価を実施し、経営者から見て何か不満な点があれば、即座にそのことを伝えて、改善が見られなければすぐに辞めてもらうといった話をしていくことが必要です。
なかには、入社後にこちらの期待通り、もしくは期待を上回る成果を上げることができる人もいます。滅多にそういうことはありませんが、もしいれば、その人は大きな信頼を得ることができます。そして、会社の中核を担う人材として、マネージャーや役員として活躍することが次のステップとして想像できます。
しかし、こういう人が創業経営者にとって、本当に信用のおける人として会社になくてはならない人材と言えるかどうかというと、これは、まったく別の問題です。仕事はできるとしても、代替不能な人材というわけではないかもしれません。このタイプの人材は、明確に意図しているかどうかはともかく、タイミングを見て入れ替えていく例が極めて多いというのが実感です。働きや功績には報いるものの、第三の会社の価値を体現する人ではないのであれば、代替可能なものとして処遇を考えていくことになります。
作成・編集:人事戦略チーム(2016年9月1日)