コネ採用?を謳う会社

コネ採用?を謳う会社

 

 今日から、経団連の「採用選考に関する指針」に基づき、2017年卒業・入社予定の学生を対象とする選考活動(面接と試験)が解禁されました。

 ベンチャーや中小企業では、大手企業の選考活動が終わっても、採用や選考の活動が続くものと思われますが、大手企業と同じようなことをやっていたのでは、そうそう採用活動がうまくいくとは思えません。自社ならではの仕掛けや工夫が求められるのは、言うまでもないでしょう。

 

 ところで先日、ある会社の経営者の方から、その会社独自の採用方法についてお聞きする機会がありました。

 

「会社を設立されて10年以上経たれるわけですから、新卒採用もベースができてきたのではないですか。」

「うちは、基本、コネ採用ですから。」

「コネですか?」

「といっても、もちろん、取引先の役員の子弟とか、社会的な地位のある方々の口利きとか、そういうものではないですよ。」

「どういうことですか?」

「コネというのは、うちの会社に対して何らかのつながりがある人、という意味です。」

「どなたか社内に知り合いがいるとか、顧客であるとか、そういうことですか?でも御社は、一般消費者向けの製品やサービスではないですよね。」

「直接の顧客とか、顔を知っている友人・知人がいることを求めているわけではありません。うちにみたいな技術志向の会社は、要するにエンジニアやプログラマーを中心に少数精鋭で運営していくわけです。むやみに、誰でもいいから、頭数が欲しいわけではありません。たぶん、他の会社だってそうでしょう?」

「確かに、数を追うということは、基本的に今の企業にはありませんね。」

「これでも、公募していた時期もあったんですよ。会社が軌道に乗り始めた頃です。当初は創業メンバーの友人・知人などを介して、これはという人に声をかけていたのですが、それだけではなかなか、採用が進まなかったので、新卒も中途も、採用メディアを使って公募中心にしてみました。数年は続けました。」

「お金はかかりそうですね。」

「まあ、金の問題は覚悟していたのでいいのですが、問題は採用できた社員の質です。結局、思わしくはなかったですねえ。人材の質、といっても技術レベルの問題というよりも、仕事に取り組む姿勢とか、他のメンバーとの協力関係とか、顧客への対応とか、入社前にはなかなか判断できないところで、いろいろと問題がでてきてしまったのです。」

「まあ、新卒でも中途でも、実際に仕事をしてみないと、その人の仕事ぶりとか実力はわかりませんからねえ。」

「その通りです。でも、それでは、せっかく採用したのに、『あなたは期待外れでした』といって放りだすことになります。それはそれで、お互いに無駄なエネルギーを使いますし、そのまま社内に居続けるのでは、他の社員に悪影響が及んでしまいます。それだけは、どうしても避けねばなりません。」

「できることなら、そういう人を採用せずに済ませればいいのですが…」

「そういうこともあったので、リファレンスチェックをするようにはしました。でも、あまり効果的ではなかったですね。中途採用でも形だけといいますか、手続きに過ぎない感じでしたし、まして新卒ではリファレンスの取りようがありません。」

「それは、そうですね。」

「うちに就職を希望して、エントリーをしてくる段階では、自薦だけでもかまいません。ただ、その次のステップに進むには、必ず、当社の関係先の誰かの推薦をもらってくるようにしています。」

「推薦?」

「いまは、うちの社員や役員など、何らかの関係者からの他薦を必ずもらうようにお願いしています。当社の関係者だけでなく、顧客や協力パートナーなどでも構いません。要は、入社を希望する本人のことを相当よく知っている人、もしくは、そのよく知っている人をよく知っている人が当社の関係者であることがポイントです。」

「誰も知り合いがいないということはないですか?」

「直接は面識のある人はいないというのが、まあ一般的です。でも、エンジニアやプログラマーですから、できる人たちの世界は狭いものです。まして、うちの事業分野ともなると、IT全体からみれば、かなり絞り込まれた分野です。知り合いの知り合い程度で、うちの関係者に行きつくと思いますよ。」

「中途はわかりますが、新卒でも同じですか。」

「実際に開発や技術営業を仕事とするわけですから、そう簡単に仕事で結果が出るわけではありません。無理難題としか思えない課題の連続です。でも、それをクリアするからこそ、競争力が生まれるわけで、『できません』といったら仕事になりません。そこには、新卒も中途も区別はありません。」

「入社前から、ひとつの難題を課しているわけですか。」

「そうですね。入社試験のひとつと思ってもらって構いません。」

「採用するかしないかは、どう判断されるのですか。」

「敢えて明文化してはいないのですが、一口でいえば、『いっしょに働きたいか』という質問にイエスと言い切れる人であるかどうかです。言い切れないときは、何か引っかかりがあるわけで、いっしょに仕事をするのに値する人であるかどうかが採用基準です。少なくとも、役員やマネージャーの誰かが採用に賛成しきれないのであれば、採用は見送るようにしています。」

「単に知り合いを優先的に採用しているわけではないのですね。」

「それはそうです。知り合いというだけでなく、『この人といっしょに働くことに積極的に賛成』という意思表示を、他薦とかコネといっているのです。」

「派閥みたいなものはできませんか。」

「派閥とか親分子分とかの人間関係は、エンジニアやプログラマーの世界では最も嫌われますし、そんなものに頼って保身に走るような人は最初から仕事をさせてもらえないでしょう。」

「そういうものですか?」

「役員やマネージャーは、直接関係がない採用であっても、全員、採用候補者と一度は面談します。また、一般の社員でも、同じ職場で働く人には、必ず、会ってもらう機会を作っています。こちらは面談というよりも、懇談会といいますか、ランチ・ミーティングみたいなものです。こうしたプロセスが一種の拒否権になっていますから、へんな動きをしそうな人はどこかで外されるでしょう。まあ、おかしな人を推薦したら、『あの人は人も見る目がない』とこちらが判断されますからね、けっこう厳しいですよ。社長の私だって、そうそう推薦できないですから。」

「経営者の鶴の一声で採用が決まるわけではないのですね。」

「以前、あるエンジニアを中途採用しようとしたことがありました。テックトレンドに明るく、マーケットにも通じており、技術系とはいえ、弁舌さわやかに語るタイプで、うちのCTOもマーケティング・マネージャーも一目で気に入りました。それで、多少の手続きは飛ばしてでも、すぐに内定を出そうとしたところ、CFOが最低限の手続きは進めましょうと、冷静に言ってくれました。そのおかげで、問題を抱え込まずに済みました。」

 「その人、何かあったのですか。」

「口だけで、実作業が進まず、プロジェクトを投げ出す常習犯だったのです。ただ、以前勤めていた会社でも、なかなかそういうことは言いません。後で調べてみたら、エンジニアのコミュニティでは、知る人ぞ知る問題児だったのです。」

「採用プロセスを進めなくて、よかったですね。」

「反対に、当初は採用されそうになかった人が採用されたこともあります。」

「どういうことですか」

「プログラマーを採用しようとして、学生時代にプログラミングで受賞歴のあった人が来たのです。ただ、マネージャーなどとの面接の結果は芳しくはなかったですね。それで採用しない方向でいたところ、この人の母親の知人であった経理の担当者から『この人は自分の興味があることしか喋らないタイプみたいですけど』と推薦と助言がありました。」

「結局、採用されたのですか。」

「技術担当のマネージャーやCTOと面接を再度行うと、その人の強い分野がはっきりしてきました。その分野の話となると、こちらが太刀打ちできないほどに詳しかったそうです。そうとわかれば、採用しますよ。まして、こちらが強化したいと思っていた分野でしたからね。」

「けっこう、手間と時間がかかりますね。」

「いやあ、合わない人を採用してしまってから、後で苦労するほうが100倍大変ですよ。そうなるとかかるのは、手間と時間だけではありませんからねえ。」

 

 確かに、この社長が言われる通り、下手に採用してしまって後で苦労するより、自社の採用基準を信じて慎重に採用するほうが楽かもしれません。少なくとも、間違った採用で入社した社員が、組織のありかたや職場のカルチャーなどに悪影響を与えるリスクを低減させるほうが、その社員が短期的には結果を出して業績に貢献できるメリットよりも大きいでしょう。

  

作成・編集:経営支援チーム(201661日更新)