ゴミだらけの職場(1)

 ゴミだらけの職場(1)

  

先日、知り合いのベンチャー企業の経営者から相談がありました。相談というよりも、愚痴を聞いて欲しかったのかもしれません。

  

「どうしたんですか、珍しく元気がないみたいですね。」

「やあ、ちょっと、困ったことがあって…」

「何ですか?困った事って?」

「業績が伸びているのはいいのだが、社内がどうも荒れているというか、だらしないというか、整理整頓とか、『たまには掃除のひとつもしろ』なんてことまで、いちいち指示しないとダメなんだよ、うちの社員ときたら。」

「結果が出せば、それでいいはずでは?」

「確かにそうだけど、程度問題ですよ。昨日も、職場はゴミ置き場じゃないって、つい、言っちゃいましたよ。」

「ゴミ置き場?散らかっているんですか?」

「散らかっているというか、夕食か夜食だろうけど、コンビニ弁当やカップ麺の空きがあちこちに転がっていたり、仕様書にコーヒーが掛っていたり、寝袋が三つも転がっていたり、ひどいものだったんだ、昨日は特にね。」

「皆さん、忙しいのでしょう。」

「ああ、ひとつのプロジェクトの山だったのは確かだが、それにしても限度を超えていたよ。」

 「それで、どうしたんですか?」

「誰も片づけないから、自分で処理した。朝から、散乱していたものを拾い集めて、床を掃除して、デスクを拭いて、ゴミを捨ててきた。アルバイトの学生だけだよ、少しは手伝ってくれたのは。」

 

実は、この経営者自身、整理整頓などということは苦手なほうではないかと思います。本人のデスク回りは、書類や本などで混乱しているのが常態です。その彼が嘆くのですから、よほどひどかったのかもしれません。

  

「確か、開発のマネージャーを雇ったはずでしたね。口説き落とすのに、1年くらいかかったとか。」

「ああ、採用はできたが、彼はどうも…」

「何かあったんですか?」

「実は、一番困った存在かもしれないんだ。」

「仕事ができないんですか?」

「いや、技術的な能力は高い、これは間違いないね。でもねえ、仕事の進め方というか、自分の役割とか影響力とか、全く意識してないみたいでねえ。」

「そのマネージャーが散らかし放題の元凶ですか?」

「彼だけがひどいわけではないんだが…周囲の社員がだらしなければ、注意するとか、率先して片づけるとか、見本を見せて欲しいところだけど…まったく、経営者ひとりで全員の面倒を見るなんて無理だろう。少しは、職場全体のことも考えて欲しいよ、マネージャーなんだから。」

「お言葉ですけど、社員がいるとは言っても、10人くらいの会社でしょう。社長が見るしかないのでは?」

「こっちも、大手企業との業務提携やら、VCとの交渉やら、海外ベンチャーとの共同プロジェクトやら、やらなきゃいけないことが次々にでてくるんだよ。エンジニアの採用だって、まだまだやらなければならないし、営業だって、私一人みたいなものなんだから、とても職場の5Sまで、手が回るわけがないでしょう。週に2日もオフィスにいれば、いいほうなんだから。」

 

 確かに、この経営者のおっしゃる通りでしょう。

 とはいえ、このまま放っておいて、一人ひとりの自覚を待てば、自然とちゃんとした職場になるとは、到底、思えません。何らかの手を打って、真っ当な職場に変えていかないと、ゴミのなかから契約書を拾い出すどころか、契約書を紛失したり捨ててしまったりするかもしれません。

 この会社がどのようなカルチャーをもつ組織になっていくのか、今がターニングポイントになっているのかもしれません。

 

(2)に続く

 

作成・編集:経営支援チーム(2016122日更新)