ゴミだらけの職場(2)

 ゴミだらけの職場(2)

  

(1)より続く

 

 ベンチャーに限った話ではありませんが、職場で何か問題がある状況で、それを解決して真っ当な職場にしていこうとする際には、いくつかのアプローチが考えられます。

  なかでも、5Sの徹底のように、掃除や整理整頓を掛け声だけでなく、日常の習慣にしていくためには、上から指示を出したりマニュアルを整備したりするくらいでは、なかなか実行されません。そこで、通常は次のような方法が取られるものと考えられます。

 

①リーダーが率先垂範する

②下士官的なキャラクターの人が他の社員の尻を叩き続ける

③ゲームの要素をもった仕組みで動かす

④公式化・ルール化して強制する

⑤外部業者に全面的に任せる

  

「社長、たとえばですけど、午前中から出社されるときだけでも、ご自分で掃除や机周りの整理とかを、率先垂範してみせるというのはいかがですか。掃除といっても、せいぜい5分、10分程度でしょう。できないとは思えませんし、そのうち、社員の人たちも、社長だけにやらせてはまずいとか思って、やってくれるようになりますよ。」

「うちの社員はそこまで気が回るかなあ。それに、なかなか、そんな時間はないよ。いつも分刻みで動いているんだから。」

「実は、昨年、何社かの社長さんの1週間の時間の使い方を、直接、調べてみたんですよ。そうしたら、皆さんお忙しいと言われる通りでしたけど、けっこう、無駄な時間がありました。」

「無駄な時間?」

「ええ。たとえば、社長のところにも、金融機関とか不動産業者とか、いろいろな売り込みがありませんか。怪しい匂いのする儲け話をもってくるブローカーみたいな人もよく来るでしょう。」

「まあ、一応、話くらいは聞かないとね。本当にいいビジネスにつながる情報がないとも限らないからねえ。」

「昨年調べた結果は、そういう時間の90%以上は、全く売上や利益につながっていませんでした。むしろ、マイナスになっていた例もあるくらいです。」

「いやいや、それは結果論でしょう。」

  

ベンチャーでなくても、経営者自らが日常的に掃除や整理整頓をやって見せることがベストでしょう。サービス業や小売業では、社長が朝一番に出てきて掃除をする、という会社も珍しくはありません。

  た、この会社のように、経営者には経営者のやるべき仕事がありますし、そもそもすべての職場に毎日、顔を出すことは不可能です。このアプローチは、経営者自身がある程度は日常的に職場にいることが、最低限の条件になります。

  

「やはり、難しいですかねえ……ところで、管理部門で実務ができる人が欲しいと言われていた記憶があるのですが。」

「ああ、その件ね。経理担当で会計処理や予算・決算・税務をメインにして、できれば総務も手伝ってほしいんだ。」

「確か、管理業務を一手に引き受けていらっしゃった方が…」

「ああ、彼女はもうすぐ辞めるんだ。夫の転勤についていくそうだ。当面は、派遣社員で何とか対応するつもりだが、誰かできる人はいないかな。」

「後任の方を採用されるのでしたら、採用基準に“下士官的なキャラクター”というのを是非、入れておいてください。」

「“下士官的なキャラクター”、何ですか、それは?」

「“下士官的やキャラクター”というのは、ブートキャンプ(新兵訓練施設)における“鬼教官”とか、伝統的な日本の企業社会においては“お局様”といわれてきたようなタイプの人材のことです。やり方を教えるというよりも、できる(習慣として定着する)まで、その時その場で口うるさく教え諭すことが自然と身についている人です。」

「そんな人、いますか?」

「伝統的な大規模な組織で育てられた人の中には、一定の割合で、こうしたキャラクターの人は存在します。ただ、このタイプの人材は減ってきている気がします。昔なら、どの職場にも必ずいたものと思われますが、近年は、伝統的な大企業や官庁などでも、少なくなってきているようです。」

「うちみたいなベンチャーに来てくれるかな。」

「もちろん、必ず採用できるというわけではありませんが、オフィスにいつもいる社員を採用する予定がおありでしたら、実務の経験や能力とともに、既にいる社員どころか、オーナー社長であるあなたにも、『ちゃんと整理整頓しなさい』と平然と言えるキャラクターも、採用基準のひとつとして明確に意識されてはいかがですか。」

「いたら、いたで、うるさそうだね。」

「それが狙いです。5Sなんて、自然に定着するわけはありませんよ。口うるさく指摘する人がいて、はじめて少しは実践できる程度では?」

「まあ、ちょっと言ってできるなら、いま困っていることもないはずだね。」

 

 この会社に限った話ではありませんが、やはり、①リーダーが率先垂範する、②下士官的なキャラクターの人が他の社員の尻を叩き続ける、というのは、できれば効果が大きいのですが、なかなか実現可能な状況を作り出せるものではないようです。

  経営再建のようなミッションであれば、新たに乗り込んできた経営者が、自らゴミ拾いや雑巾がけをして見せることで、社員の心を掴むというアプローチを意図的に取ることもあるでしょう。それ以外の場合は、なかなか経営者の習慣から変えていくことは容易でないものと思われます。

  また、下士官的なキャラクターを体現できる人材というのも、創業メンバーの中に、たまたま存在するケース以外は、うまく機能しないことのほうが多いかもしれません。後からベンチャー企業に参画してきたメンバーが、細々としたことを言うとなれば、周囲の社員から無視されたり「あなたはベンチャーに向かない」と経営者にダメ出しをされたりしそうです。

  

(3)に続く

 

                 作成・編集:経営支援チーム(2016213日更新)