従業員番号が一桁ということ(後)

従業員番号が一桁ということ(後)

 

前篇より続く

 

特に、エンジニアなど専門的な知識や経験が必要な職種では、起業したばかりの会社では、経営者自身の人脈や従業員からの紹介が、質的にも量的にも、最も確実に人材を獲得する手段であることがあります。

こうした場合、経営者自身や紹介者となるべき従業員の人脈や評判が、採用を左右することにもなります。近年は、SNSなどの活用により、こうした紹介採用がより活発になってきているようですから、特に注意が必要です。

ここでも、従業員番号一桁の社員の質が、その後に採用される社員の質を決定づけることになりがちです。極端なケースでは、従業員番号一桁の社員がもっているコネクションで、芋づる式に採用した社員で構成される会社になることもあります。だからこそ、創業経営者としては、最初期に採用する社員の質に、こだわりすぎるということはないでしょう。

 

もちろん、創業期に採用した従業員がすべてその会社に必要であり続け、事業の成長に貢献できるわけではありません。もしかすると、創業期に採用した社員の大半は、事後的に見れば採用に失敗したと言わざるを得ないかもしれません。

というのも、採用する経営者自身が、どのような従業員を採用すべきか、きちんと把握しきれていないことが少なくありません。また、採用しようとしている時点では人材要件がはっきりしているつもりであっても、採用後には事業も組織も次々と変化するのが通例ですから、そうした変化に採用した従業員がついてこられないといったことも、よく起きる現象でしょう。

 

なかには、採用する経営者に基本的な採用スキルがないために、しなくてもよい失敗をしているケースも、実はよく見られます。

たとえば、次のようなことがあれば、失敗は必然といえるでしょう。

 

・応募書類の形式的なチェックを怠っている

(特に履歴書や職務経歴書のチェックすべき要点を見過ごしている)

・他社から転職してくる人のレファレンスチェックを怠っている【注1

・採用のデュープロセスを無視してしまう【注2

(役員全員の面接を段階的に行うはずが実行されていないとか、スキルや基本的な業務知識を判断するのに必要なペーパーテストを実施しないなど)

・労働条件など詳細が決まっていないため、応募してきた人に合わせて労働条件を安易に変更してしまう

・経営者自身が忙しいので、面接などで合意したはずの事項が記録として残っていない

(採用された人から見れば、雇用契約書の個別の内容など、自分の都合に合わせて解釈し判断しがちなため、入社後に経営者と従業員の間で齟齬が生じて、トラブルになることも珍しくはない)

・スキルチェックが無意味になってしまう

(経理で採用する予定が、いつの間にか営業要員として採用することになっているなど)

・そもそも、面接すら行わずに採用してしまう【注3

 

 こうしたことも十分に起こりうるのが、ベンチャーや中小企業だ、と言ってしまえば、それまでです。そこで、いきなり正社員として採用することは避けて、パートタイマーやアルバイトとして採用して、適宜、正社員化していくといった方法をとる会社もあるでしょう。

このときに、雇用形態に関係なく、従業員番号を通しで割り当てておくことで、採用した順番がわかるほうが、後々、採用の経緯などを含めて人材管理を行いやすいでしょう。

当初はパートタイマーやアルバイトとして採用した従業員であっても、正社員から管理職、さらには役員や経営者に成長していくことは、ベンチャーや中小企業が成長していくのに不可欠な要素です。従業員本人の基本的な能力の高さ、環境変化に柔軟に対応する資質などが開花するのに、会社自体の成長やそれをリードするチャンスがあるというのが、ベンチャーだ、ともいえます。

要は、従業員番号一桁の人が、そうしたチャンスを活かして成長する人材かどうか、最初期の採用から創業経営者の見識と能力が問われるといえるでしょう。

 

【注1

職種によっては、SNSや転職関連のサイトから、応募してきた人のレピュテ―ションをある程度は評価することができるものもあります。また、経歴確認サービスを行っている会社(サーチファーム・ジャパン株式会社など)もあります。

 

【注2

スーザン・ウォジスキ(“ウォシッキー”という表記のほうが日本語の記事や文献では多いかもしれません)は、L.ペイジとS.ブリンの知人で創業当初のグーグルに場所と資金を貸していたそうです。その後、正式にグーグルに入社することになりますが、その際にも、創業経営者たちの採用面接を受けていたそうです。

以上は、「ワーク・ルールズ! 君の生き方とリーダーシップを変える」(ラズロ・ボック著、鬼沢忍・矢羽野薫訳、東洋経済新報社刊)121ページ、および、Gigazine 2015122日配信記事よりまとめました。

ちなみに、S.ウォシッキーのインタビュー記事(「『産休5回』は当たり前 YouTube女性CEO スーザン・ウォシッキーの主張」Forbes JAPAN 2015112日配信)によると、アメリカのIT業界においても、女性が活躍する事例はまだまだ少ないようです。

従業員番号一桁(実際には17番目ですが)の中から、IT業界における女性のキャリアのロールモデルともいえそうな人物がこうして現れるあたりに、グーグルの強さの一端が見て取れます。

 

反対に、こうしたデュープロセスを省略して、友人や知人を入社させ、その後トラブルになったケース(たとえば、金を持ち逃げされたとか、勝手に登記を変更したとか、別の会社を経営して競合状態になっていたとか)は、ベンチャーや中小企業の経営に携わっている方ならどなたでも、きっと見聞きしたことがあるでしょう。

 

【注3

特に応募者が海外にいるなど、直接会って面接を行うのが難しい状況もよくあります。こうした場合、チャットやテレビ(ビデオ、ウェブ)会議などのツールを使って、面接を行うことが望まれます。その際に、経営者一人だけではなく、採用に関与すべき他の役員などもいっしょに面接を行うほうが、複数の目で見て判断できるので、より望ましいでしょう。

 

作成・編集:経営支援チーム(2015114日更新)