オワハラに陥る前に(4)~せっかく採用した社員を活かさないのは、もったいない

オワハラに陥る前に(4)~せっかく採用した社員を活かさないのは、もったいない

 

(3)より続く

 

いくら採用活動に注力し、内定者を無理やりにでも確保できたとしても、入社させた社員を定着させて戦力化できなければ、採用した意味がありません。そのためには、内定や採用にばかり注力するのではなく、内定後・入社後にこそ、注力すべきでしょう。

そこに着目して離職率を低下させることに成功した企業もあります。

 

採用した社員を定着させて戦力化できるように、社内の体制、特にワークスタイルや人事の仕組みを変えていくことで、離職率を低下させることに成功した企業の著名な例として、サイボウズがあります。(以下、同社に関する記述は、サイボウズHPhttp://cybozu.co.jp/company/workstyle/)及び【注】に記した参考記事によります。)

 

サイボウズでは、10年ほど前までは、100人に満たない社員数で退職率が20%を超えることも珍しくはありませんでした。現社長の青野慶久氏が社長に就任した2005年以降、「より多くの人が、より成長して、より長く働ける環境を提供する」というポリシーのもと、ワークスタイルを変革する施策を次々に実現してきました。その結果、退職率は5%を切り、社員数は300名(グループ全体では500人)を超えています。

もともとは、高い離職率を下げることが、採用や教育に要するコストや時間を低減することになり、企業経営上、経済合理性が高いという発想からスタートした、サイボウズの人事改革だったようです。実際に改革が進むにつれて、変わっていったのは、人事制度というよりもワークスタイルや企業のもつカルチャーだったようです。

 

青野社長の頭には「グループウエアで世界NO.1になること」というビジョンを実現するには、どうしたらよいのか、そして、そのためにはグーグルやマイクロソフトといったグローバルな競争相手と伍していくには、どうすべきか、という命題が絶えず存在しているようです。

こうしたビジョンを実現するには、能力の高い人材が必要であると同時に、1人の力だけでは実現できないことは自明です。したがって、チームワークとモチベーションを高いレベルで実現できている必要があります。

そこで、単に仕事を頑張るだけの会社から、社員それぞれの事情に応じてより高く能力を発揮する会社に変わっていくことになります。多様なワークスタイルを実現するというよりも、100人いたら100通りの働き方がある、という発想にいきついたのが、サイボウズのようです。

 

基本となる企業文化として、「公明正大」「自立と議論」「率先垂範」「ルールより目的」を掲げるサイボウズですが、その通りに実践しているからこそ、言葉だけでなくカルチャーとして生きているのでしょう。

言い換えれば、会社のルールに縛られて不満を言うだけの社員ではなく、社員本人が自ら言いだして提案し、他の社員や役員を説得していく、自立した社員であることも求められるカルチャーとなっているようです。

 

もともとワーカホリックを自認していた青野社長自らが、育児休暇制度をとったり、その後は短時間勤務で夕方早く子供を迎えに行ったりするなど、フレキシブルなワークスタイルに変えることを実践しています。もちろん、一般の社員でも、そうしたワークスタイルを実践しているそうです。

ここには、従業員だから役員だからといった、会社のルールでありがちな、身分の違いを意識させるものが見当たりません。

 

サイボウズでは、さらに自由な制度もあります。

育自分休暇制度と再入社パスポートは、他社に転職したり、留学や大学院などで勉強し直したりする社員に対して、サイボウズ以外の社会を経験して再度、サイボウズで働きたいと思えば、再入社できる制度です。一度、退職した社員が戻ってきて再度、入社している企業は、例外的に存在はしましたが、それを制度化している例は、なかなか見出し得ないでしょう。

また、副業も原則自由化するなど、捉え方によっては離職率を高めるような仕組みすら導入しています。

 

こういった例を見ると、内定を断ってきた学生に、御縁があった記念に「次回入社(予定)証」のような記念品?を渡すくらいの会社でないと、働く人から支持されない時代かもしれません。

ましてや、オワハラをしてしまう企業とサイボウズのような会社と、どちらで働きたいか、と問われれば、就活中の学生でなくても、既に社会人となっている人でも、サイボウズのような会社を選ぶ人が多いのではないでしょうか。

 

ただし、学ぶべき点は、そうした表面的な人事施策ではないでしょう。人事施策を生み出してきたプロセスや、そこにおける社員個々の関わり方こそ、学んで真似るべきポイントでしょう。

いかに社員を活かすのか、そのためには組織をどのように運営していったらよいのか、経営者も社員も真剣に考えて、お互いに意見を出し合う、そういうカルチャーこそ、学ぶべき点ではないでしょうか。

 

カルチャーを変えるというと難しそうに聞こえますが、決して、そんなことはありません。数万人の従業員を抱え、グローバルに展開する大企業ならまだしも、そうでない企業では、経営者や役員などの核となる社員の動き方が変われば、すぐに職場のありかたやワークスタイルも変わるでしょう。

まして、小規模な企業であれば、経営者個人のワークスタイルが変われば、会社全体のカルチャーが変わらないはずがありません。昨日まで実行してこなかったことを、今日から実行するようになれば、それで社員の働き方が変わり始めるでしょう。そうしたワークスタイルの変化が、社員一人ひとりが経営や人事を自分のこととして関わる契機となり、オワハラなどをなくしていくことにも、結局はつながるでしょう。

 

もし、オワハラをしそうになったら、ちょっと考えてみてください。

オワハラをするくらい、有能で期待できる人材であるとすれば、今回は縁がなかったとしても、将来、どこかのタイミングで、所属する組織は違っても、いっしょに仕事をすることがあるかもしれません。

このコラムの第1回にも書きましたが、大卒新卒入社の3人に1人は、3年以内に辞めてしまいます。就活中の学生が4月に入社した会社のことを、すぐに失敗したと後悔することも珍しくはないのです。それからでも、人材として採用するのに遅いことは、決してないでしょう。

むしろ、その際に、再度選ばれるに値する企業である、と断言できるカルチャーやワークスタイルを実践できているかどうか、絶えず自社の状況を見直して改善していくことが、企業にとって望まれることでしょう。

 

【注】サイボウズに関する記述について、参考としたネット配信記事は以下のとおりです。

 

「職場環境劣悪だったITベンチャー、なぜ離職率激減?再入社可、副業自由、社長も育休…」

Business Journal 713()61分配信

 

「サイボウズは本当はいい会社じゃない」

nikkei BPnet 715()2251分配信

 

「サイボウズが新オフィス公開『新しい日本人の働き方を示したい』」

Impress Watch 85()1150分配信

 

青野慶久(サイボウズ社長)・篠田真貴子(東京糸井事務所CFO)対談前編

「会社は何のために存続させるのか」

ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー2015818

 

青野慶久(サイボウズ社長)・篠田真貴子(東京糸井事務所CFO)対談後編

「人事制度は社員を縛るためのものではない」

ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー2015821

 

作成・編集:調査研究チーム(201597日更新)