日本は休みが少ない?(3)

日本は休みが少ない?(3)

 

(2)より続く

 

前回、積み残した課題から考えたいと思います。

すなわち、フランス並みに年間30日というように今よりも多くの日数を有給休暇として付与したとしても、それだけでは有給休暇を十分に取得できることが担保されているわけではありません。付与する制度だけ整備しても、運用実態が伴わないと思われるところに課題がありました。

 

一方、週休日以外の休日(祝日等)を多くすることで、年間の休日日数を増やし、労働時間を減らそうとしても、現実に休むことが可能な体制が整備されて、休日・休暇を取ることが是とされるカルチャーが醸成されない限り、むしろ休日出勤が増えたり、特定の社員に労働負荷が過剰にかかったりすることが予想されます。これが、いわゆるブラック企業が出現してしまう、日本の特徴として指摘できる課題でもあります。

休日とはいいながら、社員対象の研修を土日や祝日に実施したり、プロジェクトチームの合宿ミーティングを連続した休日に行ったりすることは、珍しいことではありません。

特に、取締役や執行役員など、従業員の身分から外れた元・従業員の上司に直接仕える管理職ほど、休日は事実上ない、という企業を目にすることは実に多いと言わざるを得ません。

 

こうした現実を改善していくには、たとえば、経営者団体がまとまった休日・休暇を取得することを奨励するとか、目標とする所定の日数を超えて休暇を取った経営者を表彰するなど、やはり経営トップから休暇を取ることに積極的な姿勢を見せることが不可欠ではないでしょうか。

男性社員が育児休暇や介護休職などを取得する場合も同様ですが、経営トップや役員などの幹部クラスから率先垂範していかないと、従来のワークスタイルや労働観を変えていくのは、なかなか難しいでしょう。

 

そうしたことを可能とするには、単に経営トップが休暇を取ればいいというだけでは不十分でしょう。一定の期間であれば、上位者がいなくても仕事が回っていくように、組織全体の業務体制を整備しておくことが求められます。

言いかえれば、仕事のやり方、業務運営の仕組み、組織や人員の構成など、これまでは効率的で良いと評価されてきたものほど、大きく変えていくことが重要です。特に、「余人をもって替え難し」という社員こそが人材、という人材観から脱却することは最低限、必要なことでしょう。多くの場合、こうした人材観は、業務の標準化に投資することを忘れた経営を正当化するだけの言い訳に過ぎません。

 

本当に「人材投資を重視している」とか「社員を人財として活かす」というのであれば、休日・休暇にせよ、研修・自己啓発にせよ、経営幹部や将来を期待する社員の不在な状況が少なくとも1ヶ月程度は生じても、それが計画的なものであれば、大きな問題は発生しない程度に仕事のやりくりができないようでは、活用法からみたその企業の社員観は、人材でもなければ、ましてや人財でもない、と断言できるでしょう。

休日は肉体的な疲労を回復するのに必要なのに対して、休暇は精神的な疲労に対して不可欠と、一般的に言われるようですが、そのことを理解しているのであれば、経営幹部や将来を期待される社員ほど、精神面の再投資を定期的に行わせることが不可欠です。もちろん、さまざまな業務スキルや肉体的な面への再投資に必要な時間も、同様に重要であることは言を俟ちません。

 

前回、有給休暇の取得状況に業種別の差があることを述べましたが、ビジネスモデル上、または、法規制上、業務を標準化しておかなければならない企業や業態ほど、休日・休暇を取得しやすいのかもしれません。また、仕事がプロジェクト単位で動くものであれば、プロジェクトの切れ目にまとめて休暇を取ることも可能でしょう。

とはいえ、これらの特徴をもつ業務でないからといって、「余人をもって替え難い」業務ばかり、というのでは組織の意味がありません。また、仕事をする社員本人も、休暇も取れないのであれば異動させることなどありえませんから、いつまでも同じ仕事を担当し続けることになります。これこそ、その人の人材価値を高める機会を奪っているという点で、人材投資や人財といった考え方から、最もかけ離れた処遇をしているといわざるを得ません。

 

これは大企業に限ったことではありません。むしろ小規模な企業ほど、休日・休暇を取らないリスクを、より真剣に考慮すべきでしょう。小さな組織ほど、経営トップが過重な勤務体制に陥りがちで、「休みなし」自慢をする場合もよく見られます。しかし、過労からくるであろう、さまざまなミスや健康上のトラブルこそ、経営上、最大のリスクではないでしょうか。

スタートアップから1年程度の企業でもない限り、仕事の組み立てや分担、スケジュール管理、ある程度の標準化など、組織として機能する上での約束事やルールが自然発生的にでも、できているでしょう。その中に、経営トップを筆頭に、社員全体が計画的に休日・休暇を取得するための工夫があってもいいでしょう。

 

このように考えてくると、休日・休暇の問題は、実はその企業が社員をどのように見ているのか(社員観)が、本音で表れているテーマなのかもしれません。

 

(4)に続く

 

作成・編集:調査研究チーム(2015727日更新)