日本は休みが少ない?(2)
日本の特徴として、週休日以外の休日(祝日等)が多い半面、有休休暇の付与日数が少ないことがあります。そして、付与日数が少ない有給休暇の取得率が低いことも、年間休日が少ないことにつながっています。それはまた、長時間労働の一因ともなっているようです。
なぜそうなっているのか、まず、制度的な面から考えてみましょう。
第一に、有給休暇の付与日数の上限が他の国々より低い(20日)ことが指摘できます。
1年について付与される有給休暇が30日という国も珍しくないなかで、20日は少ないと言わざるを得ません。もっとも、30日も付与されても、現実に取得できる日数が増えなければ、宝の持ち腐れという声もあるでしょう。この点は、次回、検討してみましょう。
また、非正規社員の有給休暇の付与日数が、実態として少ない可能性もありそうです。
第二に、前年に取得した有給休暇の日数を100%消化しきれない場合、翌年に持ち越した有給休暇を優先的に消化するため、当年に付与された有給休暇を消化する率が下がることがあります。
つまり、同じ日数の有休休暇を取得したとしても、見掛け上は、取得率が低くなることがあります。特に、有給休暇の付与日数が20日となる対象者の多くは、全ての日数を消化できずに次年度に持ち越すことが多いのではないでしょうか。
第三に、30年ほど前から導入されているにもかかわらず、未だに4分の1程度の企業でしか実施されていない、計画的付与制度の問題があります。
表3:年次有給休暇の計画的付与制度の導入状況と有給休暇の取得状況
計画的付与制度の有無 |
規模計 |
1000人以上 |
30~99人 |
|||||||||
付与日数 |
取得日数 |
取得率 |
付与日数 |
取得日数 |
取得率 |
付与日数 |
取得日数 |
取得率 |
||||
全産業計 |
有 |
23.6 |
19.3 |
10.4 |
53.9 |
20.1 |
11.8 |
58.7 |
17.7 |
8.5 |
48.2 |
|
無 |
76.4 |
18.1 |
8.3 |
45.8 |
18.9 |
10.0 |
52.8 |
17.4 |
7.0 |
40.4 |
||
鉱業 |
有 |
11.2 |
17.8 |
9.2 |
52.0 |
- |
- |
- |
17.6 |
10.4 |
58.9 |
|
|
無 |
88.8 |
18.6 |
11.3 |
60.8 |
18.8 |
13.1 |
69.7 |
18.0 |
9.3 |
51.4 |
|
建設 |
有 |
26.1 |
18.8 |
7.9 |
42.3 |
18.7 |
7.5 |
39.9 |
20.1 |
8.7 |
43.5 |
|
|
無 |
73.9 |
18.0 |
7.0 |
38.9 |
18.8 |
6.6 |
35.0 |
17.3 |
7.0 |
40.6 |
|
製造 |
有 |
27.1 |
19.7 |
11.5 |
58.2 |
20.5 |
12.8 |
62.6 |
17.8 |
9.2 |
51.6 |
|
|
無 |
72.9 |
18.5 |
9.2 |
50.0 |
19.6 |
11.2 |
57.5 |
17.6 |
7.4 |
42.4 |
|
卸売 |
有 |
24.6 |
19.4 |
8.6 |
44.1 |
20.0 |
9.7 |
48.5 |
18.7 |
6.3 |
34.0 |
|
|
無 |
75.4 |
18.0 |
6.8 |
37.7 |
18.6 |
7.5 |
40.5 |
18.1 |
6.7 |
37.0 |
|
小売 |
有 |
18.7 |
18.2 |
7.6 |
42.0 |
17.0 |
8.4 |
49.4 |
16.2 |
10.4 |
64.0 |
|
|
無 |
81.3 |
17.1 |
4.8 |
28.4 |
17.5 |
5.1 |
29.5 |
16.1 |
5.1 |
31.7 |
|
金融・保険 |
有 |
41.7 |
20.0 |
11.0 |
54.9 |
20.1 |
11.2 |
55.8 |
18.7 |
9.1 |
48.5 |
|
無 |
58.3 |
19.7 |
9.7 |
49.2 |
20.3 |
10.5 |
51.6 |
17.8 |
8.0 |
44.9 |
||
宿泊・飲食 |
有 |
22.3 |
16.7 |
7.7 |
46.1 |
17.7 |
6.5 |
36.5 |
18.7 |
7.6 |
40.6 |
|
無 |
77.7 |
16.7 |
6.5 |
38.9 |
17.0 |
7.7 |
45.2 |
16.8 |
6.9 |
41.2 |
||
生活関連 |
有 |
17.5 |
16.0 |
7.0 |
43.7 |
17.1 |
7.6 |
44.8 |
13.3 |
7.2 |
54.2 |
|
無 |
82.5 |
17.2 |
6.0 |
35.0 |
17.3 |
6.0 |
34.8 |
17.5 |
6.0 |
34.1 |
||
(注)厚生労働省「就労条件総合調査(平成26年)」よりQMSにて作成
有給休暇の計画的付与制度の有無および有給休暇の取得率は%、付与日数および取得日数は1人当たりの平均日数(ただし前年よりの繰越日数は含まず)。
サービス業については、最も計画的付与制度の導入率が高い「金融・保険」と最も低い「生活関連サービス・娯楽」、その中間に位置する「宿泊・飲食サービス」をピックアップした。
この表から、いくつかのことが読み取れます。
まず、有給休暇の計画的付与は、企業規模の違いよりも業種による違いの方が大きく影響していることです。
同じ流通業といっても、卸売業のほうが小売業よりも計画的付与制度が導入されています。その理由は、法人間取引の卸売業は、取引相手も含めて統一的に休日・休暇を取得しやすい業態といえるからでしょう。小売業は、一般消費者を相手にする業態のため、世間一般が休日のときでも店を開ける必要性もあります。
同じサービス業といっても、金融・保険と生活関連サービスは、大きく違っています。金融・保険で計画的付与のない場合でも、取得率が49.2%となっているのに対して、生活関連サービスでは計画的付与があっても取得率は43.7%となっています。有給休暇の付与日数が前者の方が多いことを併せて考えると、金融・保険は代替要員が最も充実し整備されているのではないか、と思われます。生活関連サービスは小売業同様の事業運営が予想され、計画的付与を行ったとしても、非正規社員をやりくりして対応するのが精一杯ではないか、と想像されます。
建設業を見てみると、規模が小さい企業の方が付与日数も取得日数も高い傾向があり、計画的付与を行っている小規模企業の取得日数が8.7日と、業界全体や大手企業よりも明らかに高くなっています。賃金だけでなく、休日・休暇といった労働条件も良くしないと、なかなか人材が集まらないのではないか、と考えさせる結果です。
全体として、計画的付与制度がある企業の方が、有給休暇の取得日数も取得率も高くなっており、計画的付与が有給休暇を取得するのに、一定の効果があることも示しているといえそうです。
制度的な面だけで問題を解決しようとして、たとえば、有給休暇の有効期間を当年度だけとして繰り越しを認めず、消化できなかった日数分は会社に買い取らせるとか、有給休暇付与日数の上限を30日に引き上げるなどして、仮に休日・休暇が欧米並みに制度化されたとしても、それだけでは、実際に取得される休日・休暇の日数が増えたり、労働時間が目立って減少したりするといったことには、容易には至らないでしょう。
また、計画的付与制度をさらに進めて、強制的に有給休暇を取得させたり、取得しきれなかった有給休暇を懲罰的な割増率で会社に買い取らせたりすれば、表面的には、休日・休暇の取得日数が増えて、総労働時間は減少することになるでしょう。有給休暇の取得率を人事評価の一つの基準としても、ヤミ休日・ヤミ休暇(記録上は休日・休暇であっても、実際には自宅などで非公式に働くこと)が増えることが危惧されます。
多分、制度的な面だけで強引に休日・休暇を増やすと、その反動が別のところに出ることになりそうです。そこで、組織運営やワークスタイルなど、職場の運営や人事制度の運用等の面における問題にも取り組むことで、有給休暇本来の趣旨どおりに、その取得を促進する必要があります。
作成・編集:調査研究チーム(2015年7月21日更新)