評価の不満を解消するには(3)

評価の不満を解消するには(3)

 

(2)より続く

 

第四の問題として、評価者個々の問題以外にも、評価制度の運用があまりうまくいっていないケースがあります。

部門や職種の間で評価結果に著しい偏りが出現したときに、人事部門で評価結果を機械的に変更してしまうとか、人事の部課長レベルで最終の評語を個別に書き直してしまうなど、人事部門が見えないところで評価結果を左右してしまっては、現場は困ります。

評価者が社員本人にフィードバックした結果と処遇が合っていなければ、社員は評価者や会社全体への不信感をもつのが当然です。といって、評価者が自分の判断した評価結果を本人にフィードバックしないのでは、評価をして社員本人のレベルアップを図ることができません。

もちろん、人事部門は、評価者の個別的な問題(評価のクセや偏りなど)があれば、それを是正するのが仕事です。

 

こうした問題に対しては、管理職研修などを通じて評価制度の考え方を理解し社員に伝えてもらうのが筋ですが、限界もありますし、即効性も期待できません。ときには必要に応じて、徐々に評価者を入れ替えていくこともありえます。

評価者自身に自分の評価の課題を自覚してもらうには、評価者全員を一度に集めることができる程度の組織規模であれば、実在者シミュレーションという手法がよく知られています。

これは、研修参加者の多くがある程度知っている実在の社員もしくは上長に当たる人(役員でも良い)について、実際に使っている評価制度のツール(評価マニュアルや評価票など)で、事前に評価を行って、その結果を持ち寄って、参加者全体で議論するといった方法です。

大企業では、これまでの評価結果から評価者個々の特徴や癖を分析し、その結果を個別に追跡調査を行うなど、よりシステマティックな方法で対応することが望まれるかもしれません。

 

通常の評価だけでなく、たとえば、人事異動や昇進・昇格の前後といった人事上のタイミングについても、評価の取り扱いが議論になることがあります。特に未経験な職種・事業部門への異動直後は、本人からすれば、いきなり結果を求められても無理といいたいでしょうし、上長や周囲から見れば、例外扱いはおかしいと思うかもしれません。

こうした評価制度の運用面における不満は、基本的なルールはルールとして説明し周知していくことが重要です。その上で、できれば評価の基準や結果をオープンにして、運用の実態を会社全体のレベルで、評価をした本人や評価対象の社員が理解していく機会を設けるといった方法もあります。

もちろん、制度面での不備や不十分な点があれば、いつでも手早く評価制度の改善をしていくことは、改めて言うまでもないことです。

 

第五の不満は、経営トップや役員などから聞かれるものです。

適切な評価やフィードバックがうまくできないといった管理職(=評価者)の個別の質的な問題や量的充足度の問題をはじめとして、社員の中から、これはという有能な人材が発掘・育成できないなど、評価制度が経営の役に立っているのかどうか、という問題が提起されることもあります。

 

これらは、結局のところ、マネージャーのレベルアップができていないということを評価という場面で確認しているにすぎないことが圧倒的に多いようです。したがって、対策としては、組織的にマネジメント・ディベロプメントを行うことになります。

言い換えれば、経営者が自ら率先して役員や上級管理職(できれば管理職やその候補者まで)を直接、評価・育成する機会をもつことが、解決策の第一歩といえます。経営トップが自分の時間を、少なくとも2割程度は、幹部人事に使うようでなければ、なかなか対応できないのではないでしょうか。

経営者の方々のタイプにもよりますが、なかには全く人事に興味や関心がない人をお見受けすることが、時にはあります。そうした場合には、管理部門の責任者とかトップに次ぐNo2の立場にある役員の方に、そうした役割を果たしていただくことが望まれます。

 

具体的には、たとえば、人事委員会とか人材開発委員会といった、人事部門が事務局となり主要役員が直接意思決定に参画する組織体を設けて、その場で個別の幹部人事を議論し、決定するといった方法があります。

この組織体は、名称は何でも構いません。定例の役員会のなかで事前にスケジュールを決め、議題を幹部人事や次世代幹部候補の発掘などに絞って、半日から1日程度、一定の時間をかけて、評価や個別の人事案件を検討・決定する場として運営するといった、やりかたでもいいでしょう。

運用上のポイントは、公式化するということと、そこでの議論の結果が実際の昇進や配置転換につながるという現実を見せることです。一定規模以上の企業では、ブラックボックスとなっている人事(特に評価や昇進・異動など)を、こうした形で、できるだけ目に見える方向にもっていくことが、評価への不満を解消する鍵ともなるでしょう。

 

(4)に続く

 

作成・編集:人事戦略チーム(201563日更新)